第18話 僕の世界線
「ニック! 僕達は同じ世界線だよ!」
グレンが帰って来て食事が終わった後、その話しをした。
「そうか、同じか……」
「調べてきたよ、確認もした。この世界線にいる来訪者でこの世界線に留まると決めた来訪者は多い。君も知っている様にターナー夫妻のような人達だ。この世界線に長くいた、もうこの世界線が自分の世界線なんだと」
「帰りたいと希望した者は‥‥‥帰したよ。後はニックと桜、君だ‥‥‥ようじ」
ミアとグレンは、僕をじっとみる。
「僕は、この世界線で出会った人達が好きだ。この世界線だって、僕は‥‥‥」
沢山の人達の顔が浮かぶ‥‥‥あつしも、こんな気持ちだったのかな?
「今日はもう寝よう。まだ、あの花は咲かない」
グレンはそう言うといつもの様に頭を撫でキスをする。
沢山の人を帰して来たが自分の事なんて考えていなかった。今更か、グレン、ミア、僕がこの世界線にきてからずっと傍にいてくれた。たった二年だ。なのに……こんなに別れがたいなんて……だが、ここは僕の世界線じゃない……
朝はまた来る、エレンも来た。僕の髪で遊ぶ。短くなった髪にリボンを沢山付けていく。ニックはそれを見て、めちゃくちゃ笑っている。
「へえ! ようじって女顔だから似合うじゃないか、リボン」
桜も笑っている。
こんな日常が無くなってしまうのか‥‥‥グレンもミアもいつもと同じだ。変わらない。
あの花はまだ咲かない、その事にほっとしている僕がいる。
ニックのジョギングは毎日の日課になっていた。
「ふう! 気持ちいい」
シャワーを浴びて気持ちよさそうだ。ベランダでニックと話す。
「なあ、ようじ、お前この世界線の人達に好かれているんだな。でも、ここは俺達の世界線じゃないよ。向こうにだってお前を待っている人はいるだろう?」
「そうだな、うちはおやじが死んで母さんだけだから、心配してると思うよ……解っているよ‥‥‥解っているさ」
そこまで、言うと後の言葉が出て来ない。ニックの言う事は正しい解っているけど……寂しいんだ‥‥‥。
その時が来たら帰らないといけないんだよね。僕の役目は終わったんだ。あの時、グレンがあつしに言った。この世界線に長く居ると帰りたいと言う思いが薄れてしまうと……その事を思い出す。
未練たらたらだよ。あつし、僕も同じだ。
その時が来た。“らん”の花が咲く。ミアに朝そう言われた。
「わかった」
「今まで、ありがとう。グレン、ミア、僕の傍にいてくれて」
僕、ちゃんと笑えているかな?
「ニック、桜、一緒に帰ろう」
二人に向かって言う。
その日はエレンも来て、一緒にセントラルパークに来た。
「私、ようじの事忘れないわ。楽しかった!」
ミアに抱きしめられ、頬にキスをされた。
「元気で」
グレンも僕を抱きしめる。
「愛しているよ。ようじ……幸せになるんだ」
「うん、ありがとう。グレンあの人に伝えて、あなたの造ったこの世界はすばらしいって。こちらに来た来訪者だってここに居たいって言わせる位だよ。それに僕だって……こんなに別れが悲しいんだ……それ程この世界は素敵なんだよ」
「わかった。必ず伝えよう」
そう言って僕の頭を撫でキスをする。最後のキスだ。
“らん”の花が咲く。セントラルパーク一面に‥‥‥皆にも見えるといいのに……“らん”の花とてもキレイだよ。その時、花はいつもより輝く。エレンが、グレンがミアが、言った。「キレイ」と。僕達は光の中いた。ニック達に言う。
「帰りたい場所を思い出して、帰りたいと願って!」
皆の姿が見えなくなって行った。
※ ※ ※
僕はコンビニの前にいた。雨が降って雷が鳴っているあの時と同じだ。帰って来たんだ。僕の世界線に。
ニックや桜も帰って来ただろうか?
※ ※ ※
梅雨の雨は終わり夏が来た。
やっぱり日本の夏は暑いな、僕は吉祥寺に来た。何となく彼女に会えそうな感じがしたから。駅には沢山の人がいる。
そして、見覚えのある顔に会った。
「やあ、久しぶり」
僕に気づき近寄る人影。
「私も会える気がしていた」
桜は笑顔で言う。
「ニックも帰って来れたんだね」
僕は確認する様に聞いた。
「ええ、向こうに行く前に帰っていたから驚いた。髪もその時のまま」
「それでね。ニックったら、あれから猛勉強するようになったのよ。日本の大学に行くって言ってる。だから、日本語も覚えるんだって」
「そうか、やりたい事が見つかったんだね」
「私も、歴史について学んでみたい。それだけじゃない建築に関しても、もっと勉強したいと思っているの歴史的建造物って奥が深い、建物を見るとその時の人々の暮らしが見えてくるのよ」
瞳を輝かせて僕に語ってくれる。
色々な選択肢があるように僕達にも、色々な道が用意されている。世界が1つじゃないのと一緒だ。
探そう、僕も。来年は心理学を専攻しようかな? 今はもう人の心は見えない。でも苦しんでいる人は多い。僕に何か出来ないかな? その人達のために……。
僕はこの世界線で生きる。僕に出来る事を探しながら。
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