第2話 日本が無い!

「そうだよ。何か思い出した?」


混乱した頭の中、思い出した単語を口にして言ってみた。


「日本‥‥‥」

 震えながら小さな声で言った。


「えっ? 何故君は日本を知っているんだ?」


 何故って‥‥‥


「知っている人はいないよ。俺だって少し聞いた事がある程度なのに」


「あの、その日本にはどうやったら行けるのですか?」

恐る恐る聞いてみた。


「何を言っているんだ? 行ける訳ないだろう。もう無いんだから。その昔、楽園の様な場所だったと聞いたよ。行けるなら行ってみたいよなあ」

 そう言ってお茶を飲むグレン。



……段々思い出してきた……自分は日本人だ。それにこの身体……違和感がずっとあった。そうだ! 自分は男だった。何故女の子なんだ? それに日本が無いって……?


「気になるかい? なら次はいい所に行こう」


 頭の中がぐしゃぐしゃだ……訳が解らない……そんな僕を店の外へと連れ出すグレン。カフェを出ようとした時、風に帽子が飛ばされそうになった。慌てて被り直した……マズイ! 髪がはみ出ている! すると、ウエイトレスの彼女がそっと髪を帽子の中に入れ直してくれた…ばれた! 恐怖で身体が強張る。


「大丈夫、誰にも見られていませんよ」

小さな声で僕に話す。顔を上げられない怖い! でも、優しい声だ……


「さあ! 次へ行くよ!」


 今の様子を見ていたよね? グレン……だがグレンは僕の手を引いてそのまま歩き出した。僕は心臓がバクバクしている。


 車に乗った途端緊張が解けた。走る車の中でも混乱している、何故フランス? 何故女の子? 何故言葉が解る? 解らない事だらけだ。そして車が止まり降ろされた僕は、ぼーっとしたまま歩くそして、


「ここだよ」


 そこは図書館だった。中に入るとグレンはテキパキと本を僕の前に並べ始めた。そこで初めに目についた世界地図を手にとる。そして、開く。そこには見たことのない地図が広がっていた……日本があっただろう場所には何もない無いのだ。他にもあっただろう国が無くなっていた‥‥‥多分グレンはこれを見せたかったのだろう……だから、目の前に置いた……。


「大丈夫かい? 顔色が悪い」


そうだな……変な汗まで出てきたし……。


「気持ちが悪い、吐きそう」

そう言うと洗面所に連れて行ってくれた。思いっきり吐いた、何度も……。


「無理をさせてしまったんだ。悪かったよ」


 帰ろうと言われグレンに抱えてられて車に乗る。車の中で放心状態なっている僕に気を使っているのか何も聞いて来なかった。


 家に帰ってきて抱きかかえられている僕を見たミアは驚き、そのままはベッドに寝かされた。


 天井を眺めながらさっき見た地図を思い出していた。


 どういう事だ。何故アジア地域が無くなっている? 小さな島国は皆無だ。落ち着いて考えよう。現在の状況を知りたい、ベッドから起きて図書館から借りて来た本を手に取り開く。


 今は西暦二千三百年、日本を含めた島国は海に沈んだようだ。それも三百年前にだ。原因は自然災害としか書かれていない。大陸にもアジア人はいたはずだが絶滅したと書かれてある。


 理由は書かれていない歴史はいつもそうだ都合の良いように改ざんされる。おかしな話じゃない。さっき思い切り全部吐いたからかすっきりしている気分も落ち着いた。この後はあの二人に聞いた方が早そうだ。心配かけてしまったからな。


部屋から出ると心配そうに二人がこちらを見る。


「もう大丈夫です。心配かけました」


「思い出したんだね」

 と静かにグレンが話す。


「全部ではありませんが、思い出しました。けれど……自分が知っている歴史とは違うんです! 教えて下さい!」


「君は日本人かい」

直球だった……。


「はい」


 そう答えるしかなかった……。


「まさかねぇ~失われた民族の一人とは……」


「自分はあの日、コンビニの帰りで外は雨が降って雷も鳴っていた。そして‥‥‥気がついたらあの場所にいたんです」


グレンは頬杖をつきながら


「落ち着いたようだね。それで? 君は何が知りたい?」


「今の地球人は白人だけなのですか?」


「白人とは? どういう事かな?俺達みたいな髪の色、瞳の色の事を聞いているのかな?」


 はっとした……白人にも髪や瞳の色が違う人はいた、質問が違う


「違います。そうではなく……」

 と話しを始めると


「何故……人間が金髪……青い瞳なのか?」

 と、グレンが話す。そうだ! そこだ!


「はい! そうです。ずっと不思議だったんです。自分が知っている人間は髪や瞳の色も違う人が沢山いた。でも、町へ行って……皆……金髪だった…同じ……」



 しばらく沈黙があった。グレンとミアは向き合うと頷いた。


「話そう。俺達は研究者だ。ある機関で働いていた……君のように時空を超えて来た人間は他にもいる。その中には言葉が通じない者もいたよ」


「……今、その人達はどうしていますか」


「ある施設で保護しているから大丈夫だよ」


 保護?


「保護とはどういう事ですか?」


「時空を超えて来るとその体には不思議な事が起きる。超能力と言った方がいいのか、ハイスペックな力がついてくるようだ」


「自分にそんな力があるなんて思えない」

 僕はたじろぐ……


「何を言っている? 言葉に不自由を感じていないように見えるが? 発音も完璧だよ。それに、君はあのを超えて来た。普通の人間には出来ない」


 そこからまた沈黙が続く、グレンは続け話す。


「俺達は、この三百年の間に何があったのか本当の事が知りたいと思っている。そして、もう一つ、時空の歪みが現れる場所を探している」


また、頭が混乱してきた。


「驚く事はない、君はこことは違う世界線からきた人間だろう? 歴史が違うのはその為だ。他の人間も君と同じ反応をしたよ」

 グレンは笑顔で話す。


「それで、あなた達はその保護施設で働いている人って事ですよね」


「正確には居たってとこかな俺達は研究所と言われる場所に居た。保護施設とは別にある。ここに居るのもその為だ。このミアはあの”らん”の花が何処に現れるのか解るらしい。だから、ここに来た。もしかしたら……と思ってね」


 成る程ね……それであの時すんなりと家に入れたのか……可笑しいとは思ったよ……保護施設、研究所‥‥‥その言葉を聞いて段々と腹が立って来て、頭に血が上った。


「それじゃあ僕は! そこへ連れていかれるんだ!」


 はっ! つい言ってしまった“僕”と思わず口に手を当てた! 慌てた様子の僕を見て、グレンが言う。


「そうか……君はこちらに来る前は男の子だったんだね」

グレンは自分の顎を撫でながら言う。


「たぶん……そうだと思います。自分の性別に違和感があって……ミアさんを見たとき……自分の好きなタイプだと思ったんです!」


 顔が赤くなるのが分かる‥‥‥。


「それじゃあ年齢も、もう少し上かな? その背丈だと八歳かいっても十歳位だが」


「たぶん……」


 ああー顔から火が出そうだあー熱いーーーー。


「貴重なデータだな、今まで聞いた事がない。他には? 体の変化はそれだけ?」


 グイグイと迫って来る。すると今まで何も話さなかったミアが、


「もう、いいじゃない」

 と、笑った。 

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