第4話 「うん、君は生きているよ」
ということで、モンスター狩りを始めるわけだが...
「ここはいったいどういった場所ですか?」
俺はミレイナさんと騎士団の関所に入り、大きめの会議室のようなサイズの部屋に案内された
「訓練場だよ、いきなり遺跡や開拓地へ行くわけにはいかないからね」
「騎士団が養殖してるモンスターが出てくるからそれをどんどん倒すのさ」
やっぱ手厚いなぁ、合宿免許でも受けているような気分だ
異世界教習所的な?
「そろそろモンスターと対面しようか」
ミレイナさんが部屋の壁に埋め込まれてる水晶に手をかざすと、中央に紋章のようなものが浮かび上がった。
いったいどんなモンスターが出るのやら...
スライムとかかな?
『キュー』
そこには猪サイズのウサギが居た
思わずミレイナさんの方を振り返り、確認をしてしまう
本当にこれと戦うんですかね?的な視線を彼女に送った
ミレイナさんはいつものドヤ顔とは違い、眉一つ動かさずに真面目な顔でこちらを見ていた。
その表情を見て、改めてこのウサギがモンスターなのだと実感する
改めてウサギを観察してみた。
体毛越しでも解る異常なまでに発達した後ろ足がある。
こちらの観察する様子にウサギも感づいたようでこちらを凝視し始めた
するとウサギは、前歯をカチカチと鳴らし威嚇を始めた。
徐々に全身の毛が逆立をはじめ、目が血走っている
完全にこちらに敵意を向けている
人生でもここまでの敵意を感じたのは初めてかもしれない
目の前にいるのはウサギであり、畏怖の対象ではないはずなのだが冷汗が額ににじむ
背筋には悪感が走る。全身が危険だと告げている
思わず半歩後退りをしてしまった。
次の瞬間、ウサギはこちらを目掛けて跳躍してきた
籠手で顔面をガードしつつ、何とか横に体の重心を逸らし回避を試みた
しかし、完全によけきるには至らず、籠手にウサギの体が掠ってしまった
まるで腕が吹っ飛ばされたかのような衝撃が片腕に走った
掠っただけでガードが完全に崩されたのだ
ヤバすぎる。
あの突進は、トラックの突進に匹敵するほどの威力はある
ウサギと俺は膠着状態に入った
俺は改めて刀を抜き、一挙一動を逃さぬように全身の気をウサギに向けていた。
しかし、どうしたものか
大雑把に見積もってもウサギの突進は高校野球のピッチャーの投球並みの速度が出ていた
カウンターを試してみよう
俺は軽く動いて見せた
するとウサギは先ほどのように突進体制に入りこちらに飛んできた
来ることが分かっていれば避けられなくもない
軽いサイドステップでウサギの攻撃を逸らし、そこに合わせて刀を振るう
「ぐ...」
硬い、刀はウサギの頭蓋骨に当たったようだった
硬いものを叩いたせいか手が痺れる
ウサギはぶるぶると頭を振るっていた
軽く血が出ているものの、ダメージには至っていない様子だ
俺は刀を当てただけであり、切るに至らなかった。
刃物が物を切る原理は押すことではなく、引くことである。
昔包丁の扱いを学んだ時に教えてもらった
多分、刀も同じような原理なのだろう
あのウサギを切るにはどうすればいい...
俺は左手で刀を胸と水平になるように上げ、刀の峰に右腕の籠手を当て固定した。
全身に魔力を巡らせる。
魔力は体に巡らせることによって筋力を上げることができる。
ミレイナさんとの訓練の賜物だ
またウサギを誘い出し、突進を誘発させる
突進が当たるギリギリまでウサギを引き付け、当たる直前で半歩左へズレる
右腕で固定した刀をウサギの半身に押し当てた
ウサギは自分の突進の勢いで刃が体に食い込み、自身の肉を裂いていった
その際に足を負傷したらしく、着地に失敗し地面を転がってしまっていた
ウサギは転んだ衝撃で骨が折れてしまったのか、すでに虫の息となっていた。
血だらけのウサギが目の前に横たわっている
俺はコレを殺さなくてはならない
刃を向けるものの、俺は佇んでしまった
「それ以上苦しませるのかい?」
沈黙を破りミレイナさんが声を上げる
若干の怒気をまとった言葉だった
自分にはウサギの弱点が分からない
骨格も大きいこのウサギを苦しませずどうすればよいだろうか
俺はウサギの目に切先を向け、脳髄まで突いた
血が噴出し若干顔にかかる
ウサギはバタバタと悶えたのちに沈黙した
俺は見届けたのちに刀を引き抜きその場に座り込んでしまった。
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訓練場を後にし、俺はミレイナさんに浴場に案内された。
身体の汚れを洗い流し、浴場を出たところでミレイナさんが待ち構えていた
「初めてにしては上出来すぎる」
「普通は魔法や投擲を駆使して戦うのさ」
「そうすれば、肉を抉る触感なんて感じない、殺生与奪の感覚が鈍くなるんだ」
「でも、私は君に才能を感じていた。だからそれらを教える前に戦わせた」
有難い話だ、こんな自分に才能を見出してくれる
「結果として後味は悪くなってしまったね」
「でも、君がこの世界で生き残るには必要な感覚だ」
「慣れてはいけないよ、忘れずに次は苦しめずに仕留めてあげるといい」
「そのために技を磨きなさい」
手に血肉を抉った感覚がまだ残っているように感じた
簡単に割り切れるようなものでもないが、ミレイナさんが言ったことは正しい
殺生に関して苦しませずに殺す
それは奪うことに対して最大の敬意だと思った
「慰めにしては下手ですね、ミレイナさん」
「軽口が叩けるなら大丈夫だね」
「ところで、今食欲はあるかね?」
「昨日の晩から食事を抜くように言ったから空腹ではあるだろう?」
ミレイナさんからの指示だった
多分、吐くときに苦しまないようにするためのお節介だったのだろうと今では思う
「まぁ、食欲はないですが、食べようと思えば食べれると思います」
「そっか、じゃあ食堂に行こうか!」
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食堂についた彼女は大きな肉料理を俺の目の前に置いた。
「さぁ、食べたまえ」
「君がさっき狩ったオオウサギの肉だよ」
とても美味しそうに調理されていた
「こういう言い方もあれなんだが、食べることも供養だよ」
「生死なんてものは基本は食うか食われるかだ」
「殺して食べないならそれは猟奇的快楽者に過ぎない」
「でも食べるなら、それは生きてる証だよ」
俺は肉を口に運んだ
ちょっと泣きそうだった
「ミレイナさん、美味しいです…」
彼女はにんまり笑って言った
「うん、君は生きているよ」
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