第2話 出会いイベント 1
目が覚めたら乙女ゲームの世界だった。
となったが、寝起きから少し経ってみると。ちゃんとこの世界で生まれてからの記憶はあった。なのでこの身体に憑依したとかではなく、前世の記憶を思い出したということだろう。
しかしなぁ……なんで今さら?もうちょっとタイミングあっただろ。ほら、よく聞く転生ものは全部幼少期だったぞ。いや待てよ、そもそもここが乙女ゲームの世界だってまだ決まってないじゃないか。ただの勘違いかもしれないし、夢の感覚が妙にリアル過ぎたせいでこんなことを考えたのかもしれない。
「兄さん聞いてる?」
「えっ、あ、ごめんごめん何だっけ春」
「もう、朝からおかしいよ?もしかして体調悪い?」
「大丈夫、ちょっと考えごとしてただけだから」
心配そうにこちらを見上げてくる、双子の妹の春を安心させるために笑って答える。
多かれ少なかれ、この乙女ゲームのヒロインには数々の試練があったはずだ。ゲームには必要なことかもしれないが、俺としては可愛い妹の春が辛い目にあうのは嫌だ。どこまで出来るのかは分からないが、可愛い妹を守ってあげたい。
まだ起きていない妹のこれからを心配していると、いつの間にか学校に着いた。
「うわー……これ本当に学校?」
「何言ってるの兄さん、同じ制服の子が沢山いるでしょ」
「そうだなー……」
目の前に広がるオシャレな建築物、美術館と間違えてしまいそうなものは、俺が今日から通う学校だ。俺が前世で通っていたのはこんなんじゃなかったぞ。普通の公立高校だったし、こんな金持ちが居てもおかしくない学校じゃなかった。
それにこの光景。何度もゲーム画面で見たものだし、やっぱここは乙女ゲームの世界なのかな。
「これから毎日見ることになるんだからそんなに見上げてないで、クラス表見に行くよ」
「あっ、うん」
先を進む春の背中を追いかけクラス表を見に行く。
ここが乙女ゲームの世界かの確証はやはり、攻略対象の存在だろう。細かいことは覚えていないが、名前と顔を見たらすぐ分かるはずだ。一先ずは名前だけでもこれで確認してみよう。
確か同学年には三人いたはずだ。名前はえーっと秀才の黒崎奏(くろさき そう)と、剣道部の……サッカー部の…………ダメだ、攻略したやつの名前しか思い出せない。いや顔を見たら分かるよ。きっと……多分。これでもにわかじゃないからな、ちゃんとやったからな俺。うん、死ぬ前には一人は攻略したぞ。それが黒崎奏なんだけど。だから覚えているし、出会いのイベントも知っている。確か―――。
「邪魔」
そうそう、こんな風に声をかけられたことがきっかけだったな。校門付近で学校を見上げながらクラス表目掛けて歩いているヒロイン。高校生活への思いを馳せているところに無粋な言葉をかけてくるんだ。バカ広い校門付近でわざわざ言わなくてもいいと思う。邪魔なら避ければいい。
「ねぇ」
そういえばあのキャラって好感度が上がるまで結構めんどくさかった気がするぞ。素直になったら可愛げがあるんだが、それまでがなー……。
「おい」
「兄さん!」
「うおっ!」
ゲーム内での出会いを思い出していると、突然ガッと春に腕を掴まれた。何事だと思い春の方を見ると、俺の背後を指さしていた。
そちらの方を振り返ってみると、黒髪イケメンのやつが怪訝そうな顔をしてこっちを睨んでいた。
「いい加減、どいて欲しんだけど。邪魔」
「あっ、ごめん、なさい……」
「はぁ……」
ため息を一つ吐いて黒髪イケメンは去っていった。
なんだあいつ!?ていうか俺たちがいた所をわざわざ通らなくてもいいだろ!ん?そういやどっかで見たことある気が……いや、だいたい広いんだから……さっきもこれ言ったな。
「ああー!」
「な、なに!?」
さっきのあいつアレだ!攻略キャラの“黒崎奏”だ!どうりでどっかで見たことあったなーって思ったんだよ。つーかさっきの出会いイベントじゃないか!ゲームのまんまだったわ!……てことはやっぱりここは乙女ゲームの世界なのか?やーでも、今のイベントって春に起こるべきものだし、それを俺が受けちゃったからどうなのかなぁ……。しかしゲームで見た顔と同じだったから、ここは乙女ゲームの世界で確定だろうな。
「兄さん…本当に大丈夫?」
「う、うん、大丈夫だよ春。そろそろクラス表見に行かないとダメだよね。行こっか」
「うん……無理、しないでね」
「ありがとう」
春に笑いかけ、人が多くいるクラス表の掲示まで向かう。
しかしあの態度はないだろ。いくらイケメンだからって許されると思うなよ!この世界が乙女ゲームでいずれ甘くなるとは言え、春じゃなくて良かったよ。ちょっと嫌な気持ちになったじゃないか。
