第13話 小さな来訪者
僕達の存在は知られているようだ。
来訪者を囲う者達は恐れている。保護申請をしていればそんなに怖がる事ではないと思うのだけれど。オークションは裏ではそれなりに今でも行われているようで、仲間が時々潜入しチェックをしているようだ。
ある日は、仲間からオークションに来訪者が出ると情報が入ってきた。以前フェンを落札したシェルターからの情報だった。
人身売買はこの世界でも禁止されている。来訪者も当然だ。だが来訪者は突然やってくる。なので突然現れたと言えば何も言えない。言い訳はいくらでも出来るしそれなりに考える。
その日、そのシェルターと一緒に会場に向かう。僕はあつしが置いて行ったカラーコンタクトをつけサングラスをする。金髪のウィッグを被る。これは、元の世界線に帰した来訪者からもらった者だ。必要なくなるからと有難く受け取った。
会場に入ると、来訪者の話をしている人が多い事に驚く。
「久しぶりだよ。来訪者なんて」
「今度は生きている来訪者らしい」
「少女らしいじゃないか」
「愛でるには丁度いい」
胸くそ悪い言葉が飛び交う。こんなに感情が乱れ飛ぶ場所は苦手だ。本当に気分が悪くなる。
「グレン、僕やっぱり外にいるよ。気分が悪い」
「辛そうだな、顔色が良くない」
グレンに付き添われ外に出る。車の中で待つ事にした。ここから呼び掛けてみよう何処かに居るはずだ。何処に居る? ……はあーっ……ダメだ……感じない……感情が読めない‥‥‥どうして?
会場の中は興奮に包まれる。
「では、皆さま。お待ちかねの最後の商品になります」
幕が上がる。そこには茶色の髪を持つ子供の姿があった。グレンも驚くその子供の表情は硬い、下を向いている。
「髪はブラウン。瞳もブラウンだ。言葉は英語が話せる。性別は女です。推定年齢は10歳だ。さあ! 始めましょう! どなたも後悔されませんよう」
オークションが始まった。どんどんその値段は上がっていく。最後に残ったのは仲間のシェルターだった。
「他にはいませんか?」
「はい! 落札」
オークションは終わり、少女は引き渡された。隠すように少女は会場から出される。シェルターと一緒に車に乗る彼女は後部座席に座った。僕の隣にいる。
「大丈夫だよ。何もしないから」
返事が無い? その時彼女から流れてくる感情はこれは‥‥‥“無”‥‥‥ 彼女は完全に心を閉ざしてしまっていた。感情を持たないようになってしまっている。困ったこれではいくら心に呼びかかても届かない。
「どうだ? ようじ。彼女は」
グレンも心配している。
「完全に心を閉ざしている。僕の声は彼女に届かない」
「そうか……」
シェルターの仲間とは、その場で別れ家に帰る。
「家に帰ろう」
ミアが出迎えてくれる。
「お帰りなさい」
少女は無言のまま家に入る。着ている服は高級な物だった。出品者はかなりの大金を使い彼女を買い取ったのだろう。今となっては貴重な存在の来訪者だ。今回はその時の倍以上はしただろうと、さらっとグレンは言うけれどそんな大金持っていた事に今更驚く。
「彼女は英語が話せるらしい」
そうミアに話す。ミアは彼女を抱きしめ、そっと何かを言った。少女は無言のまま表情は変わらないが、つーっと頬に涙が流れる。
「今夜はもう寝ましょう」
「私の部屋で休ませるわね」
ミアは少女と部屋に入った。
グレンは
「知らないフランス語ばかり聞かされていたのだからな。いくら翻訳機があっても機械の音声だしそれに……きっと翻訳機なんか使っていなかっただろう」
「直接言葉を聞いて伝わるものがあったのかの知れない」
あつしの時を思い出す、日本語が聞けて嬉しかったな。
「ミアに任せるか」
翌朝、相変わらず何も話さない。ん~……表情は昨日よりかは軟かくなったのかな? ミアが食器を片付けていると、彼女が後を付いて行く。どこかで見た光景だ、フェンを思い出す。
ミアの服を引っ張って何か言ってる。ミアはそれに笑顔で返している。凄い! 流石だ! でも感情は伝わってこない”無”のままだ。
彼女はその後窓際に椅子を置き座った。無表情なままいつまでも座っている。まるで人形のようだ。
……そうか彼女は人形になっているのだ。現実逃避か……? 少し彼女から何かが見える。豪華な家具が並ぶ部屋の中で着せ替え人形の様に座る少女に姿、そこまでしか分からなかった。
僕は彼女の前に自分の姿が見えるように目線を合わせて笑顔で見つめる。そのブラウンの瞳に僕の黒髪が映る。すると、段々とその瞳が大きく開かれて行く。気づいてくれた。彼女の感情が流れ込む。
どうして? どうしてここに私は居るの? この人達は誰? 何を話しているの? 解らない。嫌! お家に帰りたい! ママーーーー!
これはこの世界線に初めて来た時の感情か。困惑、哀しみ、否定、そして……絶望へと変わる。
暗い部屋の中……足には鎖、初めは拘束されていたのか。
大人に連れ出され、また、知らない人の所へ。
こうしていれば何もされない。じっとこのまま、私はお人形になっていれば、いい……。
そこで、目の前にいる僕に気持ちが向く……誰? 黒い髪‥‥‥黒い瞳。
「ようこそ! オリビア。君の事教えてよ」
笑顔を向けて微笑んだ。彼女がミアを目で探している。……ミアが気づき少女の元に近寄って来る。
「大丈夫よ。彼は日本人。この世界の人間じゃない。あなたと同じで、この世界に迷い込んだ人よ」
と、英語で話す。
「日本人……」
ミッションスクールで仲のよかった友達に、日本人がいた。春子……。
「ともだちに春子と言う名前の日本人がいたの」
真っ直ぐ僕を見て言う。
「そうなんだ、良かった。ここに来て初めて話してくれたね」
遠くを見ていた瞳はしっかり僕を見ている。
「心細かったよね。良くこれまで頑張った」
この世界線に来て二年はいただろう。季節が流れていくのがわかる。
そこからはミアにしがみつき泣いていた。僕は少女の頭を撫で力を使い寝かせた。
ソファーに寝かせ、グレン達に話す。
「二年以上この世界にいたんだ。こんなに小さいのに……」
「初めは監禁されていたようだ……この二年の間にこの子はすべてを諦めてしまった。心を閉ざした……言う事を聞いていれば命までは取られない。と本能でそうしたんだ」
「どちらにしてもこの少女は元の世界線に帰す。だが、このまま帰すのは……その前に壊れかけた心を何とか癒してあげたい」
グレンは少女を見つめる。ミアも頷く。
少女が目を覚ましたのは夕方だった。僕は話しかけた。
「オリビア……で、会ってる? 君の名前」
「そう、会ってる」
「僕はようじ。彼がグレン。彼女はミアだよ。言葉分かるよね?」
「ほんとだ! どうして?」
「僕が魔法をかけた。だから、心配しなくていい」
「魔法使い? じゃあ、他の魔法も使えるの?」
「まあね! 僕は魔法使いだから」
……よし! いい感じだ……
「それなら、私をママの所に帰して! こんな所に居たくない」
まあね……そう言われると思った……。
「帰してあげるとも絶対に! その前にオリビアが元気にならないとママが心配するだろう?」
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