第12話  もう一つの選択


「今日はこの屋敷に入る」

 グレンは腰に手を当て胸を張って言う。


「グレン、ここに居る来訪者は何故か僕達を拒んでいるよ。理由は解らないけれど」


 そう、ここに来訪者は居る。初めてコンタクトがとれた日こそ嬉しいと言う感情は見せてくれたが、それ以降は拒否されてしまった。グレンもこの屋敷の人物に会っている。しかし、来訪者については語ろうとはせず、追い返えされた。


 今やこの世界線のトップと言って位の存在になっている。をだ。


 政府に干渉はしないが、立ち位置は裏ボス的な感じかな? なにせ、神に愛されている人だからね。誰も逆らう事は出来ない。な・の・に、だ。


「だから、堂々と正面から入って直接理由を聞くんだよ。その方が早い」


「僕は必要ないよね。交渉はグレンがいれば大丈夫でしょう?」


「何を言っている。俺も一度は追い返えされているんだぞ。ようじにはその人物の心を覗いてもらはないと困る。口ではいくらでも適当に誤魔化せる事が出来るからな。本心は俺でも読み取れん」


「仕方ないな、着いて行くよ」


 その屋敷のチャイムを鳴らすと、その大きな門が開く。メイド服の使用人が現れ僕達を案内する。僕の姿を見ても驚く様子はない、長い廊下を歩く。


「ここで、お待ちを」

 と言われ、部屋のソファーに座る。


「お飲み物は何にいたしましょう?」

 メイドに聞かれる。グレンは


「必要ない、家主は?」


「もうしばらくお待ち下さい。間もなくいらっしゃいます」


 足音が近づき、部屋の前で止まる。


「これはグレン様。今度はどの様な用事でしょうか? 来訪者を連れていらっしゃるなんて……」


「‥‥‥その方は選ばれし者ですよね?」


 その声に僕は悪寒が走った。この人は! ……その人物に向かって僕は


「何人殺した」


 その言葉にグレンの表情が変わる。


「ほう、流石ですね。何人だと思いますか? 今のコレクションは、まだ50にも満たない。そう貴方のような東洋人の瞳はコレクションにはないのですよ。何せ絶・滅・種・なので」


 僕には見えている。この屋敷で何が行われていたのか。これは、この屋敷が僕に見せているのか……。


怒りで握った拳が震える。


「手荒な事をする気はありませんのでご安心を」


 と言うとツカツカと僕の前に来る。


「美しい」

 僕の髪に触れながらその家主は、僕の瞳をじっと見つめる。そこで、グレンが立ち上がる。


「それ以上ようじに触れるな!」


 グレンがその人物を僕から離す。


「そんなに大切ですか? 知っていますよ。片時も話さないようですね。貴方達の事を知らない人はいない」


「……グレン様は美しい東洋人を独り占めしていると、もっぱら評判になってますよ。羨ましいと皆言っております」


「この屋敷の中にいる来訪者に会いに来た。いるのだろう?」


 グレンはやや声を低目にして言う。


「選ばし者を連れて来られては、もう、誤魔化せませんな」


「会ってどうなさる。あれは私の者だ。あれもここに居る事を望んでいる。帰りたがっている者を帰せば良いではないですか」


「合わせるつもりはない。と?」


「では、本人の口からお聞きになるといいでしょう」


 メイドに向かって連れて来るように話す。しばらくするとその人物が現れた。銀髪に、グリーンとゴールドの瞳のオッドアイ、間違いない来訪者だ。


「僕の事わかるよね。何度も君に話しかけた」


「どうしてここに来たのですか?」


「君をここから連れ出したいと思っている。一緒に行こう!」


 彼女から流れて来る感情……それは孤独……この世界線に来る前の世界線。奇異の目で沢山の人々から見られ、罵声を浴びせらている……そんな哀しみに暮れる彼女の姿だった。


「私は、行きません。元の世界線にも帰りたくありません」


(この人がどんな事をしてきたのか知っています)


そう心の声が言う。


「ここでは皆私に優しくしてくれます。この姿を美しいと言ってくれます。前の世界線では呪われた子と蔑さげすみ苛さいなまれていました。だから、私の事はそっとして置いて下さい」


「グレン様これでお解りでしょう? この者は帰りたくないと言っているのですよ。その来訪者の方も分かっているはずですが?」


 グレンが僕を見る、僕はグレンから視線を逸らす……。


(君もここに居たらいつか同じ様にコレクションにされてしまうかも知れないのだよ)


(それでもいいのか)


心の声で語りかける‥‥‥が答えは返ってこない。


「部屋に戻ります」


 その来訪者はそう言うとメイドと部屋を出て行った。


「グレン様、お聞きの通りです、彼女は私の元でお預かりします、傷つけたりしません身の安全は保障します。政府には逆らいません」


(‥‥‥生きているうちはね‥‥‥)


 家主は、ほくそ笑む。そんな家主にグレンは


「わかった。その代わり政府に来訪者の保護申請を出しておくように」


 僕達は屋敷を後にした。


 屋敷では、彼女の手を取り頬ずりをする屋敷の男の姿があった。


「ああ、私のマリア、ここを選んでくれると信じていたよ」


 彼女の膝に顔を埋め、子供様に甘えている。その頭を撫でながら


「何処にも行きませんよ。私の居る場所はここなのですから」


 屋敷を出て車を運転しながらグレンは不機嫌だった。眉間にしわを寄せ口はへの字になっている。


「ようじ、何が見えていた」


 僕に何かが見えていたのを知っていたのか……。


「そんなに知りたい?」


「当たり前だ! 納得できん!」


 あまり見せたくないけど、納得できん。と言われたら……見せるしかないか、あれを。


「じゃあ、車を一旦止めて」


 車が止まる。僕は片手をグレンの両目にそっと当てコレクション部屋の様子を見せた。


 あの中にあるコレクションと言われていた物は『来訪者』であろう体がはく製にされ、眼球は個々にガラスのような入れ物に入っていて並べられていた。


 グレンは僕の手を握り顔から離す。


「狂ってる……オークションで体の一部が取引きされているのは知っていた。あいつも参加者か? それだけではないな、この感じだと出品もしていたな」


「‥‥‥彼女をただのオークションで手に入れたとは思えない。別のルートがあるのか? これは、調べる必要があるな」


 この行為は許されるものだはないが。来訪者の身の安全については、つい最近決められたものなのでそれ以前の事について法では裁けない。悔しいが、彼女が選択したのだ。この世界線であの場所で生きる道を。


 車は屋敷から遠ざかる僕に出来る事は願うだけだ。これからの彼女の幸せを。


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