やりたいこと
軽い、うめき声を上げながら。頭を押さえ。
G-Force司令にして、綾羽の父親である白銀正継は、自宅のベッドで寝込んでいた。
「
正継の妻、駿河が心配した様子で入室してくる。
「ニュース見て、すっ飛んできたのよ? 大変だったって。」
そう話しながら、ベッドに腰を掛ける。
「ああ、とんでもない強敵だった。思わず、義眼の機能に頼らざるを得ないほどに。」
ズキズキと痛む頭を押さえながら。正継は、熾烈な戦いの記憶を思い返す。
「もう若くないんだし、無理はしないで頂戴ね。」
駿河はベッドの上から優しく正継の体を撫でる。
「パイロットは他にも居るけど、貴方は一人しか居ないのよ?」
「……分かっているさ。」
自分の持つ命の重さ。正継はそれを、分かってはいるつもりだった。
少々、暗い雰囲気となる二人。
すると、それを散らすかのように、スマートフォンの着信音が鳴り響き。正継はそれを手にとった。
「……ユリアくんか。すまない、仕事の電話だ。」
「了解。何か食べ物持ってくるわ。」
話の邪魔をしてはならないと考え。
駿河は部屋から出ていった。
「わたしだ。」
電話に応答し、部下であるユリアとの会話に入る。
『司令。体調はいかがでしょうか。』
「少々頭痛がするが、問題はない。操縦者の二人はどうだ?」
『元気ですよ。次は、きっと勝つでしょう。』
ユリアは自信を込めてそう宣言した。
「そうだといいが。」
しかし正継の中には、拭いようのない不安が存在していた。
『”遠征メンバー”も、任務を終えて帰ってきます。もしも次があるのなら、G-Forceに敗北は有り得ないでしょう。』
「……正直な話、それでも心もとない。」
遠征メンバーとは、G-Forceに所属するGR操縦者の中でも、”主力”に数えられるメンバーであり。その実力は、エレナや身依子といった若手隊員のそれを優に上回る。それが帰還するとなれば、もはや本部の戦力は万全と言っても過言ではない。
けれども正継は、今回の敵を相手取る上で、それでも”足りない”と考えていた。
「黒い機体の、テレポート技術もそうだが。もう一機のGRに搭載されていた武装も無視できる性能ではない。」
確かな実力者である若手二人を、単機で抑え込んでいたグレーのギガントレイス。それもまた、正継の脳裏に焼き付いていた。
『はい。テレポートはもはや”論外”ですが。メルト粒子を、あれほど自在に制御しうる技術も初耳です。』
歴戦の経験を持つ正継やユリアにとっても、今回の敵の武装には目を見張るものがあった。
「技術革新、か。」
進み続ける時間の流れ。正継はそれに、自分が乗り切れているとは思えなかった。
自分という存在の無力さ。”世代交代”という文字が、正継の脳裏をよぎる。
そして、思い出したかのように、正継はその名を口にした。
「”
その名をユリアに尋ねるのは、正継にとっても心苦しいものだった。
『……ユキは、前と変わらず。未だに引きこもったままです。』
ユリアの声色が暗くなる。
『朝から晩までゲームばかりで。困ったものです。』
その言葉には、心配の色が滲んでいた。
「そうか。やはり心の傷は、ままならないな。」
『彼女はおそらく、もう戦えません。あれからブランクもありますし。ギガントレイスなど、もはや名前すら聞きたくないはずです。』
ユリアは、そう断言し。
かつての”戦友”であり。今現在一緒に暮らしている、”困ったニート”の姿を思い返した。
――や、止めてくれッ!
