聖女ヨシカ
私がいたことにより、十年前の不可解な事件が掘り起こされ、何とか今回も難を逃れたが次は無いだろう。
私はここにいられない。馴染もうとしても見えない、殺した者たちの血がこびりついている。いつかまた誰かを殺してしまうだろう。
この世界は弱肉強食ではない、いくら理不尽でも法がすべてだ。掻い潜った悪人や罪人が法に守られて、恨みで殺せば殺した者が罪人となる。雁字搦めの野放し世界。
私は”殺し屋”。そう、そうだった。
(私はどこにでもあるこのくそったれな法の闇の中を駆ける”殺し屋”。人の無念の為に手を汚してきたんだ……。だが、私がここで殺したのは”依頼”ではなかった。我が身を守り、”身近な者の身”を守るために……”依頼主の立場”、どうして───)
混乱していた。
私は何故ここにいるのか。
時折聞こえる不確かな電子音。
同じ殺しでも今までと違った感覚。
意味があるなんて考えていなかった。
「───由夏」
すっと私の意識を戻したのは義哉だった。
「由夏は”悪くない”。髙井には前科があった。被害者は5人くらいかな。口を割った女子は皆、転校するって休学した。由夏は犯罪を止めたんだ。今回もね」
「由夏が気にしてるのはそこじゃないだろ。”力”のこと、それと───あたしらがどうしてここまで肩入れするか。まぁ、今は話せない。確証を得てから話すべきだからね。だけど覚えときな。あたしと義哉は絶対にあんたを裏切らない」
急に涙が零れた。二人がいる安心感に甘んじてはいけない。だって私は───いつもひとりだったのだから。
きっと二人のことだから何かを”確信”している。私にはわからない。
二人ならこう言うだろう。
”信用しろとは言わないが、離れるつもりは無い”、と。
『リモーヴァル開始───』
”あの”電子音がする。
体が光に包まれていく。
あの時の光だ!!!
「「由夏!! 」」
光で見えない中、両の腕の温もりを感じていた。
光が収まると───見覚えのある光景。
盗賊を追い詰めた薄暗い路地裏。
散らばった死体はなく、黒く変色したコンクリートを踏みしめていた。
あの時と違うのは、両の腕に2人がしがみついていることだ。
『リモーヴァル正常に終了』
「───やった! 上手くいったぜ! ……って、由夏カッコよ!! 」
腕を離した実佳が私を見上げている。
先程までは少し私より高かったはずだ。
「……成功はしたけど、マジかぁ。更に”年上”は予想してなかったし、ギリだな」
義哉は目線が近くなっていたが、流石男子と言ったところか、少しだけ高かった。
「一体なにを……? 私は───戻れたのか? 」
懐かしい姿に呆気に取られた。
「本当の名前、教えてくれよ」
「!? ───『アメリア・ローズ』……」
「マジぃ?! カッコよ! アメリア! 」
「俺はアメリって呼ぶわ」
二人のやり取りについていけず、目を瞬く。
「……入れ替わってるなんて最初から気がついてる」
「そもそもあっちの由夏とはソリ合わなかったしぃ? 」
「なんか”守りたい”ってなったな」
「”一緒にいたい”って思えた! 」
「わ、私は───」
「「殺し屋でしょ? 」」
「殺したことより別のことで気を取られてるって感じがしてたんよ」
………四、五歳児がそんな発想をするだろうか。
「あの時は言葉に出来なかったけど、今ならそう思えるってやつな」
「”確証”までが早いって! なんかに見られてね? あたしら! あはは! 」
だが、ゆっくり話をしている暇はなかった。
「───アメリア・ローズ様、でよろしいでしょうか」
確信めいた声が路地裏に響く。
「……十年前、突如として消えた”悪人殺し”の2つ名を持つ殺し屋アメリア・ローズ様。やっとお会い出来ましたね」
シスター服に身を包んだ逆光の女性の口元が微笑む。
後ろには十人ほどの屈強な男たちがいる。
いい意味ではなさそうだ。
「───誰だ?」
殺気を込めて睨むが怯むことなく……。
「わたくしは、聖女を賜ったヨシカと申します───」
光の邪魔が外れ、名前を告げると共に顔が見えた。
「「「由夏……? 」」」
その顔はあちらにいたアメリアが十年過ごした”由夏”と瓜二つ。
これはどういうことだろうか。
『リアルフェーズ開始。ドッキングエラー。コレニヨリシステム停止。健闘ヲ祈リます……ガガッピー……───』
何かのシステム電子音が絶たれた音が聞こえた───。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます