第7話 あつしと同じ世界線

‥‥‥そんなある日。


「やばい、深入りしすぎた」

 と息を荒くしてあつしが帰って来た。グレンはその様子を見て。


「ここを出よう」


 と言う。ミアが各自に荷物を渡す。勿論フェンもだ。ミアが指を鳴らす。そこはフランスの家だった。


「シェルター大丈夫かな?」

 とあつしが心配そうに言う。


「まあ、オークションに行っていた事はバレたかもしれないが……大丈夫さ、上がもみ消す」


 もみ消す? 上が? 何か納得はいかないがグレンが大丈夫だと言ってる。大丈夫だろう。けれど大丈夫じゃない人がここに居たフェンだ。ミアの力を体感し荷物を抱えてキョトンとしている。そんなフェンにあつしが、


「ミアの力でここに来たんだ」


 と何故か自慢気だ。そこですぐにドアがノックされる。


 僕とフェンは奥の隠し部屋に隠れる。ドアが開く……。


「やっぱり帰ってきていたのね! 何かあったら言ってね。あの、彼はいるのですか?」


「大丈夫だよ。ようじ、こっちにおいで」

 グレンに呼ばれたので出てみる。と、その人は突然僕の前に膝まづく。


「こんな日がくるなんて」


 と見上げたその瞳は潤んでいた。そして嬉しそうに帰って行く。


 どういう事かグレンに聞いてみた。どうやらエレンが奇跡を目撃したと仲間に話しているようで回り回ってこうなったと……困るからと話してもどんな時代でもヒーローは必要さ、と笑うだけだった。そんな会話をしていると奥からフェンが出てくる。


「私、フランス語なんて話せないわ」


 と泣きそうになる。そうだよね、そうなるよね。僕はフェンの頭にそっと手を置く。するとフェンが急に前かがみになる。


「気持ち悪い、吐きそう」

 洗面所に連れて行く……盛大に吐いた。うーん、これは何かの通過儀礼か? あつしの時を思い出す。


「ごめんなさい……オークションの時を思い出して…」

 と震えている。


「奥の部屋で休むといいよ」


「嫌よ! 私を1人にしないで!」


 と僕にしがみ付く、恐怖と絶望の感情が流れてくる。ミアが帽子を持ってきて被せる、短くなってしまった髪は帽子にすっぽりと収まった。今度はミアにしがみ付きそのまま一緒にソファーに座る。すると再びドアがノックされる。怯えるフェン……グレンがドアを開ける。



「やあ! 帰って来たと聞いてね。来てしまったよ、彼はいるのかい?」


 僕の事だろうと思いその人の前に出る。すると、同じそうに膝まづく。


「神に感謝を」


 そう言い僕を見上げる瞳は潤んでいる。そして同じように帰って行く。それまで黙っていたフェンが、


「言葉が解るわ!」


 と立ち上がる。あつしが親指でくいくいと僕を指さす。


「凄いわ! ようじ!」


 さっきまで震えていた少女とは思えない。


「これで、シェルターのモチベーションが上がったな」


 イケメンスマイルで僕を見る。




 また五人での生活が始まった。


 せっかくなので、フェンにフランスを見てもらおうとなり町に出かけた。子供用のサングラスをかけ、帽子を深く被る。あつしに抱っこされての散歩になるが、意外と気に入っている様子。右だ左だと指示をしている。困り顔のあつしだが喜んでいるのが分かる。


 僕もミアから頼まれた買い物を済ませる。グレンも仲間からの情報を貰っている。いつものカフェに寄りアップルパイを食べる、テイクアウトも頼んだ。楽しい散歩の時間は終わり帰る。ずっと何処にも出ていなかっただろう、帰りの車の中でフェンは幸せそうに寝ていた。


 帰りたいよね。早く家族の所に帰してあげたい……フェンの寝顔を見て思う。それは、意外に早く訪れた。



 翌朝、起きると鼓膜が振動している。耳鳴りが酷い、これは時空の歪みだ。グレンに報告した後フェンの部屋に向かう。


「遅くなってごめんよ。パパとママの所に帰ろう」

 フェンと手を繋いで外に出る“らん”の花が咲いている。


「パパとママの事を思い出して、帰りたいと願えばいい」


 眩しい光に包まれた繋いでいた手の感触が消える。強い風で花は舞う風が止むと僕は一人になった。そして、部屋に戻る。


「お疲れ!」

 と言ってあつしに肩を叩かれた。




※    ※    ※




 そして、また来訪者はやって来る。


 シェルターのいない来訪者が来た。


「ほんとに、いたー! 君がようじだよね! ほんとに黒髪だあ。ねえ! 日本って知ってる?」


なんだこのじゃれてくる犬のような人は……


「ようじも俺も日本人だよ」

 あつしが間に入って言う。


「そうなんだ! 僕のいた世界線でも日本人はいたからね。会えて嬉しいよ! 僕、ミシェルっていうんだ宜しく」


「あつしの少し前にこっちに来たらしい。元々フランス人なんで言葉とかは苦労しなったようだよ」


 グレンが、その人物について話す。


「そうなんだよ……びっくりしたよ。僕の大好きな日本が無いなんて! おかげでこっちのゲームなんかのつまらなさって半端ないよ。ゲームに関して日本に敵う国はない!」


 なかなかの熱量で語ってくれる。隣のあつしが鼻息が荒くなる。


「そうなんだよ! つまんねえんだよなあ、やった感が無い!」


 二人はしばらくゲームについて語り合っていた。


「もしかしたら……俺達同じ世界線!?」


 なんと! あつしとミシェルは同じ世界線のようだ。


「あつしも一緒に帰ろうよ」

 ミシェルが言う。だがあつしは、


「俺はまだ帰れない。やる事が残っているからな、終わったら帰るよ。そん時はミシェル、お前の所に一番に連絡するからさ! 待っててくれ」


「‥‥‥わかったよ。君の気持ち待っているよ。僕は早く帰りたい。ここが自分の知らない世界だとわかった時絶望したよ。僕は相手の考えている事が分かるんだ。だから、僕達が『来訪者』と呼ばれている者だって事もその来訪者を保護してくれる人をシェルターと呼ぶ事も、そして、君が選ばれし者だって事も……だから、君を探していた」

「俺の後をずっと付いてくるから、何だろうって思っていたら頭の中で、見つけたー! って言われた時には流石に驚いたよ」

 とグレンが言う。


「その‟らん”の花はいつ咲くの? 僕はいつ帰れるの?」


「わかった、わかった。予兆があったら伝えよう、ミシェル」


 グレンの苦手なタイプなのかな、何か困っているようにも見える。大きなラブラドールレトリーバーが待てってされてる時みたいだ。


 数日経ってミアからあの花が咲くと聞いてミシェルに連絡をした。


「ありがとう! やっと帰れる! あつし、先に帰っているよ。帰ってきたら連絡して! ほんとにありがとう!」


 大きなわんこが尻尾を振っているように見えた。


 そして彼は帰って行った。


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