そう、思念が感じられそうなほど。苛烈に。鮮烈に。
けれども操縦者の叫びは意味がなく。機体は無残にも、敵のビームによって貫かれた。
機体が、爆散し。その背面部から、操縦者の生命を保護する脱出ポッドが射出される。
それは操縦者を助け、戦場から遠ざけるはずであった。
だが、しかし。
無情にも放たれた、敵のビームキャノンによって。
脱出ポッドは跡形もなく消滅した。
『1ポイント、やりました~』
楽しそうな、嬉しそうな。そんな声が聞こえてくる。
「貴女、エグいわね。」
チロル大佐こと白銀綾羽は、僚機を動かす
『世界は残酷だと、知ることも大切です。』
共にプレイするプレイヤー、ゆりあん大佐はこの世の真理を説いた。
「あれじゃあ、多分”ロスト”してるわよね。」
『脱出装置などが有っても、完璧ではありませんから。結局の所、確かな実力がなければ、戦場では命取りです。』
「流石に、実戦経験があると違うわね。」
『……実戦経験、ですか。』
二人のGR操縦者は、並み居る敵機を完璧に打ち倒しながら、その会話に花を咲かせていた。
『そういえば、昨日のニュースはご覧になりましたか?』
「さぁ、どうかしら。昨日は色々と忙しかったから、耳に入ってないかも知れないわね。」
綾羽はわざとらしくはぐらかし。
ゆりあんもそんな彼女の意図を読んだ。
『世界トップクラスのセキュリティを誇る東邦刑務所が、謎のギガントレイス2機による襲撃を受けた。こんなビックニュース、久々ですからね。』
「そんな面白そうなニュースがやってたのね。見られなくて残念だわぁ。」
わざとらしい口調で、綾羽は残念がる。
『渦状のビームを放つ機体に加え、まさかまさかの瞬間移動まで。近未来設定のこのゲームも、ずっと高性能な機体が存在するんですね。』
「そんなに便利なものじゃ、ないんじゃない?」
ゆりあんの言葉を、綾羽が否定する。
「多分だけど、機体の操作性はカスで、まともな武装すら積んでないんじゃないかしら。」
綾羽は実体験のように話し。
『あらあら。確かに、それは大変かもしれませんね。』
ゆりあんもその苦労をいたわった。
『ニュースでは、犯行グループの目的は不明とされていましたが。果たして、目的は達成できたんでしょうか。』
「どうかしらね。ゲームと違って、現実には色々な要素が混ざり合っているから。」
綾羽はそれを、とても成功とは呼べなかった。
「それでも、希望は残っているわ。虚構ではなく、しっかりとした現実で。」
切れ味は、少しも衰えること無く。
敵機を次々と斬り刻んでいく。
『ふふっ、そうですか。でしたら、また近いうちに同じようなニュースが見られるかも知れませんね。』
ゆりあんも、そんな声援じみた言葉を送った。
『そういえば、もうじき朝ですけど、学校は大丈夫なんですか?』
ゆりあんに指摘され、綾羽は現在時刻を確認する。
「そうね。じゃあさっさと、殲滅しましょうか。」
その言葉とともに、綾羽は軽々とギアを上げ。
殺戮の刃を振りかざした。
◆
爽やかな朝の道。涼しい風と暖かな日光が、道行く人々の背中を押している。
綾羽と知沙の二人もまた。すでに日常となりつつある朝の道を、仲よさげに歩いていた。
「綾羽さん、最近早起きですね。」
「ええ。毎朝ウルスラに起こしてもらうのも悪いから。」
早起き以前に、そもそも寝てすらいないのだが。綾羽は平気な顔で嘘を付く。
「へぇ。偉いですねぇ。わたしなんて、今でもお母さんに起こしてもらってます。」
「ふふ。お子様なのね。」
気を抜いて、他愛のない会話に花を咲かせられる。ほんの少し前まで、綾羽はこんな生活を送ることになるとは思ってもいなかった。
ニュースにもなっていた、例の一件。あの事件。気になることはいっぱいある。けれども知沙は、そんな話を自分から切り出したりはしない。
「そういえば綾羽さん、やりたい部活は決まりましたか?」
ずっと楽しみにしていたことを、知沙は尋ねる。
「考えてはみたけど、どうにもね。」
今まで一度たりとも、そういった活動に手を染めてこなかった綾羽は、考えようにも限界があった。
「やっぱり、どうせなら見学とかしましょうよ。」
「そうね。まぁ、構わないわよ。」
楽しそうに提案してくる知沙に対して、綾羽も特に異論はなかった。
そうこう話しているうちに。綾羽と知沙の二人は、学校の校門前へと近づいていた。
二人の他にも、多くの生徒達が登校してくる。
「「おはようございます。」」
そんな生徒たちに対して、元気よく挨拶を交わす生徒が数人。
「あ、生徒会の人たちですね。毎日本当に大変そうです。」
朝早く登校し、こうして校門の前に立つ。知沙からしてみれば、とても大変そうに思えた。
「おはようございます。」
元気よく返事を返す知沙。
それに比べ、隣の綾羽は無言で通り過ぎようとしていた。
