第9話 大麻が盗まれた!

月曜日に準備室。

僕と先生は、大麻が全部消えて空っぽになった容器をみつめて、立ちすくんでいた。

室内は荒らされておらず、大麻だけが持ち去られていた。プロの犯行だった。

先生は放心状態で、「わたしのマリファナ」「わたしのマリファナ」「わたしのマリファナ」と唱え続けていた。


「先生、しっかりしてください」


僕は先生の顔面に、大麻栽培用の霧吹きを噴射した。

先生は「うっ」とうめいて、そのあと頭をふってから正気にもどった。


「だれかに盗まれた、ってことですよね?」


先生はうなずいた。おそらく学校に誰もいない日曜日に行われた犯行だろう。

僕は、日曜日に綾瀬さんたちと遊んだことを思い出して、くそ…なにをやっていたんだ、僕は!と後悔した。


「このドアのカギは特注だ。鍵はわたししか持っていない。素人のピッキングで、なんとかなる代物でもない」

「やっぱり、富樫のしわざですかね」

「それしか考えられんよ、高橋君。やつはプロを雇って、ドアを開けたんだ」


実験室と準備室をつなぐドアには、傷ひとつついていなかった。金属の重たいやつで、爆弾でも開けられないだろう、という分厚いサイズのやつだった。つまり、ピッキングだ。自転車を盗むのにビニール傘を使う、なんてのとはわけが違う。美術館で、絵画を盗むようなプロの仕業だ。メタンフェタミンを製造するような教師だから、そういった裏の人脈をもっていても不思議ではない。


「それに、やつはわたしを憎んでる。これは、個人的な復讐という意味もあるだろう」


先生と富樫は、なにやら因縁のありそうな関係のようだった。


「先生。富樫の好きにさせてて、いいんですか?」

「もちろん、このままですませる、つもりはない」「むこうがそのきなら、こちらも同じことをやってやる」「悪党のルール、その1。借りは、かならず、倍返しだ!!」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る