第5話 領都ザーレンハイン

日が傾きだしたころ領都の城壁が見えてきた。


「もう少ししたら着くよ、アスカさんは身分証は持ってる?この領都は必要になるから」


鞄の中から身分証を出して見せてみた。


「これで大丈夫ですか?」


「……ずいぶん古いタイプの身分証だね、こんなのまだ使ってる場所があるんだ」


不思議そうな顔をしながら首を捻っている。


「もう使えないんですか?村だとこれでしたけど」


「大丈夫だと思うよ、多分」


 苦笑いしながらカードを見ている。うーん、インストールされた知識情報は少し古いのかな?


『一部地域で使用されている身分証です。ステータスの魔法が開発されたので廃れた身分証です。』


また頭の中で機械的な声がした。


「確か30年近く前に使われてたタイプだったかな?もしかしたら再発行しないと駄目かもしれない。それでも領都には入れると思うよ」


「わかりました。門兵に聞いてみます。」


「アスカさん、私の身分証はこれだよ」


モニカが腕につけている装飾品の端を触りながらを見せてくれた。


名前:モニカ(商業ギルド)


 ブレスレットタイプの身分証らしい、プレートになっている部分に名前と所属が見えている。アルベルトさんの腕にもつけてあるのがチラッと見えた。


「こっちのほうが使い易そうですね、交換できるのかな?」


「領都の役場に行けば大丈夫だと思うよ、再発行扱いだろうからお金かかると思うけど」


 出来れば交換したい、腕につけっぱなしに出来るのはわざわざ鞄にまわなくて良いから便利そう。それに《ステータス》の魔法なんてあるんだ使ってみたい。


どうやるんだろ?小声で「ステータス」と言ってみた。


名前:アスカ

種族:ヒューマン(女)

所属:---

状態:普通

レベル:3 (+2)

STR:95 (+10)

VIT:80 (+10)

INT:260

DEX:110 (+5)

AGI:80 (+5)

LUK:100

賞罰:なし


スキル:

 【共通言語】

 【生活魔法】new

 【料理:Lv3】

 【交渉術:Lv3】

 【算術:Lv2】

 【速読:Lv2】

 【体術:Lv1】

 【短剣:Lv1】new

固有スキル:

 【リセット】

 【****】


 あ、出来た。頭の中に自分のステータスが浮かんできた。

 レベルが上がってるしスキルも増えてる。短剣はナイフで牙ウサギ倒したからかな?《ステータス》の魔法は【生活魔法】に入るのかなぁ?他には何があるのだろう?


『現在【生活魔法】で使用できるのは《ファイヤ》《ウォータ》《クリーン》です。《ステータス》は関係ありません。』


関係ないんかい!頭の中に響く声についつい突っ込んでしまった。


「どうしたの?何か変な顔してたけど」


「何でもないよ」


馬車が城門の列に並んだようでゆっくりと止まった。


「少ししたら領都に入るためのチェックがあるからね、身分証はいつでも見せれるようにしといてね」


「「はーい」」


 少しずつ城門に近づいていく。改めて近くで見ると城壁も城門もかなり大きい、10メートルくらいの高さはありそうだ。


「ははは、大きさに驚いてるね。領都だから大きくなるんだろうね、領都以外の街はこんなに大きな壁も門も作らないからね」


アルベルトさんは笑いながら説明してくれる。


「それにここは辺境で他国も近いからねそれの名残だよ、戦争なんて100年以上おきてないから」


 戦争がないのは有り難い、それにインストールされた知識からすると、王様がいて各領地をそれぞれの貴族が治める体制であることが予想できる。

 宗教なんかも調べないとなぁ、宗教は怖いから…


『創造神様を主神とする教会が基本です。その他にもありますが創造神様を主神とする事は同じです。』


 頭の中の声に説明された。もっといろいろ教えてくれても良いのに……インストールされた知識は朧気だし偏っているのかな?


『最低限の知識になります。』


そうですか…


「身分証を見せて下さい」


 門兵さんが近づいてきて身分証の提示を求めてきた。アルベルトさんとモニカさんはブレスレットを見せてすぐに終わった。


「これなんですけど大丈夫ですか?」


「えーっと、私ではわからないので詰所に来てもらえますか?」


困った顔をした門兵さんが申し訳なさそうに詰所らしき建物を指した。


「門の先で待っててあげるから行っておいで」


アルベルトさんに促されて門兵さんの後について詰所に入った。


コンコンコン

「隊長、珍しい身分証の方がきました。」


珍しいって…


「入れ!」


ドアを入ると書類を書いてる人が顔をあげた。


「ひっ」


かなり強面のスキンヘッドな隊長さんが睨んでいる。


「隊長、ただでさえ顔が怖いんだからそんなに睨んだら駄目ですよ」


「うるさい!持ち場に戻れ、顔は生まれつきだ!」


「了解しました!」


 少し笑いながら門兵さんは部屋を出ていった。顔の怖い隊長さんとやらと二人きりにしないでほしい…


「第四部隊隊長のウィリアムだ。珍しい身分証らしいけど見せてみろ」


ビクビクしながら身分証を渡した。


「そんなビクビクしなくても取って食べたりはしない」


ブツブツ言いながら隊長さんは身分証を眺めている。


「ずいぶん古いタイプの身分証だなぁ、まあ賞罰もないし問題ないか……」


そう言うと身分証を渡しながら私のことを観察するように見ている。


「あー、少し金はかかるが早めに新しい身分証にするとよい、領都の行政府に行けば小銀貨3枚、3,000メルで発行できるからな、それにこのタイプは普通は見えないが見ようと思えばステータスとスキルも見えてしまうから気を付けるようにな」


「わかりました。ありがとうございます。」


なんか顔と眼つきが怖いけど普通に良い人だった。

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