すると、一人の女生徒が2人に近づいてくる。
「犬神さん。毎朝いい挨拶ですね。」
長めのツインテールに、整った顔立ち。何よりも目を引くのは、その礼儀正しい立ち振舞であった。
「い、いいえ。人として当然なので。」
少々緊張した様子で、知沙が言葉を返す。
「白銀さんも。音楽が好きなのは結構ですが、これでは声も聞こえていないじゃないですか。」
女生徒に注意される綾羽。いつものように耳にはヘッドホンが装着されており、女生徒の言葉に反応すらしていなかった。
「あ、あはは。ほんとにそうですよね。綾羽さん、音楽大好きだから。」
知沙は知っていた、綾羽の”外音取り込み能力”の高さを。
「それではまた~」
笑顔で挨拶をしながら、二人は校門を後にした。
下駄箱へたどり着き。綾羽は何食わぬ顔で靴を履き替える。
「綾羽さん。”会長さん”に、挨拶してあげてはどうですか?」
知沙は、先程の生徒会長とのやり取りを思い返す。
「……一度、無視をしてしまった以上、わたしは音楽好きのキャラを貫くことにするわ。」
綾羽にも、譲れないプライドのようなものがあった。
「会長さんがかわいそうですよ。」
「実際、あの人は”かわいそう”、ではあるでしょ?」
二人の脳裏に、不憫な生徒会長の顔が浮かぶ。
「まぁ、この学校の生徒会は、仕方がないと思います。」
そのような話に花を咲かせ。
綾羽も鈴蘭女学院での生活に慣れてきていた。
「部活?」
教室にて。綾羽と知沙の二人は、比較的会話をすることの多いクラスメイト達に部活について尋ねていた。
「はい。皆さんは、何部に所属しているんですか?」
「えっと、わたしは帰宅部かなぁ。パッとする部活もないし。」
綾羽とも気が合うクール女子。
「アタシも、めんどいから入ってない。」
クラス唯一の不良女子。
「実はわたしは、生徒会に入ろうと思っているんです。」
クラス一の勉強好き。
「なんですって?」
会話への関心の薄い綾羽ですら、その言葉には反応を示した。
「松ちゃん、正気? この学校の生徒会ほど、悲惨な生徒会は存在しないわよ?」
「……霧子さん、それは流石に辛辣過ぎでは。」
霧子の言葉に知沙がツッコむ。
「でも実際、ここの生徒会はヤベーだろ。こんな硬いお菓子を通貨として流通させるなんて、完全に頭イかれてる。」
そう言って、紗那は懐から硬いお菓子”ケンピ”を取り出した。
「まぁ、前のハッピーターンの経験を生かした結果でしょう。」
生徒会へ入りたいと言った暁美ですら、それは謎としか言いようがなかった。
「聞く話によると、確実に流通量は落ちてるらしいわよ。」
ケンピを実際にかじりながら、綾羽がつぶやく。
「こいつみたいに歯の強い奴にとっては、格好の餌ってわけだな。」
「そんなに美味しいわけじゃないわ。通貨として流通させるなら、コインチョコとかのほうが良いと思う。」
「綾羽さん、チョコレート大好きですからね。」
知沙は微笑ましく、ケンピをかじる綾羽を見つめていた。
「えっ、部活?」
もっと他の意見を取り入れたい綾羽たちは、他のクラスメイト達にも部活について尋ねていた。
「ごめ〜ん、そういうのやってないんだぁ。」
モデルもしているリア充女子。
「わたしも帰宅部よ。」
クラス一のオシャレ女子。
「実はわたしもで〜す。」
ハイテンション系の普通女子。ノエルも同様に帰宅部。
「わたしもかなぁ。」
ギター好きの音楽少女。
「帰宅部四連発。このクラス、半分以上が帰宅部じゃない。」
「わたしも驚きです。」
二人にとっても、この結果は予想外であった。
「わたしは合唱部に所属してるよ? 歌うのだーい好きだから!」
初日の黒板消し落としの犯人にして、歌をこよなく愛する少女。
「へぇ。初めて見つかったわね。まともな理由で部活やってる奴。」
「そうですね。解剖できると思ったから、生物部に入ったとか。賭けに負けたから、奴隷として入部させられたとか。ろくな理由がありませんでしたからね。」
これまで、他のクラスメイト達にも話を聞いたものの。その理由には”理性”が感じられなかった。
だが、それはクラス全体にも当てはまるようで。
合唱部に所属しているという律歌は、いつの間にか教壇の上に立ち、唐突に歌い始めていた。
「おっ! いいぞ律歌〜」
その様子に、何の疑問もなく盛り上がるクラスメイト達。
「このクラスの人間は当てにならないわね。運動部に関しては一人も居ないし。」
「……ですね。」
このクラスの人間に聞いたのが間違いだったと。二人は気付く。
「放課後、見学に行きましょう。」
「そうね。」
クラスは平常通り。お祭り騒ぎであった。
◆
放課後。入る部活の参考にするため、綾羽と知沙の二人はグラウンドへと足を運んでいた。
