第11話 この世界の真実
車に乗って向かう。途中の車の中では誰も話さない。静かすぎて緊張して来る。
大きな門の前に着くとセキュリティーチェックを受けた。門が開きまた走り始める。今度は大きな建物の前に着いた。
車を降りると厳つい制服を着た男性に鍵を預ける。階段を上がるとまた、厳つい男性がドアを開けてくれる。そして僕達の後ろに回る。
グレンは知っているかの様に迷わず歩いて行く。
ある扉の前に立つと、後ろにいた厳つい男性が扉を開ける。男性は一礼すると扉を閉めた。中にはカーテン越しに人影が見える。
「久しぶりだね二人とも、ようじ初めましてだね。君の事は解らない事も多いが」
カーテンが開く、そこには白髪の男性が煌びやかな椅子に座っていた。
「近くに」と手招きされ、その人物に傍に行く。
「君が選ばれし者か」
何だこの感じ……この人から流れる感情……そして……なんだ! この光景は‥‥‥!
余りの恐ろしさに立っていられず、僕は両手で自分の腕を強く掴みしゃがみ込む。
「そうか、君には見えているんだね」
「そうだよ、私が一番初めに来た来訪者だ。酷いだろうその光景は」
見えている……僕には見えている。
グレンが慌てて僕の所まで来て、肩を掴み大きく揺する。
「ようじ! 飲まれるな! しっかりしろ」
恐怖の余り、顔が引きつっているのが自分でも分かる。その人物の生きてきた長い時間の記憶と感情が流れ込む……頭がパンクしそうだ。
「俺は真実を聞きに来た。話してくれるのですよね」
その人物は僕の前の来ると片膝をつき、僕の頭に手を置く。僕は目の前が暗くなり意識が無くなる。
「彼には可哀そうな事をした。刺激が強かったかな」
グレンはキッとその人物を見つめ返す。
「真実か、何故知りたがる。君が色々探っていたのは知っている」
「今はこんなにも豊だ平和だ。それでいいではないか」
グレンは僕を抱えながら黙ってその人物を見つめる。
その人物は立ち上がる。
「では、話そう。私がこちらに来た一番初めの来訪者だよ。こちらに来た時はそれは酷かった。天変地異で自然はその姿を変えてしまっていた。人々は無用の争い事を繰り返し、人々の命を奪う。それとは別に未来を嘆き生きる事を諦めてしまう者も多かった。そして人類は減ってしまった。このままでは人類は存続できなくなってしまう、そんな時期に私は来た」
「勿論戸惑い、自分の運命を嘆いた。ここに呼ばれた理由を探す事は簡単だったよ。余りにも当時は酷かった。だから、こんな悲劇は終わらせなければならないと。私は、まず、自分の力を見せた。建物を破壊し再生させた。それから私はこの世界線の神となった……」
「帰れなくなった私は、この世界線で生きて行かなければならない。だから、次々と現れる来訪者に話をし協力を頼み建物や自然までもコピーし復元させた。
そして、減ってしまった人類について考えた。分かり合えないのなら、偏見の原因である容姿を決めてしまえばいいのだと、そして沢山クローンを作った」
‥‥‥‥‥‥。
「だが、クローンからクローンへと作り続けていくと劣化してくる。そんな時ミアが現れた。理想的な容姿を持って……何かの意思を感じたよ。これで人類は安泰だ。それに、元々遺伝子工学を研究していた私は、他にも色々な物を作りこの世界線の人間に教えた。そうして出来たのがこの世界線だ」
「だが、みんな私を置いて逝ってしまったよ。私だけが残ってしまった」
その人物は、グレンに抱かれる僕を見て。
「選ばれし者か……私は……もう必要ないのか。この世界線で……こんなにも尽くしてきたのに……」
誰かに訴えるように話した後、しばらく沈黙が漂う。ぐったりとする僕を床に寝かせ、グレンは立ち上がる。その人物に向かって
「真実は解りました。この世界線はあなたが作ったのだと。その考えも今は理解出来る」
次第にその声は大きくなり
「言わせてもらいます! 貴方はただ単に過去に縛られて、動けなくなっているだけじゃないか!」
その声は部屋中に響いた。
