第3話 来訪者現る
それから僕は、二人の手伝いをする事にした。手伝いといっても理系は苦手だったから自分に出来る事は、時空の捻じれを起こしているのがあの“らん”のという花なら、見つける事が出来るかも知れない。それに、自分と同じ人間【時空を渡って来た】人物に会ってみたいという興味もあった。
〝パラレルワールド〟向こうに帰る事も可能なのだろうか、いや、入り口や出口もわからないのに無茶な話だ。
二人に自分と同じ人と合わせてほしいと頼んだ事があるが、今はその機関を辞めたのだと言われ、気持ちがへこんだ。もし同じように誰かが違う世界線からこちら側に来てしまったら……保護施設に入れられ、二度と自由は与えられない。監視され続けながら生き、実験のような事もしているらしい。グレン達はあまり話してくれない。
ただ、町で聞いた話しでは、違う髪や瞳の色の人を見つけたら政府に引き渡すようになっているという事らしい。だから、他の人に見つかる前にその人達を見つけて信頼できる人に預けていると言う。
そんなある日、空気が振動している事に気づいた。鼓膜が震え、ボーンとして耳鳴りのようで気持ちが悪い、グレン達に話した。
「この辺で待ちましょう」
と、ミアがモニターの画面を見る。僕の時もそうしてくれていたのだそうだ。二人は初めから知っていたのだ、僕を混乱させないようにと‥‥‥それでもめちゃくちゃ混乱したがな。
身長は今160センチ弱って位かな? 何度かあの痛みを経験して現在に至るって所か。性別は変わらない、このままかも知れないが……この体にも慣れてきたし諦めも大事だ。
そんなグレン達を遠くで誰かが見ている気がするのだが、グレン達は気にしなくていいと言う。気になるが本人たちがそう言うなら気にするのは止めよう。
今日はミアがあの花が咲くと言うので、緊張しながらその日を過ごしていた。モニターをグレン達と一緒に見る。相変わらず耳鳴りはずっとしている。
その耳鳴りが強くなったと同時に家の外にはあの花が咲いている。グレン達には見えていないようだ。そして、眩しい光が現れた。
その光の向こう側に人影が見える。僕は人影に近づいてみる。すると花は無くなっていた。と、その人影が、バタッと倒れた。その人の髪は茶色だ。倒れた人に声をかけてみる。
「大丈夫ですか?」
「ここは?」
と頭を押さえながら、苦しそうに言う。
「……確か待ち合わせをしていたんだが……俺は何故こんな所に居るんだ」
「何処で待ち合わせを?」
「名古屋駅でリニアに乗るためホームにいたんだ。何が起きた? 地震か?」
あっ、日本語だ。僕はうれしくなった。と同時にリニア? 僕がいた時代ではまだリニアは走っていなかったが、するとグレンが
「言葉が分かるのかい?」
と僕の顔を見ている。グレン達には分からないよな~日本語だし、それも失われた民族の言葉だ。翻訳機があっても無理だろう
「彼も僕と同じ日本人だよ」
驚くグレン達。世界線を越えて来ただろうその人物は
「フランス語? 何を話している! 俺をどうするつもりだ」
やっぱり混乱している。
「大丈夫、何もしないよ。混乱するのは解る立てるかい?」
立とうとした時、その人物が叫んだ。
「わあー! 足が、俺の足が無い! ……な、な、なんで」
大きく見開いた目から大粒の涙が溢れる。先ほどまであっただろう右足のジーンズには何もない……。
「家の中に入ろう。肩を貸すよ、話はその後だ」
泣き続ける彼にグレンも肩を貸して一緒に家の中に入った。
椅子に座った後も彼はずっと項垂うなだれれている。そんな彼に言葉を掛けてみた。
「僕は君と同じだよ、日本人だ。そして、この不思議な世界に来た……解かるよ今の君の気持ちでも、これからが本当に大変なんだ」
そう話してはみたが、どうもまだ混乱しているようだ。
「君の事を話してよ。何でもいい」