クラスメイトには誰一人として運動部員がいなかったため不安であったが。グラウンドには元気よく駆け回る生徒たちの姿があった。
「まずは陸上部からですね。」
知沙は周る予定の書かれたメモを手に持っていた。
陸上部、という単語を聞き。綾羽の脳内に、登校初日の風景が思い返される。死にかけの子鹿のように息を切らす、知沙の様子が。
「貴女、正気?」
「……あはは。」
知沙も、自分に陸上が向くとは考えていなかった。
それでも、陸上は走るだけが競技ではない。ハードルや走り高跳び、棒高跳びなど。グラウンドでは多くの競技の練習が行われている。
「棒高跳びとかなら。綾羽さんも未経験でしょうし、挑戦のしがいとかあるんじゃないですか?」
綾羽の身体能力の高さは、すでに知沙にも分かりきっていた。けれども、それだけで全てをこなせるほど、陸上競技は単純ではない。
「そういうものかしら。」
それでも綾羽の瞳には、失敗のビジョンは浮かばなかった。
「次は柔道部です。」
グラウンドを後にし。二人は校内の柔道場へと訪れていた。
鬼のような形相でぶつかり合う部員たち。道場内は熱狂と修羅の空気に包まれており、外との温度差が色々な意味で凄かった。
「悪いことは言わないから、ここはやめておきましょう。」
「はい。」
知沙にも異論はなかった。
「こちらは剣道部です。」
剣道場へと訪れる二人。
先程の柔道部ほどの熱気はないものの。ガッチリとした防具に身を包み、激しい攻防が繰り広げられている。
「なんというか、防具がナンセンスよね。」
綾羽的には、そこが気に入らないポイントであった。
「そうでしょうか。」
「ほら、竹刀って切れ味とかも悪そうだし。」
剣という概念、そのものは好きな綾羽であったが。
「趣味じゃないわね。」
剣道で用いられる竹刀は論外であった。
「空手部です。」
それまでの部活同様、空手部の活動も非常に激しかった。
女子高生と侮るなかれ。鋭い拳と、それを防ぐ腕。汗水たらす本気の稽古が行われていた。
「知沙。貴女、わたしと組み手をしたいの?」
「……そうですね。きっと、無事じゃ済みませんよね。」
知沙は知っていた。人の骨が折れる音を。
熱気から逃れるように。綾羽と知沙の二人は弓道場へとやって来ていた。
「次は、弓道部ですけど。」
「まぁ、見るだけ見てみましょうか。」
それほど真新しいものが見られるとは思えず、渋々と足を動かす綾羽。
それまでの部活とは違い、弓道部は比較的落ち着いていた。
「あの的に当てるんですね。」
「真ん中に当てると、ブルズアイって言うらしいわよ。」
「へぇ、カッコいいですね。」
知沙は何の疑いもないキラキラとした瞳で、綾羽の話を聞いていた。
そんな二人の見学者に、部員の一人が気づき、近づいてくる。
「貴女たち、入部希望者?」
「いいえ、色々と決めかねているところでして。」
「弓道って、よくわからないから。見学してみようと思ったの。」
相手は恐らく上級生であろうが。綾羽に敬語という選択肢は浮かばなかった。
「なんか貴女、風格あるわね。」
部員の生徒は綾羽から滲み出るオーラ的な何かを感じ取っていた。
「せっかくだから、ちょっとやってみる?」
部員の生徒からの提案を承諾し。
綾羽と知沙の二人は弓道着へと着替え、部活を体験することとなった。
「胸当ては、……二人とも大丈夫そうね。」
起伏の乏しい二人の体を見て、そう判断されてしまう。
その言葉に、目に見えて落ち込む知沙。
隣の綾羽は、そもそも言葉の意味を理解しておらず、首を傾げていた。
「もう少し上を狙ったほうがいいわ。目一杯引いて。」
部員の指導を受けながら、知沙は実際に弓を引いていた。
ぷるぷると腕が震え。狙いが定まっているかは確かではない。
それでも、知沙は何とか力を込め、矢を放った。
しっかりと、真っ直ぐ放たれた矢であったが。的へ届くには勢いが足らず、半ばほどで落下してしまう。
「何だか、危なっかしいわね。」
近くで見ていた綾羽が、小さく呟いた。
「次は貴女ね。」
知沙の使った物と同じ弓を手渡される。
綾羽は先程の知沙の動きを思い出し。同じような動作で弓を構える。
だが、”バキッ”と音がなり、弓が真っ二つに折れてしまった。
「整備不良かしら。ごめんなさいね。」
「いいえ、気にしてないわ。」
折れた弓を手渡し。新しい弓と交換するため、部員の生徒がその場を後にする。
「……綾羽さん、物を折るのが得意ですね。」
「そうね。特技って言ってもいいかも知れないわ。」
そうこう話しているうちに。部員が新しい弓を持ってくる。
先程壊れたものと同じく、非力な人間でも引ける軽い弓であった。
綾羽は弓を受け取ると、先ほどと同じように。けれども壊れない程度の力加減で弓を引き。
矢を放つ。
放たれた矢は、知沙の放ったそれとは違い、真っ直ぐに垂直に飛んでいき。的のほぼ真横へと突き刺さった。
