出会い

私は『神木さかき由夏よしか』。

五歳だったときのあの事件は、『連続幼女誘拐強姦魔事件』のひとつに過ぎなかったらしい。

男が亡くなったことにより幕を閉じた。

あの時私を迎えに来たのは義弟の義哉よしや

事件以前の記憶が曖昧なため、証言として事情聴取は形式だけで済んだ。

私が殺したと言っても誰も信じないだろう。

この世界は私のいた世界とはまったく違うようだ。

指紋はなく、男が不運が続いて感電死したと片付けられた。


٭•。❁。.*・゚ .゚・*.❁。.*・٭•。


……あれから十年。

私はこのに順応していた。


「神木、よかったら俺と付き合ってくれない? 」


私は高校生になり、今、クラスメイトの髙井という男子から告白を受けていた。

金に近い茶の髪の、軽そうな男子にだ。

クラスメイトとはいえ会話も禄にしたことがない。

そして恋愛経験などない私には未知の領域。


「……ありがとう。初めてだから、考えさせて」


複雑な感情は難しい。

しなければ───。

疑われる様子もなく、その日はわかれた。


「由夏ぁ、見てたぜぇ? 髙井に告られてたろ? 」


幼稚園から一緒(らしい)実佳がクラスで待ち構えていた。


「……悩んでいる」

「え~? 付き合っちゃえば? 何かチャラそうだけど」

「適当に言わないで」

「……ま、あんたの好きにすれば? 」

「実佳まともに考えて。いや、義哉に相談する」

「義哉、ねぇ───」


意味ありげに笑う。


「帰るよ、またね」

「バイバーイ! また明日ぁ。……アイツが許すわけないだろ。まぁ、あたしも髙井と絡まないから本当は嫌、なんだけどね」


実佳が返事の後になにか呟いたようだが、私の耳には届かなかった。


٭•。❁。.*・゚ .゚・*.❁。.*・٭•。


「義哉」


帰宅し、夕飯を済ませたあと、私は義弟をベランダに呼び出した。


「どうしたの? 由夏」

「クラスメイトの髙井と言うやつから告白を受けた」


すぐには返って来ない。


「……付き合うの? いや、俺に話すくらいだからまだ、だね。由夏は何を悩んでいるの? 」


トーンが下がった気がしたが、すぐにいつも通りに的確に返しが来た。


「話を禄にしたことがない」

「由夏は彼が気になる? 」

「認知の度合いが変わる程度には」

「……ぷっ、あははは! 好きか興味無いか、だよ? 」


好き? 恋愛は両者の好きで出来ていることは何となく知っていた。


「顔立ちは悪くないけれどのような人間か知らない……」

「んー、じゃあ。俺や実佳と一緒にいる時間を減らして彼に逢いたいと思う? 」

「ないな」


言葉の選び方はお手の物。私が即答できる聞き方をしてくれた。

……あの事件の後真っ先に駆けつけてくれたのが義哉で、実佳も来てくれたらしい。

実佳は幼馴染らしいからまだしも、あの日義哉とは初対面だったはずだ。

その日、父と義母の再婚で義姉弟になったと。

記憶のない私にしっかりと説明してくれたのだ。

急な環境変化にパニックを起こして家を飛び出したようだ。

……確かに幼い少女には堪えたろう。


「ほら、応えは明白だ」


ニコニコ笑いながら抱きついてくる。


「うん、友人ならまだしもいきなり恋人は性急すぎる」

「俺たちの中に入れてあげられる? 」

「あまり快くはないかな」

「じゃあ、断るしかないね」


おでこを寄せ合い、笑い合う。


……私は他人の復讐のために人を殺していた。

義哉は記憶がないことを察し、私を心配して立ち回ってくれている。

実佳は現場にいなかったにも関わらず、記憶のないニ年の空白すら気にせずにいてくれる。

私の二人への信頼は厚い。


「明日、どう断ろうか」

「由夏は真面目だからなぁ」


考えることは義哉に任せ切りになっている。

私には二択しかないからだ。




───そんな私たちを下から見上げる者がいることに気が付かないほど、私は平和に順応しすぎていた。




『セカンドコンタクトフェーズ終了───ジジ……』

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