第5話 綾瀬さんと友達と僕

放課後、綾瀬さんから呼び出しをくらった。

無視するとあとが怖いので、しかたなく、指定された駅前のカラオケ屋に行く。僕もよく利用するお店だ。もちろんヒトカラだけど。

教えられた番号の部屋にはいると、彼女の他に女子が一人と男子が二人、つまり僕をのぞいて四人がその場にいた。女子はナッツンと呼ばれている綾瀬さんの親友で、男子二人はクラスメイトだけど名前なんてまったく思い出せない。綾瀬さんだけは私服に着替えており、つまり校則では制服での寄り道を禁じられているからで、残りのメンバーはみんな制服だった。


綾瀬さんが手際よく、僕と他のメンバーの紹介をする。

つまりは、このメンツでカラオケでもして親交を深めようということらしい。

僕は誰かとカラオケに来るなんていうのは初めてなので、とても緊張して離れた席に深く腰掛けた。

男子二人が、「あ、ども」となぜか僕に軽く頭を下げる。よくみると、彼らは僕が大麻を売ったことがあるお客さんだった。「こちらこそ、またどうぞ」と返事をしておいた。ナッツンはどうやら大麻が抜けて、無気力状態らしく、僕が目の前で手を振ってもなんの反応もなかった。かわいそうに。


よくわからない謎の空気のまま、みんなが順番に歌を歌っていく。なるほど。複数人でカラオケにくると、ひとりずつ曲をいれていくわけだ。すると、部屋はひとつなのに、料金は人数分でボッタクリじゃないかと思ったりした。

みんなが歌う歌は、けっこうどこでも流れていて、聞き覚えのあるメロディばかりだった。僕はあまり聞かない音楽だけど、ほとんどが愛とか恋についての歌だ。「きみは運命の人じゃない?」「いつか日がのぼるまで、二人でいよう?」うーん、よくわからない。


僕はディー・オーの悪党の詩をうたった。綾瀬さんは露骨に嫌そうな顔をしていた。よっしゃ、と僕は心の中で思った。男子はなぜか、「本物だ」とか「それな」という、よくわからないコメントをしていた。


綾瀬さんの選曲はアニソンばっかりだった。

女の子が、悪の組織と戦うようなアニメの曲だ。彼女が僕を無理やりにでも更生させようとするのは、アニメの影響だったわけだ。僕はアニメの制作会社を呪った。そういった、子供に洗脳をほどこすようなアニメの制作はやめるべきである。


みんながヘトヘトになるまで歌って、カラオケ屋で解散となった。

僕は、まぁカラオケなら、皆と行くのも悪くないなと思った。なぜなら、そんなに話をする必要もないので、僕が他人の名前や、話の内容を覚えられなくても特に問題はないからだ。

綾瀬さんからラインがきて、「どうだった?」と聞かれた。

「悪くなかったよ」と返信しておいた。

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