一連の動作を見ていた周囲の生徒たちが、感心するような声を上げる。
「流石ですね、綾羽さん。」
自分の場合は、届きすらしなかったため。知沙の目は輝いていた。
「そうかしら。」
綾羽の表情は変わらない。的を外した悔しさも、真っ直ぐに飛んだ喜びもない。その手に感じた感覚だけで、綾羽は”全て”を察していた。
「大したものだわ、貴女。とても初心者の動きじゃない。」
案内してくれた部員の生徒が、称賛の言葉を送ってくる。
「入部してみる気はない? お友達も一緒に。」
実際に矢を届かせた綾羽だけでなく、知沙も一緒に誘ってくる。その自然な言葉だけで、綾羽はこの部員の生徒を”いい人”だと判断する。
だが、
「すみません、やめておきます。」
綾羽は丁重にお断りした。
「え? どうして?」
「今の一回で、”向かない”のは分かったので。」
綾羽は再び、手の感触を確かめる。
(もう絶対に、”外れない”わね。)
「えっと、次は水泳部なんですけど。」
この鈴蘭女学院には最新設備が揃った立派なプールがあり、水泳部はそこで活動を行っていた。
水泳部を見学するため、廊下を行く二人であったが。
綾羽が、ふと立ち止まる。
「……思ったのだけれど。運動部はやめておきましょう。」
その綾羽の一言が、知沙の心に突き刺さる。
「そ、そうですよね。すみません、わたしが運動音痴なばかりに。」
ぎこちない顔で笑う知沙であったが。
綾羽はそれを否定する。
「別に、貴女が運痴だなんて思ってないわ。もっと、”一緒に楽しめる”部活が良いと思っただけ。」
恥ずかしそうに、顔をそらす綾羽。
「綾羽さん……」
その言葉を聞き、知沙の顔に満開の花が咲く。
「さ、さっさと行きましょう。」
知沙の手からメモを奪い去り。綾羽は先へと歩み始めた。
◆◇
「ここが美術部です。」
美術室へとやって来た二人。
落ち着いた部屋の印象と、そこで活動する部員たち。静寂の中にも、確かな柔らかさがあり。美術室の中は程よい緊張感に包まれていた。
「さすがは文化部。秩序の香りがするわ。」
「しますね。」
これまでとの空気感の違いに、感心する二人。知沙に関しては涙すら流している。
二人は軽く部員に挨拶すると、そのまま部活を見学させてもらうことになった。
「綾羽さんは、絵とかは得意ですか?」
「どうかしら。物心ついてから、殆ど描いた記憶がないわね。」
綾羽と知沙。二人とも、絵に関しては素人同然であった。
「あっ、そうでした。この美術部にはちょっとした有名人が居るんですよ。」
絵を描く部員たちを見て、知沙が思い出す。
「有名人?」
綾羽には心当たりがなかった。
「ほら、あの人です。」
そう言って、知沙が指差す先に。
彼女はいた。
他の部員たちから距離を取り。一人キャンバスに向かうその姿は、まるで時の流れから切り取られた一枚の絵画のよう。
決して、温かな印象の少女ではない。瞳は鋭く、色は冷たく。言葉無しにも、彼女は明確に他者を遠ざけていた。
「二年の、
「ふぅん。何かちょっと、暗い人ね。この学校じゃ珍しい。」
綾羽の瞳が、薙咲という少女を見つめる。その瞳に映るものは、他者のそれとは少し違っていた。
「少し、拝見させてもらいましょうか。」
他の部員同様、彼女の描いている絵も見ることにする。
薙咲のキャンバスの世界には、一人の少女と一匹の白い犬が描かれていた。
少女は小柄な体型で、表情の優しさが絵の中からでも伝わってくる。彼女に連れられている白い犬は、彼女の体格を超えるほどに大きく描かれていた。
「うわぁ。カワイイ犬の絵ですね。」
純粋に、絵に対する感想を述べた知沙とは違い。
「そうね。」
知沙とモロにしか見えない。綾羽には、そうとしか感想が浮かばなかった。
「すみません、禍院先輩。この絵は何をモチーフにしてるんですか。」
察しの悪い知沙が問いかける。
声をかけられた。そう判断する薙咲であったが、キャンバスへと向かうその姿勢は変わらず。
「……放課後。たまに近所で見かける、珍獣とその飼主。」
ただ淡々と、事実を口にした。
珍獣とその飼い主。そう告げられるも、知沙には何がなんだか分かっておらず。
「貴女、鈍いわね。」
綾羽は静かに哀れんだ。
「それにしても、本当にお上手ですね。」
絵を見ながら知沙が感想を口にする。
それを耳にして、薙咲の瞳が揺らぐ。
「そうね。うちの実家にも高そうな絵が飾ってあったけど、それよりもずっと素晴らしいと思うわ。」
綾羽も素直に感想を言う。
すると薙咲は、居心地の悪そうに唇を噛んだ。
「……今日はもう帰る。」
突如そう言うと、薙咲は立ち上がり。
知沙の顔を見ると、表情が一瞬で驚愕に染まった。
けれども、さっと無表情に戻ると。そそくさと美術室から出ていってしまう。
