第4話 馬車と商人

ゴト、ゴト、ゴト、ゴト……


 丸太に座っていると右側の方角から音が聞こえてきた。馬車かな?ゆっくりとしたスピードで馬が小型の幌馬車を引いてやってきた。御者席には20代後半の男性が座ってこちらを見ている。


「すみません」

「ん?どうしたんだい?」


 馬車がゆっくり止まった。


「あの、道に迷ってしまって……、どちらに行けば領都が近いかわからなくなってしまったので……」

「こっちに向かって進めば、半日くらいで領都に着くよ」


 御者席の男性は少し首を捻りながら正面を指さして教えてくれた。なにか変な質問だったかな?警戒されてる感じはしないけど……


「ありがとうございます。それでは……」


 私は立ち上がり領都の方向へ向けて歩き出した。


「ちょっと待ちなさい。」


 商人の男性に引き留められた。なんだろう?と振り向くと、


「歩いて行くと領都の閉門時間に間に合わないよ、良かったら乗って行きなさい。私は領都で商売をしているアルベルトと言います。」


 親切な人?それとも人攫い?私が警戒しながら考えていると


「ははは、警戒してるのかな?まぁ当たり前だよね、その警戒は正しいよ。後ろに別の娘が乗ってるから声をかけてみて」


 笑いながら後ろの幌馬車を指した。私は少し迷いながら馬車の後ろに歩いて行く。幌馬車の中をのぞくと赤い髪の女の子が何か作業をしている。揺れる馬車で何してるんだろ?


「すみません。御者の人?アルベルトさんに声をかけろと言われたんですけど……」

「あら?あなたは?」

「あ、私はアスカって言います。近くの村から領都に行って働こうかと思って……」


 咄嗟に思いついた言い訳を言ってみた。女の子はニコニコしながら


「そうなの、大変ねぇ、私はもともと領都生まれだから、私はモニカよろしくね」


 幌馬車の中は大きな荷物がほとんどで座る場所は少ない、その中でモニカさんは何か作業をしている。


「何をされているのですか?」


荷物の整理にも見えるが何をしてるかわからないので聞いてみた。


「荷物の整理と仕分けよ、モックの街で仕入れたとき中身がぐちゃぐちゃだったのよね、あの商会での仕入れはもうしないわ」


嫌そうな顔をしながら作業を続けている。


「何か手伝いましょうか?乗せてもらったお礼に……」

「大丈夫よ、もう終わるし」


馬車が動き出した。何か話しかけないと気まずいけど、話題がないなぁ


「アスカさんは領都で仕事探しするんだよね?」


素直に首を縦にふる


「そしたら私と一緒に仕事しない?アルベルトさんの手伝いだけど……」


「えっ?そんなの勝手に決めて良いんですか?」


「平気だと思うよ、アルベルトさんはもう何人か雇いたいって言ってたから?それに良い人だよ」


 そんなので良いのだろうか?確かに働けるのはありがたいけど、色々調べたりしたいし仕事は自分で探そう。


「ありがとう、でも自分でなんとかするわ、せっかく誘ってもらったんだけど」


「あ、別に無理に誘うつもりはないから、まぁ何かあったら訪ねて来てね、店で働かせてもらう予定だからさ」


「わかった、ありがとう」


モニカさんはニコニコしながら頷いてる。


領都まではどのくらいかかるのかな?荷台から見える景色を見ながら考えていた。

馬車がゆっくりと止まった。


「休憩だよ」


 アルベルトさんから声をかけられて馬車から降りた。そこは街道から少し離れた場所で広場になっていた。井戸もある。


「この井戸の水は飲めるんですか?」


「うーん、やめた方が良いと思うよ、誰も管理はしてないだろうから」


 井戸の水を汲んで馬にやりながらアルベルトさんが答えてくれた。馬は大丈夫なんだなんて思いながら軽く身体を伸ばす。


「馬を少し休ませたら出発するよ、あんまり離れないでね、領都には日が沈む前には着くから」


「「わかりました」」


草原なので周りがよく見える。


「ここは魔物は少ないのですか?」


「ん?滅多に出ないよ、出ても牙ウサギくらいかな?大森林は近いけど街道沿いは定期的に領兵が巡回して魔物は倒してるからね」


さっき一匹倒したけどたまたまなのかな?


「魔物の多い所に居たの?」


「村では結構見ました。倒されたやつですけど…」


「そうなんだ、村だとそんなものかもね」


 異世界だしもっと魔物が跋扈していて殺伐としてるかと思ったから言ってみたけどそうでもないのかも、でもインストールされた知識では村では普通みたいだけど…


「危険な場所を通るなら護衛を雇うけど、基本的に大きな街道を使ってるから一人でも問題ないよ、女性の一人なんかは別の意味で危ないけど」


アルベルトさんは笑いながら馬にブラシをかけている。


「アスカさんは魔物倒した事あるの?」


モニカが目をキラキラさせながら聞いてきた。


「ありますよ、牙ウサギくらいですけど」


「すご〜い」


「村だとたまに迷い込んで来るので、子供のうち倒し方を学びますね」


「そうなんだ、見たことはあるけど倒した事はないなぁ、私は食べる専門ね、牙ウサギ美味しいし、魔物を倒せるなら冒険者になるのも良いかもね」


馬の世話も終わったようだ


「そろそろ出発するよ、荷台に乗って」


「「はーい」」


荷台に乗ったらゆっくりと馬車が動き出した。

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