「そうか。過去に縛られているのか。私は……未来を信じて作ったこの世界線に……」
グレンはその人物に近寄り、
「数百年前の災害だってこの世界線の人間が原因で起こしたものだろう。ならば、これから先は俺達、この世界線の人間が考えて行けばいい、同じ過ちを繰り返さない様に……だから」
「……貴方が責任を感じる事はないんですよ。もう、いいんだ……」
その人物はゆっくり深呼吸をすると
「グレン……私は、この世界線を君達に渡す事を恐れていたのかも知れない。きっと変わってゆくのを認めたくはなかったのだ。だから、私はここを離れられずに居るのだろう」
「ミア、君はこの世界線に居てくれるのだろう?」
静かにミアは、
「前にも言いましたよ。私はこの世界線で生きて行きますと。それは、今も変わっていません」
「そうか、よかった。彼が現れた事で前の世界線を恋しく思って、帰ってしまうのではないかと不安だったのだ」
「そんな事なら私だけでよかったのに。神である貴方が心配する事はないのですよ」
「歳をとると心配性になるのだよ、それに会ってみたかったのだ。“ようじ”という人間に」
その人物は何処から出したのか宙に浮くキューブ型の箱をグレンに渡す。
「政府の人間には色々事は伝えてある」
そう言うと
「この世界線を君達に託そう。グレン私はまた眠るとするよ。今度私が起きた時にもまた、会いに来てくれるかい?」
「俺が生きていたら、会いに来ますよ。話もします色々とね」
人物は笑顔をグレンに向けた後部屋の奥へと行く。カーテンは降ろされた。
帰りは、僕は厳つい男性にヒョイと抱えられ車に乗せられて家に帰って来た。
僕はしばらく眠っていたようだ。
その間に夢を見ていた。
それはあの人の記憶なのだろう。まるで映画を見ているようだった。自然は段々と復元されていく。緑も徐々に増えていく。
建物も、在りし日の姿を現す。欧州には国も戻り、アメリカも一部の州が戻っていく。
人々も増えてる……同じ姿のクローン達。街並みはそのクローン達であふれる。
来訪者だろう顔ぶれが、いくつも現れては消える。こんなに沢山の来訪者達が来ていたのか。
過ぎていく時の中、暗闇が襲う……寂しさと孤独……これは、あの人の感情だ。そんな中光が見える。子供? これはきっとグレンだ。温かい。そし再び暗みの中へ……。
あれから三日後に僕は起きた。起きてもしばらくまだ、夢と現実の間にいるようで。ぼーっと庭を見ていた。
グレンが覗き込み、僕の頭をポンポンと撫でる。
「なんだ? まだ、夢の中か?」
「不思議な人だよ。あの人は一旦寝ると何年も寝ている。最近ではようじ、君がこちらに来てから目覚めたんだ。本当は何歳なのか解らない」
ぼーっとしながらグレンに聞いてみた。
「どうしてミアの監視役がグレンなの?」
グレンは向かい合わせで座る。
「俺はね、ミアのクローンの一体だが欠陥品で処分対象だったんだ。それを、あの人の気まぐれで生きる事を許された。それからあの人の下で色々学んだよ。あの人は自分の知識を残したかったのだろう」
そこで、ミアが
「あの人はあなたを愛していたわよ。見ていれば分かる」
「そりゃあ叱られたりはしなかったさ。でも、あの人の俺に対しての特別扱いは俺を孤立させた」
「そうか、だからグレンがミアの監視なんだね。大切なミアを任される位、信頼しているって事でしょう?」
少し驚いたグレンだが、明るい声で
「あの人から、来訪者に対してその身の安全を保障すると約束してもらえた。政府の人間はあの人には逆らえない、そう刷り込まれてる。だから、これからは、誰にも邪魔されずに来訪者を帰せるぞ。さあ! まだ何処かにいる来訪者、まずは金持ちの変態野郎から来訪者を見つけ出して帰してやろう。まだまだ終わりじゃないぞ」
相変わらずのキラキラしたイケメンスマイルで僕に言う。
……なあ、あつし。そっちの世界線では楽しくやっているかい?
僕はまだ、しばらく帰れそうにないや。
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