「……うるさくし過ぎたでしょうか。」
機嫌を損ねてしまったと。知沙が落ち込む。
「あぁ、気にしないで。彼女、絵を褒められるのが苦手みたいだから。」
美術部の生徒が、薙咲の反応について説明する。
「そうなんですか。」
「変わってるわね。」
そうして、二人の美術部見学は終わった。
「次は演劇部です。」
知沙が部室の扉を開けると。
「あら? 貴女たち、入部希望?」
内側の扉の側に立っていた生徒が、二人に話しかける。
「いいえ。まだ、色々と見学してて。」
知沙が頭を下げる。
「そう、ならいいけど。”ステゴロ”で、部長の座を奪おうとか考えてないわよね。」
「なわけないじゃない。」
綾羽は冷静にツッコんだ。
「いやねぇ。今年の一年、頭のおかしな子が多いから。」
困って仕方がないとばかりに、一年生の印象を口にする。
「それは確かに、否定できませんね。」
知沙はチラリと綾羽の顔を見て。
綾羽はそっとそらした。
「好きに見ていって頂戴。貴女たちみたいに可愛い子は大歓迎よ。」
そうして、二人は演劇部の練習を見ることになった。
台本を手に持ちながら、演技の練習をする生徒たち。それを見つめる生徒もいる。
これまでの部活とは違い、張り詰めたような緊張感は存在せず。どこかゆるく、明るい雰囲気で活動を行っていた。
「面白いですね。」
「そうね。お笑いのコントみたいで、見やすいわ。」
部活の内容も、雰囲気も。二人にとっては好印象であった。
しかし、それをブチ破る存在が現れる。
「フハハハ。今日も来たぞ!」
やけにテンションの高い笑い声を上げながら。一人の女子生徒が部室に乱入してくる。
知的さを感じさせるメガネに、凛とした声。それだけなら、単なる可愛い少女といった印象であろうか。
「何でしょうか、あの人。」
「さぁ。気が触れている、以上の事は分からないわね。」
突然の訪問者に、部室内の視線が釘付けになる。
「はぁ。また来たのね、あの子。」
部員の生徒が頭を抱える。
「入部希望者、ですか?」
「いいえ、そんな生易しいもんじゃないわ。」
周囲の視線を浴びながら。訪問者は堂々と部室内に入ってくる。
「演劇部部長の座を賭けて勝負だ。ステゴロルールを宣言する!」
部員の一人。恐らくは部長に対して、宣戦布告を行った。
「……なによ、あれ。」
唖然とする綾羽。
「この学校の歪んだ校則が生み出した、モンスターよ。」
部員からしてみると、想定の範囲内の様子であった。
「今日はどうやって追い返そうかしら。」
もはや日常茶飯事のように、訪問者への対処法を考える。
「面白かったのに。演劇、中断しちゃいましたね。」
「そうね。」
綾羽の瞳が、訪問者を鋭く射抜いた。
ふらっと。音もなく自然な足取りで、綾羽が動く。
「綾羽さん?」
気配も存在も、感じさせぬように。騒がしい訪問者の真後ろへと忍び寄ると。
トンッ、と。目にも止まらぬ衝撃を、訪問者の首元へと叩き込んだ。
膝から崩れ落ちる訪問者。
「そんなまさか、首トン!?」
「その歳で習得してるだなんて。」
ほんの一瞬の出来事に、演劇部の面々は衝撃を受ける。
「ステゴロルールだか、なんだか知らないけど。貴女が倒したことにすれば、こいつも大人しくなるでしょ?」
演劇部の部長に対して、綾羽は手柄を譲ることにした。
「そう、ね。ありがとう。貴女凄いのね。」
部長だけではなく。他の部員たちからも称賛の声が上がる。
「綾羽さん、あんな技も使えたんですね。」
「最近、周囲にうるさいのが増えたから、出来るようになったの。」
何かと口喧嘩の絶えない金髪と野良猫を黙らせるため、綾羽は着実にスキルアップしていた。
「えっと、その人達用の技を、一般の人に使って大丈夫なんですか?」
「……次の部活へ行きましょう。」
綾羽は何も答えなかった。
「次は合唱部ですね。クラスメイトの律歌さんが所属しています。」
廊下を歩きながら知沙がメモを読む。
「……合唱部、歌。」
綾羽が小声でつぶやく。
「悪いけど、合唱部は除外させてもらうわ。」
きっぱりと立ち止まり。綾羽は次の部活見学を拒否した。
「どうしてですか? 綾羽さん。」
そこまで合唱部を拒む理由が、知沙には分からなかった。
「わたし、歌が”苦手”なのよ。勉強とかと一緒で、聞いてるだけで”頭が痛く”なる。」
「なるほど。それは重症ですね。」
授業中の綾羽の”苦戦”度合いを知っているため。知沙は納得せざるを得なかった。
「最後はここ、アニメーション部ですね。」
二人はアニメーション部の部室前へ到着する。
「話を聞くに、クラスメイトが何人か居るはずよね。」
そうこう話していると。
「おや?」
綾羽たちのクラスメイトが一人。百合好きのアニメオタク、
どす黒く濁った瞳で、二人を見つめている。
「海莉さん。これから部活ですか?」
