第3話 まずは装備を整えないとね
この異世界に来てから1週間がたった
その間、俺はミレイナさんに魔力の扱い方を受け続けていた
この世界に来て真っ先につれられた場所は転移者専用の宿屋だった。
こちらはかなり原始的なトイレや風呂が用意されていた。
どうやら、この世界では水道や電気などは通っていないらしい
トイレの水を流すにも、魔力を使用して水を生成して流すそうだ
この世界において魔力というものは生活に食い込んでいるっぽい
火も水も光も何をするにおいても魔力を用いて動作させる仕組みだそうだ
なので、生活必需品である魔力の扱い方を勉強することとなったのだが...
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「まずは私が魔力を君に当てる」
「そうすることで君には魔力を直接感じてもらうよ」
「まぁ、耐えてくれたまえ」
「え?耐えるってどういう...」
次の瞬間には2メートルほどぶっ飛ばされていた。
全速力の自転車に正面衝突したような衝撃が唐突に襲い掛かってきたのだ
いきなり内臓をシェイクされたみたいだ
胃液が喉の手前まで込み上げてきて、口の中に不快な苦みが広がった
俺は咽ながらも、何とか立ち上がった
「はぁ...はぁ...、いきなり何をするんですか...」
「おぉ!えらいえらい!」
「立ち上がれるだけでも凄いよ君は」
「異邦人にこれやると大体吐くか気絶するからね」
魔力とやらを体に受けてから異様に体が重い
身体から体力がすっと消えていくような感覚がずっと続いている...
この感覚から推測するに、魔力ってのは炭酸飲料みたいなもんだ
今までは蓋が閉まってたから漏れ出なかった何かが、今は蓋が開いてしまい駄々洩れになってる
呼吸を整え、体に意識を集中しよう
魔力を受ける前と後で変わった何かがあるはずだ
目を閉じ体に意識を集中する。
体の奥底から何か温かいものが溢れ出てくる感覚がした
たぶん、これが魔力なんだ
どうやって閉じるかわからないが、発生源を握りしめるようなイメージをしてみた。
徐々にだが、漏れ出る温かいものが収まってくのを感じる
「ふむ、優秀だね」
「何人も異邦人を見てきたが、一発で放出の制御できる人はいなかったよ」
「はぁ...はぁ...、こっちは割とギリギリなんですけどね」
「ぶっ飛ばされる前の体感と、後の体感を比較して違和感があったので...」
「話してても感じていたが、君は何事にもとても冷静で分析的だね」
「まぁ、異邦人の中でも君は年齢が高そうだし、きっと人生経験の差って奴だろう」
異邦人って平均年齢低いのか?
「いやしかし本当に良かったよ」
「出来るようになるまで魔力の放出を当て続けないといけなかったからね」
「それはこちらも疲れるし、君も胃の中空っぽになってたかもしれない」
「よかったねぇ」
あぶねええええええええ
二発目は確実に吐いてたわ
サンキュー自分、フォーエバー自分
「次何すればいいんですか?」
「切り替え早いねぇ」
「最初に”放出”の制御って言ってたので確実に次のステップあるだろうなぁって」
「正解だよ」
「先に聞いておきたいのですが、痛いのってこれだけですかね?」
ちなみに彼女は勉強を始めたときからずっとニコニコしていた。
そしてまだニコニコしている
「あと二つくらいかな?」
「一緒に頑張ろうか」
今日一の笑みで彼女は言った
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そんなこんなで1週間ぐらいで魔力の扱いが一通りできるようになった。
正直10回ぐらいは吐いたと思う
ミレイナさんは「嘔吐最小記録更新だよ!」とニコニコしてた。
あの人絶対ドSだよ...
そして今は異邦人専用宿ではなく一般宿に泊まっている。
道具がすべて魔力で稼働するため、訓練には良い環境とのことらしい
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今日もまた授業の時間が始まる
「はい、ということで今日はモンスター狩りに行こうと思います」
「早くないですか?まだこの世界で1週間なんですけど」
「君が1ヵ月かかる授業を1週間で終わらせるのが悪い」
あー、仕事でもあったな
早く終わらせるとその分新しい仕事が降ってくる奴だ
「なので、早すぎるけど君にはモンスター狩りをやってもらいます。」
「まずは装備を整えないとね」
「というわけで今日は装備屋さんに来てもらいました」
来てもらったの!?
「どうもー、貴方がミレイナが話してた筋のいい異邦人ね」
気付くと屋台を引きずった女性が建物の奥から出てきていた。銀髪のセミショートヘアーで髪は手入れしていないような跳ねっ毛だ。服装は動きやすさを重視したような軽装だ。
「私は"商人ギルド"所属の移動装備屋のヒイラギだよ」
「よろしくね」
情報量の多い自己紹介だ
そもそも移動装備屋ってなんやねん
「ヒイラギさん、タダノって言います。よろしくお願いします」
「で、僕はここ?で装備を買えばいいんですかね?」
一応ミレイナさんに問いかけてみる
「そうだよ、大体はヒイラギが見繕ってくれるだろう」
「あとお金は要らないよ、支給品だからね」
お金が要らないとは親切だな
「はい、私にお任せください!」
「軽く質問に答えていただければ見繕いますから」
なんというか、性格診断みたいだな
「第一問、貴方は射撃や遠距離の武器を使ったことありますか?」
「いいえ」
「第二問、力は強い方ですか?」
「いいえ」
「第三問、我慢強いほうですか?」
「どちらかというと、はいですかね」
「彼はめちゃくちゃ打たれ強いよ」
「私のシゴキで気絶もしなかったからね」
ミレイナさんが補足してくれた。
打たれ強いわけではないと思うんだがなぁ...
「ふむふむ、なるほど!」
「最後に、痛いのは嫌いですか?」
「大嫌いです」
ニコニコしているミレイナさんを見ながら言った
すると彼女は眼を逸らした
「なるほど、わかりました!」
「はい、これです」
迷いなく数点の武具を取って渡してきた。
内容としては
・日本刀に近い刀
・厚めの皮の服
・籠手
・脛当て
だった
「説明しますね」
「遠距離系の武器は経験ないならまず使えないです」
「なので近接武器となるのです、槍とかメイスなんて選択肢もあるのですが、槍は遺跡のような狭い場所だと扱いづらく、メイスは魔物相手に致命傷を取るにはかなり力が必要になってしまいますので今回は刀となりました」
「頑張って技量でカバーしてください。じゃないと死にます」
辛辣ぅ
「次に防具なのですが、こちらは力がなく・打たれ強いとのことなので、回避性能を落とさずに最低限防御できるような選択です」
「技量で受ける箇所を決めて受けつつ戦うような感じですね」
「なんか技量頼りすぎませんかね?」
「力がないから仕方ないです」
「発掘にしろ開拓にしろ、遠征するなら行って帰ってくるまでが遠征ですからね」
「重鎧でもつけて途中で体力切れしたら目も当てられないです」
「ということで頑張って技量を上げてください」
えぇ・・・
ハードル高いなぁ
「幸いなことに、そこのミレイナは剣の手解きならしてくれますよ」
「任せてくれたまえ!」
話を聞いてたミレイナさんはいつも通りドヤ顔している
なるほど、安心できない
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