第8話 パリの休日

 グレン達はよく出かけるようになった。そんな夜遅く六人の仲間であろう人達と帰って来た。テーブルを囲むように座る。ミアがアップルパイと紅茶を出してくれる。その紅茶を飲んでいる一人の顔を見て驚いた! 見覚えがある! そうだ‥‥‥あのカフェのウエイトレスだ!


「やっと、思い出してくれたようですね。あなたが選ばれし者だったなんて……あなたの事は小さい頃から知っていますよ。あなたの髪久しぶりに見たわ……美しい」


「あなたもシェルターだったのですね」

 優しく笑顔を向けてくれる。


 グレンが言う。

「ようじ、今回は三人一緒に帰してもらいたい」


 相変わらずな無茶ぶりに心臓の鼓動が早くなる。仲間の一人が


「世界線の話をしていたら、同じような話を聞いた事があったので合わせてみたんだ。この三人は同じ線にいたのだよ」


「俺達も調べてみたよ。こちらに来た時期はそれぞれ違うが同じ世界線だった」

 グレンが加えて言った。


 こちらの世界線の人間とは違う1人が


「もう……ずっと帰れないと諦めていた。でも、あなたの存在を知って……帰れるんだと解った。俺達を元の世界線に帰して下さい」


 三人から熱い視線を向けられる。グレンが出来ると言っているんだ。大丈夫、出来るさ。


「わかりました」


 僕の言葉に三人は喜び、帰ってからも会おうと連絡先を交換していた。嬉しそうだ。お茶を飲み終わる頃、またあの感じ鼓膜が震える‥‥‥。


 僕が耳を押さえるとグレンが三人に外に出るよう促す。僕も一緒に外へ出る“らん”の花が咲いている。三人に言う


「帰りたい場所を思い出して、帰りたいと願って!」


 眩しい光に包まれ、強い風が吹き花が舞う。誰かが言った。キ・レ・イ と


風が止み花は散る……力が抜けていく……目の前が暗くなった。


 目が覚めると、シェルターの三人が心配そうに僕を見ていた。


「ありがとう。彼らに代わってお礼を言わせてくれ」


 その横でウェイトレスのシェルターが泣いている。そうだよね、長い事一緒に居たんだ……寂しいよね。しばらくすると、三人はグレンと握手をして帰って行った。


「これで、シェルターのモチベーションは一気にあがるな! 忙しくなるぞ」




※   ※   ※




 それから、どんどん情報が入ってくる様になった。


 今、来訪者はどの位シェルターの下にいるのか、改めてその人数を計算してみた。


 来訪者の中には病を患い亡くなった人もいる。多くは老衰でシェルター達に、看取られ亡くなっている。来訪者の平均寿命は六十歳と短い。時空を超えた代償なのかは解らない。


 そして、帰りたいと望んでいるかも合わせて確認した。今のシェルターと共にこの世界線に残ると決めている者がいたからだ。


 隣に住んでいるターナー夫妻はここに二十年居る。婦人は来訪者だ。ターナー氏がシェルターだった。一緒に暮らしていく中で自然とそうなったのだろう。婦人は元々金髪に瞳もブルーだった為変装など必要なかったが、歴史については当然違っている為そこは苦労したようだ。


 二人はこの世界線の人達とのコミュニケーションをあまりとろうとはしない。極力避けている。来訪者と分ってしまうと政府に捕らえらる恐れがあるからだ。そんな二人のような生き方も、僕は素敵だと思う。


 結局帰りたいと手を挙げた来訪者を帰す事になるのだが……まとめて帰す事が出来ると知ってから同じ世界線の者はいないか調べてみた。すると意外にいる事がわかり、グループ分けをして帰すと決まった。


 今日も、来訪者はやって来る。


 同じ世界線のグループが来た。シェルターを含めると十人位になってしまうので、いつもの家が窮屈に感じる。僕が来訪者を帰すようになってからシェルターを持たない来訪者も僕達を探しているようだ。


 そういう面倒な事はグレンがやってくれる。


 今日はあの花が咲く。


 その時を待っている間、シェルターと来訪者は別れを惜しむ様に会話が弾んでいる。来訪者達も、帰った後にまた会おうと約束していた。


 そして‥‥‥。鼓膜の振動を感じ、来訪者全員に外へと声をかける。“らん”の花が咲いている、僕は叫ぶ!


「帰りたい場所を思い出して、帰りたいと願って!」


 眩しい光の後花は散りまた僕は体が重くなる。‥‥‥一人になる。


 ソファーに横になる……このパターンにも慣れてきたけれど疲れる……。


シェルター達はグレンと握手をして満足そうに帰って行く。


「ようじ、お疲れ! まだ横になってていいから」

 グレンは、そう言って頭を撫でる。


「ようじが来訪者達を帰すようになってから、あの花がよく咲くようになった。年に一度か多くて二度目撃された事がある位だったのに……やはり俺の勘は当たっているみたいだな。ちょっとキツイかも知れないが、頑張ってくれないか」


 頭を撫でながらグレンが言う。


「大丈夫だよ、この感じも何とか慣れてきたから……所でグレン……いつまで、頭を撫でてるの?」


「ようじが女の子だった時からの癖でつい」

 と言いながらも撫でている。


「りっぱな成人男性になったので、何とかしてもらえると嬉しいんだけど」


「ミアのおかげでサラサラになっているからなあ。グレンの気持ち解るぜ」

 とあつしがニヤッと笑う。


 グレンがこうしてくれていたから、不安な気持ちが和らいでいたのは本当なのだ。まあいいか。


嫌じゃない。


 そして、また来訪者はやって来る。


 その後も違うグループの来訪者を帰した。


 さすがに……ここしばらくのスケジュールはハードだったから…‥疲れたな~……ソファーに転がっていたらあつしが、

「ようじ、ちょっと試してみたい事があるんだが付き合ってくれ」


 あつしに言われてソファーから起きる。とあつしが近づいてくる。僕の頭にそっと手を当てる……なんか視界が明るい!? 髪の色が! 金髪!


「あつし……これって」


「ああ、俺が出来たんだ。他の人にも同じ様に出来ないかなって、そう思ってやってみた。出来たな。そんなに長くは持たないと思うが」


「鏡見てくる!」


 僕は鏡の前に立つ。わあ~金髪だ~瞳もブルーだ! へえ~色が変わるだけで雰囲気って変わるんだ。僕じゃないみたいだ。グレンにも見せよう!そう思っていたら洗面所の前で合った。


「ようじ?」


「そうだよ、あつしが……」


「金髪のようじは、ようじじゃないな。ようじはやっぱり黒髪が似合う」


 プイっと視線を外す。何だ? 機嫌が悪い?


「悪いな、最近こき使い過ぎだよな……」


 機嫌が悪かった訳ではなかったのか……一応心配してくれていたんだ。


「ちょっと出かけるか、その恰好なら帽子やサングラス要らないし‥‥‥」


「うん!」


 一応帽子とサングラスは持って行こう。今日は、天気が良い。


 あつしとグレンと三人でカフェに行ってビックリさせよう。そう言えば名前聞いてなかったな。シェルターのウエイトレスさん、グレンに聞こう。カフェに来た。ビックリしてる。僕は、ウェイトレスの彼女に小さく手を振った。


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