「ええ。ちょっと先生に呼び出されてしまったので。見学でしたら、どうぞ中へ入ってください。」
海莉は二人を歓迎し、部室へと招き入れた。
部室内は、”地獄”であった。
10人程度の部員が存在しており、全員がデスクに置かれたペンタブレットに向かう。一切の雑音はなく、恐ろしいほどの集中力で作業に没頭している。
「……あれま。」
綾羽の想像していた、ゆるふわな風景とはまるで違った。
「アニメーション部では、デジタルツールを活用した本格的なアニメーション制作を行っています。学園祭の時に、実際に放映するんですよ。」
何も気にすることなく、海莉は部活の内容を説明する。
「えっと。そうだとして、どうしてこんな修羅場みたいになってるんですか?」
「我が部のモットーとして、昨年度よりハイクオリティ、昨年度より多い枚数を、というのを掲げてまして。今の段階から頑張らないと、”終わらない”んです。」
代々受け継がれてきた伝統だから仕方がない。それが海莉の主張であった。
「労働力。……ではなく、新入部員はいつでも歓迎していますよ?」
柔らかい笑顔を浮かべていたが。海莉の瞳はどす黒く濁っていた。
綾羽たちが悪魔の勧誘を受けていると。
ペンタブに向かう生徒の一人。クラスメイトの馬鹿一号、
「助け――」
何かを訴えようとしたものの。
「黙って。」
隣にいたもう一人のクラスメイト。
その一部始終に、綾羽と知沙は戦慄する。
「ところでお二人共。アニメは好きですか?」
悪魔の勧誘は続き。
そうして、二人の部活見学は終わった。
◆
学校から家に帰り、尋常ならざる疲労感を得ていた綾羽であったが。まるで義務であるかのように、TTO(ターミネートオンライン)へログインしていた。
唯一のフレンドである”ゆりあん”とプレイするため、彼女のもとへ向かう。
「ん?」
そこへたどり着き、ゆりあんの姿を見つける。しかし、その隣には彼女と因縁があるはずの”ミス・ハリケーン”が一緒に居た。
「……貴女たち、もしかして一緒にプレイしてるの?」
正直、信じられない組み合わせであったが。綾羽はとりあえず声をかけてみる。
綾羽の声に、振り返る二人。その雰囲気は以前のように剣呑ではなかった。
「そうですね。最近は綾羽さんが学校に行くようになって、昼間は一人でしたので。」
ゆりあんの声色はいつも通り。ゆるく優しい。
「いやそもそも、貴女たち二人って、一緒に居て大丈夫なわけ?」
「ええ、問題ないわよ。」
「はい。実は、わたくしがどうしても話してみたくなって、お声を掛けさせていただきました。」
綾羽のあずかり知らない内に、二人は関係性を築いていた。
「まぁ、そうしたら意外と気が合っちゃってね。昔殺し合った仲だとか、そんなのどうでも良くなっちゃったのよ。」
”綾羽”という共通の話題があったことも、理由の一つであった。
「実際、今のわたくしは、単なるニートゲーマーですから。」
「わたしも、今はセシリアの所で匿ってもらって、ほぼニートと変わらないから。」
活動時間の重なる二人は、自然にゲーム仲間へとなっていた。
「このゲームにも、だいぶ慣れてきたわ。」
東邦刑務所の一件にて、その素性を明らかにしてしまったため。ルイズは今現在、セシリアの用意した拠点で匿ってもらっていた。それ故に暇な時間が多く、訓練がてらにもTTOをプレイしている。
「へぇ。それじゃあ、お手並み拝見といきましょうか。」
どこまで腕を上げたのか、と。綾羽は微笑を浮かべる。
初となる、3人協力プレイが始まった。
「いや、なんであんな動きができるのよ!?」
ルイズが叫ぶ。
その視線の先。超高速で飛翔する白銀の光が、敵のギガントレイスを”蹂躙”していく。
同じギガントレイス。その枠組に入っているのかと言いたくなるほどに。それは戦闘とすら呼べない代物であり。一方的にして、圧倒的な”狩り”であった。
「次元が違う。そう思いませんか?」
惚れ惚れするように、ゆりあんも彼方を見つめる。白銀綾羽、一人の少女の独壇場を。
「彼女の機体”アルフォート”は超近接型の機体です。武装を捨て、装甲を削ることで、あれ程までの”速さ”を手に入れた。」
無数の翼のようなブースターを持つ、華奢でいびつな機体。
「多くのプレイヤー達が、彼女の真似をしました。同様の特化型カスタムを。」
ほんの少し前まで、そんなプレイヤー達が実際に溢れかえっていた。
「でも、誰一人として彼女のようなパフォーマンスを発揮できなかった。そんなところでしょ?」
ルイズの目からしても、その事実は明らかだった。
「ご名答。あの機体はもはや、人間の反応速度で制御できる”領域”にはありません。」
あらゆる行動、あらゆる攻撃を無意味にされ、為す術なく斬り伏せられる敵の機体たち。
