この世界の主人公。

@kaeri_9111

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「君はこの世界の主人公さ!!」

その言葉と声だけは、今でもはっきりと思い浮かぶ。

そもそも主人公なんて言われたって。

そんな意識ないし、何か特別な力もない。

そんな平凡な日常を送る僕に主人公と言った誰かは、僕に落胆するだろうか?

正直。あの声と言葉以外、何も覚えてないその人を今でも思い出す方がイタいことなんだろうか?


そんなことを考えながら偏差値43の公立高校へ行く。

SHRの1時間半前、僕は廊下側の一番後ろの自分の席に座り、好きな音楽を聴きながら、静かな学校での至福の一時を過ごす。

いつもなら一時間ぐらいは一人で居れたけど、その日は違った。

いつも聴くプレイリストの2曲目が終わる頃、ガラガラっと扉が開いた。見知らぬ女の子が教室へ入ってくる。

「ここが私の新たな学び舎!早く来すぎて誰も居ないや!!」

その言葉から、僕の静かなルーティンが音を立てて崩れていった。

「あ、人が居た……」

その子は恥ずかしそうにこっちに来る。

「こんにちは、私は今日からこの学校に転向してきた-- --って言います。今日からよろしくね!」

「よ……よろしくおねがいします……」

「あ、あのまだ教室の位置とか、把握してなくて…案内して欲しぃなって……」

「い……いいですよ……」

断れない僕の性だ……

しょうがない、了承してしまったからには、ちゃんと学校を案内した。

「場所はわかった!ありがと!!そろそろ先生きたと思うから、職員室に行くね!またね!!」

行ってしまった。

SHRまで、あと三十分、そろそろ教室に人が集まって、賑やかになってくる。

スマホで音量を少し上げ、三十分間音楽を聴く。

キーンコーンカーンコーン

ガラッ教室の扉が開く。

「ほら、スマホしまえ、SHRやるぞー」

いつもどおりの声色で先生が言う。ざわざわが少し減り、先生が口を開く。

「今日は転校生を紹介する。」

「可愛い子かな?」「かっこいい子かな?」と少し減ったざわざわが最高潮に大きくなる。

「はい、静かにー さぁ、入ってこい。」

さっきの子が入って来る。

男子の声が最高潮を超え、女子が少しガッカリしたように、少し静かになる。

「-- --です! 親の引っ越しについてきて、ここに転向することになりました!」

「私は将来、主人公になります!」

男子、女子共に、はぁ?みたいな表情をした。

先生も、少し間をおいて、じゃあ、席はどうしようかとキョロキョロと目が動く。

「じゃあ、廊下から二番目の一番うしろが開いてるな…そこに座ってくれ。」

隣か……まぁ、隣が開いてる時点で察してた。

「よろしくね!」

と彼女は挨拶して席に座った。

それ以降はいつもどうりのSHRだった。最後に不審者の話があるのが少し違ったか。

キーンコーンカーンコーン

一時間目の前。彼女に群がるクラスメイト。その圧に押されて、トイレに逃げた。

その日は、教室とトイレを行ったり来たりする一日だった。

次の日、いつもどおり一時間半前の登校、いつもどおりの音楽。

昨日と同じガラガラの音。隣に座る彼女。

「おはよ!!昨日もイヤホンしてたね、音楽でも聞いてるの?」

「あ、はい……」

会話が止まる、それを辛いと思うコミュ障だから、とっさに文章を作る。

「あ、なんで主人公になりたいの?」

普通の疑問だった。夢かもしれないあの記憶を裏付けるかもしれない。

もしくは、同じような記憶を持ってるかもしれない。そんな期待を込めた問。

「それはね、ある人に言われたんだ。「君はこの世界の主人公さ!!」って、顔も名前も知らない、でも声だけははっきりしてる。そんな事言われてもさ、そんな自信も力もないから、私の将来の"夢"になったんだ。」

完璧だった。僕の求めていた回答だった。

「なんか嬉しそうだね。」

「そ、そうかな……」

「そうだよ、表情がぜんぜん違うもん。この話に嬉しそうな顔されるの初めてだし。凄い理由が気になる……」

「え、えっと…」

押され負けた。諦めて同じ記憶の話をする。

「えぇ?!」

彼女はとても驚いてた。

まぁ、そんな同じ記憶を持つ人が現れても、そんなに僕の人生が変わることもなかった。

その日以降も、一時間半前に学校に来て、音楽を聴いて。変わったのは、学校の静けさと、彼女が絡んでくる事だ。

帰り道も一緒に帰ろ!と言ってくる。当然Noと言えない日本人なので、断れずに振り回される。

一ヶ月も経てば、みんなの彼女への反応は、明るくて、暗いやつと絡んでる、ちょっと頭のおかしい子というので固まっていった。

彼女といると、あの言葉の意味を考える時間が増える。

主人公とは?この世界とは?SFのような、ラノベのような仮設が浮かび、それをありえないで潰す日々。

何か特殊能力をもらってたら、SF説、ラノベ説も肯定できたが、特殊能力なんて僕も彼女も持っていない……

主人公が二人居る、この時点でまだ居る可能性も捨てきれない。

誰が主人公か……この世界がどんな世界か……疑問点が増える。解決はしない。

一緒にいると実感するのは、彼女のほうが主人公ぽい事だ。

だから、彼女の協力者になろうと思った。彼女が主人公になる手伝いをしようと思った。

彼女と一緒に、人助けをして、泣いてる子供を笑顔にして。

充実した日々……だった。

彼女といつもどおり帰る道、横断歩道で青信号を待つ。

いきなり彼女が前に飛び出た。咄嗟に手で彼女を後ろに飛ばす。

反動で前に飛び出てしまった……

死ぬ間際は、時間がゆっくり感じるのは本当らしい。ゆっくり近づく車。驚く顔をする彼女、思ったとおりに動かない身体。早く動く思考が言葉の真意に近づく。

俺はこの物語の主人公だったんだ、この彼女を守って車に轢かれて死ぬ物語の。そして、彼女も主人公だったんだ、今後進んでいく物語の…

あの人は僕の人生を世界と揶揄した。

それをたまたま覚えてたのが、僕と彼女だっただけだったんだと。

僕の思考はそこで途絶え、消えた。

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