それにしてもあれが攻略キャラかー、やっぱイケメンだったなー、いいなー俺も生まれ変わるならアレぐらいのイケメンに生まれてみたかったよ。
掲示板の前に着き名前を確認する。俺と春はクラスは違えど隣同士だった。双子だから同じはないよな。いつものことだけど、一度ぐらいは春と同じクラスになってみたいものだ。
ついでに黒崎奏の名前を探してみたら、春と同じクラスだった。なにかしらのイベントがありそうだ。けど乙女ゲームだからって、春にあんな態度とったら許さないからな。
「春が心配だな……」
「何言ってるの兄さん。私は兄さんの方が心配だよ。双子だから同じクラスじゃないからすぐに助けられないけど、何かあったら必ず言ってね!」
「お、おう」
食い気味に念を押してきた春と教室へと向かいそれぞれの教室に入る。黒板に張り付けられていた座席表で調べて、自分の席につく。そうだ春の隣のクラス、つまりオレのクラスにも攻略キャラがいたような。どんなやつだったけ?確かサッカー部の、やたら元気そうなやつだったような……。
「なぁ、俺は
教室を眺めながら攻略対象ぽいやつを探していると、横から突然声をかけられた。そちらを向いて俺も自己紹介をする。
「ん、ああ、俺は
「おう!よろしく!」
隣の席から差し出された手を握り返す。すると金髪のイケメン、伊吹は嬉しそうに人のいい笑みを浮かべてくれた。そうだ伊吹一だ!こいつも攻略キャラの一人だ。うん、立ち絵通りの犬っぽいくて元気そうなやつだ。それにサッカーしてそー……。
「良かったら俺も混ぜてくれよ」
「ん?」
伊吹についての第一印象の感想を心の内で考えていると、今度は後ろから声をかけられた。
「俺は
「桜井日向だ。よろしく」
「俺は伊吹一!よろしくな」
斎藤とも握手を交わす。斎藤総司、こいつも攻略キャラだ。出会えば思い出すもので、斎藤のことも見た瞬間思い出せた。まぁ大まかな記憶だけど。確か斎藤は爽やか硬派なイケメンで、これまたなかなか女子のハートを一瞬で掴みそうな顔だ。
「なーなー二人は部活入る?俺はずっとやってるサッカー!」
「俺は剣道部かな。中学でもやってたし。桜井は?」
「俺?俺はー……どこも入らないかな」
特にやりたいこともないし、二人みたいに続けているものもない。それに春の恋の行く末が気になる。シスコンだと思うかもしれないが、ここは乙女ゲームの世界なんだ。可愛い春一人にさせておけるか。いざとなったら俺が守らないと。
「えー!一緒にやろうよ桜井。なんならマネージャーでもいいから!」
「そうだな俺も桜井がマネージャーになって応援してくれたら嬉しい」
「誘ってくれるのは嬉しいけど……なんでマネージャー?」
「一緒に部活できたら楽しそうだから!それに応援して欲しい」
「同感。俺も桜井に応援してもらえたら頑張れるな」
「ええー……」
これは春のイベントじゃないか?確かプロローグでこんな感じのことがあった気がする。あ、春のイベントに遭遇するのは双子だからかな。同じ顔だし、春に起こるものも俺に起きているのかもしれない。しかし男の俺にも同じような勧誘するのはどうなんだ。それも一緒に汗を流したいーとかじゃなくて、応援して欲しいだし。そういうのは普通女の子に言うもんだろ。
「考えておくよ」
そう二人に答えると、ちょうど担任教師が入ってきた。会話はお開きになり、担任の自己紹介後、体育館へと向かう。
今から入学式だ。
校長や色んなお偉いさんの話を聞きながらこの世界について考える。この後のイベントや、攻略キャラって何人くらいかなーとか。春が好きになるなら誰だろうとか。そんなことを考えていると、この学校の生徒会長が舞台に上がる。
そうだ、生徒会長も攻略キャラだ。えーっと、会長は学校始まって以来の最年少での就任で、すっごいモテるって設定だったな。うん、設定通りのモテっぷりでイケメンだ。さっきから女子のどよめきが凄い。春もなびいてたりするのかな。いい人そうだし。でもそうだとしたら兄さん寂しい。
妹の恋の相手になるかもしれない会長を眺めながら、寂しさに浸っていると。
あ、目が合った。おお、王子スマイルって感じだな。女子の悲鳴も凄い。んー、あの人と恋したら春は苦労しそうだなぁ。嫉妬とか、親衛隊からの嫌がらせとか。うん、会長のルートに入ったら俺が守ってやらないと。
数時間で会った攻略キャラたちと、春の今後に思いを馳せている俺は気づきもしなかった。この時に会長から向けられていた笑みは俺へのものであることも、それに気づいた妹含め攻略キャラが会長への防備を固めていることも、日向は知る由もなかった。
そういえば、会長ってヤンデレとかいう属性だったな。あれってどういう意味なんだろ?
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