「それ故に、他のプレイヤー達の間では、『チロル大佐は人間ではなく、”AI”が制御しているのでは?』、そう考える人も居るそうです。」
「無理もないわね。わたしも実際にあの子の知り合いじゃなければ、”プリシラ”の再来、そう思ったとしても仕方がないと思う。」
プロのGR操縦者の中でも、トップエースと呼ばれるほどの実力をルイズは持ってる。
それでも、綾羽の舞っている世界は、あまりにも遠すぎた。
「G-Forceとの衝突。綾羽さんの圧勝ではなかったんですか?」
「……いいえ、残念ながら。敵の中にも凄腕がいたから。」
東邦刑務所での戦い。あのシールドを装備した御神楽の操縦者は、ルイズの実力を遥かに上回っていた。
「話を聞くに、その操縦者は白銀正継。つまりはあの子の父親ね。」
厄介な関係性だと。ルイズは思う。
「正継さん、ですか。確かにお強い方でした。”現役時代のわたくし”と、ほぼ互角と言っていいでしょう。」
ゆりあんは遠い日の記憶を思い出す。
「それでも、腑に落ちませんね。いくら正継さんとはいえ、綾羽さんとまともにやり合えるとは。」
その実力を、身を持って知っているがゆえに。ゆりあんの中には、”綾羽が勝てない”というビジョンが浮かばなかった。
「あの子の乗ってた機体、結構なポンコツだから。」
「それでも、第3世代の機体ですよね? それで綾羽さんが勝てなかっただなんて。」
それほどまでに、ゆりあんの綾羽への評価は高かった。
「……やはり現実では、ゲームのようにはいかないんじゃないかしら。」
「そういうもの、なのでしょうか。」
二人が、そのような話をしている内に。
綾羽一人の手によって、ミッションは完遂されていた。
「ごめんなさい。ウルスラが夜ふかしするなってうるさいから、もう落ちるわ。」
エイチツー並に身の回りの世話をしてくれるウルスラに対し、綾羽は頭が上がらなくなっていた。
「そうですね。冷静に考えたら、昨日も朝までオールでしたしね。」
大事な学生であるというのに。夜はゆりあんとのゲームに夢中で、綾羽はほとんど睡眠をとっていなかった。
「じゃあ。」
「ええ、おやすみ。」
ルイズとも声を交わし。
綾羽はTTOからログアウトした。
明かりのついた自分の部屋で。綾羽はヘッドセットを外すと、軽く息をつく。軽く興奮しているせいか、未だに眠気は訪れていない。
なんとなく、自分のスマートフォンを手に取る。すると、知沙からのメッセージが届いており、綾羽はそれを開いた。
『海莉さんから勧められたアニメ、とても面白いですよ? 綾羽さんもぜひ見てみてください。』
文章からでも、知沙の明るい顔が思い浮かぶ。
「知沙。完全に洗脳されてるじゃない。」
確かにアニメ部の横嶋海莉の勧誘はえげつなかった。
「一話だけ見て、つまらなかった、って言えばいいわよね。」
興味は全く無かったが。知沙に言われてしまえば、さすがの綾羽も断りづらかった。
ベッドの上に、仰向けで横たわりながら。スマホの画面でアニメを見る。
瞳に関心の色はない。ゲーム大好きな綾羽ではあるが、基本的にアクションやシューティングにしか興味はない。本棚は漫画本で埋まっているが、アニメとは縁のない古くマイナーな作品ばかり。
興味なんて、湧くわけがない。
そんな冷めた瞳で、アニメの一話を見終わった。
瞳を閉じて。深く、ため息をつく。
ゆっくりと”何か”が、広がる。
パッと、ベッドから起き上がると。ヘッドホンを軽く外し、ウルスラが寝ていることを感知する。
家の中が静寂に包まれていることを確認すると。綾羽は音を立てぬようこっそりと部屋を抜け出し、大きなテレビの置かれたリビングへと足を運んだ。
テレビの電源を入れ、サウンドはヘッドホンへと接続。
綾羽は先程見ていたアニメの第一話を、”もう一度”見始めていた。スマホの小さな画面ではなく。迫力あるテレビの大画面で。
その”輝き”に、綾羽の瞳は釘付けになる。
呼吸は何故か不規則に。
胸の鼓動が抑えられない。
気づけば綾羽は、そのアニメに夢中になっていた。
――心が揺さぶられる。そんな、運命との出会いを。
◇
朝。
「はぁあ。」
小さなあくびをしながら。起床したウルスラは、リビングへと足を運んでいた。知沙直伝のスキルを使い、綾羽のための朝食を用意するために。
だが、しかし。
「綾羽さん、こんな時間まで起きてたんですか!?」
扉を開けてみると、そこにはテレビに向かう綾羽の姿があり。ウルスラは思わず声を上げる。
「……ウルスラ。」
その声に気づき。綾羽がゆっくりと振り向く。
「綾羽、さん?」
ウルスラは言葉を失った。
綾羽の表情に、見たことのないような、”輝き”が宿っていたために。
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