狂信者

そもそもあの電子音はなんだったのか。

私はなんの為に現代あちらに飛ばされ、今、異世界こちらに戻されたのか。


「わたくしの間違いでなければ、その反応……貴方様が”死んだ”わたくしの抜け殻を永らえさせてくれたと解釈してよいですか? それでなくとも……」


打って変わって、あまり好意的ではない目線を私の両脇に向ける。


「”わたくしが認めていない”義弟と幼馴染がついてきていますし。”父との生活を壊しに”義母と来た義弟”ヨシヤさん”、”父がいない時間の相手”にと宛てがわれた幼馴染”ミカさん”。お久しぶりです」


俗に言う、ファザコンだろうか。


「”あの時死ねて”よかったので感謝はしておりますが、気がかりは一点……”お姉さん”は、助けに入って下さったお姉さんは無事でしょうか? トラウマを抱えてらっしゃらないでしょうか? 」


おろおろと大袈裟に身振り手振りし出す。


「服は破られていた為にすぐに男に雷撃を放って、”殺した”。未遂だったかまでは───」

「それは大丈夫。”未遂”で間に合ってるよ。で、涎すらまだ到達してなかった。ほしい応えはこれか? ”由夏”」

「……ええ、ありがとうございます」


少し不機嫌そうに義哉を見た後、溜息を着くがすぐに気を取り直しこちらに向き直る。


「では、貴方を探していた理由を申し上げます。二点あります。一点目は……『国王勅命の殺し屋アメリア・ローズの抹殺』です」

「「ちょ……」」


抗議しようとした二人を押し留める。

今この世界に来た二人には理解し難い話だが、私には意図がわかったからだ。


「……という話だな。個人から国の要人まで扱っていた。ある程度罪人を捌き終わったから私を抹殺し、終止符を打つ裁断か」

「そのようですね」

「国からでなくとも既に出ていそうな案件だ。”あのミス”もでかいだろう」

「十年前の”大盗賊一掃”のボスの件でしたら───”目の前で消えた貴方”がいつ自分を片づけに来るかわからないと怯えながら憔悴して牢の中で息絶えたと聞いていますので、問題にはならないかと。腰を抜かして動けなくなったところを取り押さえられたそうですから」

「よく、知っているな」

「はい、最低限の説明を受けました。貴方は”理屈さえ通せれば抵抗しない”、と聞いています」

「間違いない。だが、十年もいなかったのにその勅命は生きているのか? 」

「最もなご意見です。事実、全域に出されたのは十年前、五年前に一度下げられています。探しても見つからず、生死の確認も出来なかったからです。こちらの勅命は去年”秘密裏”に発令されたものです。力あるギルドのみに配布された極秘の勅命という訳です」

「私が国王を殺すとでも? 」

「可能性のお話ですが、のでしょうね」

「聖女様! そんな話はしてはなりません!

控えていた男の一人が割って入る。

しかしその瞬間、男の顔面が凹む。


「が……?!」


場が静まり返る。

彼の顔は粉砕され、ゆっくりと倒れていく。


「……わたくしは早くに母を亡くし、父だけが家族でした。父は”異世界モノ”の小説が大好きで、読めばわたくしに分かり易く話して聞かせてくれたものでした。そんな時間が何にも変え難く、大好きでした。その中でも、ある”殺し屋”の話が好きでした。未完のお話でしたけれど。その殺し屋は人の恨みの依頼を受けては完璧に熟すプロです。父に問いました。『殺したら罪にならないの? 』と。父は言いました。『この世界ではアンダーグラウンドな場所や職があり、法を掻い潜って生きる悪人は殺す他ないから彼らが裁きを下す』のだと。でもその殺し屋は”いつもひとり”でした。ストレートにしか物を考えられず、心の違和感の理由が分からずにいました。……わたくしは小さいながら思ったのです。『ひとりは淋しく無いのだろうか』、『悪人は何をもってして悪人たるのか』と。気がつけば、心奪われていました。その殺し屋の名前は───『アメリア・ローズ』、貴方です」


話しながら、止めに入る屈強な男たちをものともせず倒していく。


「う、裏切るのか! 聖女!! 」

「まぁ! 裏切るだなんて。戦いの術を教えて下さったこの十年、すごく感謝しているんですよ? ”憧れのアメリア様”の世界に来れた実感をありがとうございます。お話を聞くまでは転生した時に消えてしまったことに絶望したりもしましたが、わたくしの抜け殻をその十年間アメリア様が使って下さった、あのお姉さんを救って下さった、それだけで興奮冷めやりません。その十年を見られなかったことは悔しいことではありますが、今!

わたくしの目の前に生きて! 存在されている! すべては繋がっていたのです。この奇跡に目が眩みそうです! アハアハハハハ!


恍惚とした表情で口早に語る姿は聖女ではなくなっていた。

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