傍にいるグレン達は何も話さない。無理もないというか言葉が解らないのだから仕方がない、その上、また日本人なのだからなあ、するとグレンが、
「ほんとに日本人なのか? 髪は見た事もない茶色だが……瞳は?」
とグイっと近づく、すると彼は怯え僕にしがみつく。
「グレン近いよ、怯えているから離れて」
「ん~瞳は黒いね。でも、どうして髪は黒くないんだ?」
「……フランス語? なんて言っているんだ?」
彼は怯えながら聞いてきた。
「何故、髪は黒くないんだって聞いている」
「染めてるからだよ」
グレンに伝える。
「何故、染める必要がある?」
彼に言う。
「はあ? 今時、誰でも染めてるだろう!」
グレンに言う。
「美しいのに勿体ない」
彼に言う。
「俺の勝手だろう! 他人に言われたくない」
グレンに言う、彼はむっとしている。ああ~もう面倒くさい!! その時だった。
「気持ち悪い、吐きそう」
と彼は言うので慌てて洗面所に連れていく、盛大に吐いた。その後ソファーに寝かせる。
「グレン、落ち着いたら僕が彼に話を聞いてみるよ。僕がいた世界線と違うみたいだし」
そこまで話す彼にとグッと腕を掴まれた
「こ・と・ば」
「?」
「言葉が解る!」
驚く事を言った。
「これは凄いな」
とグレンがしゃがみ込んで彼を見つめる。
「ケリー、これは君の力かい?」
グレンはそう言って僕を見た。
その時だったドアをノックする音がする。早く開けろと外で怒鳴っている僕は慌てて奥の隠し部屋に入った。ミアが返事をしながらゆっくりとドアを開ける。
「警察だ! この辺で凄い光があったと通報があった。何をしていた!」
「ソーラーパネルが壊れてしまって修理していました。集めた太陽光を放電したので、それじゃないですか?」
とミアが答える。警察と名乗る人物がズカズカと部屋に入って来る。
「ん? そこの奴、何故髪の色が違う!」
ソファーに横になっている彼を見て言う
「面白半分に染めてしまったみたいです」
「何故目に布をかけている外せ」
「さっきの放電で目を傷めたみたいで……」
「いいから外せ! 見られて困る事でもあるのか?」
ミアは布を外す。警察と名乗る人物を眩しそうに彼が見る。
「ああ目が赤いな、太陽光は強いから気を付けるように……邪魔をした」
そう言うとその人物は外へ出て行った。僕は恐る恐る部屋を出た。そこにはさっきまで横になっていた彼が座っていた。僕に笑顔で手のひらを見せて
「これだよ、コンタクト。君はすぐに奥へ隠れただろう? 彼女も奥へって言ってくれたけど、俺は足が無いからすぐには動けない。そこで、さっき髪の色や瞳の色を気にしていただろう? だ・か・ら、瞳の色をそこの二人に合わせてみた」
さっきまで怯えていた人物とは思えないなんという対応力だ、頼もしい。そうだ話の続きをしないと‥‥‥彼の隣に座った? 何か違和感がある? 足がある!
「こんな事が出来るみたいだ。俺はあつしだ、ケリーだっけ? 宜しくな」
素敵な笑顔だ。グレン達は見ていたのだろう、素早いコンタクトの装着や彼の足が戻る所を……今この中で僕が一番情けない顔をしているのだろう。
「まさかこんな所でコンタクトを使うとはなあ。東京のショーで使うはずだったんだが、コンタクトが無いのに気づいて駅で買ったんだ。それをポケットに入れていたんだよ」
? ショー?
「コスプレだよ。ゲームのキャラクター、日本人なら分かるだろう? あ~‥‥‥着いたら着替えて出るはずだったのになあ……」
大きな溜め息をついた。わかる、わかるよ、その気持ち! それからグレンが僕に話したようにあつしにも話す。そして日本が今存在していない事も話す。隣であつしが動揺しているのがわかる。
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