所在の在処

次の日昼を済ませた後、私は髙井を屋上に呼び出した。

大概の学校は危険だからと閉鎖しているが、二メートル近いフェンスを設置している為に解放されている。

とはいえ、あまり人は立ち寄らない。

夏場ならまだしも、秋も深まったこの季節の屋上利用者はほぼいない。


「……こんなとこに2人きり。いいのかなぁ」


返事を期待している風体には見えない言葉。


「人気がない方が振りやすいって? クセに酷いよね。義哉だっけ? 一年の。血が繋がってないからってバレたらヤバくない? 」


奴は何を言っている?


「仲がいいのは認めるけれど、そこまで言われる筋合いはないわ」

じゃねえか! 」


ガンッと壁ドンをされた。

状況からあまり好感を持てる行為には見えない。


「……黙っててやるから、ヤラせろよ」


ああ、コイツは純粋に恋愛をしたいタイプではなかったらしい。

言葉を挟ませない威圧を掛け言葉をつむぎ続けている。

私でなければきっと恐怖で言うことを聞いてしまうだろう。

不思議なくらい冷静に成り行きを見届けている───はずだった。

私の中でコイツは”悪”だと信号が走る。

初めてこの世界にやってきた十年前の感触。


(……忘れていたわけじゃない。馴染もうとしていただけだった。しかし───)


懐かしい笑みをこぼす。


「なんだよ、お前もそっちの口か? ぐっ?!」


ガっと首を掴み、持ち上げた。


「……残念だ。おまえが悪い。私をんだからな」


勢いよく髙井を投げ、フェンスの網を凹ませた。


「あ! が! 」


血は吐かなかったものの、苦しそうな呻き声をだし、私の行動にまだ理解が追いついていない顔をしている。


「あの時のようなヘマはしないさ。だが……を理解するにはいい人材だったよ」


ビキビキっと後方で音がする。

頭上後方にある設置型貯水タンク。

学校にひとつは絶対にあるものが音を立ててビスが飛んでいく。

ぐらりと傾き、真っ逆さまに髙井に向かっていく。


「なん……────!! 」


声を発する余裕もなく押しつぶされ、共にフェンスを巻き添えに地響きと共に落下死した。いや、既に圧死していただろう。


「……この世界は平和で、窮屈過ぎる。私には不釣り合いな世界だな」


直に屋上は閉鎖されるだろうな、と馴染んだ頭で遠くを見つめていた。


「「由夏!! 」」


近くに潜んでいたらしい義哉と実佳が後ろから抱き着いてくる。

なんと過保護なことか。あの時もそうだ。

何故そこまでして私を庇うのか。

私がそれを知るのは少し先になる。

、私がではないことを。

それすら今の私には預かり知らぬことだった。



『セカンドフェーズ終了。リモーヴァル開始迄……時間───』

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る