30代独身が転生したらなぜかチヤホヤされるようになった件

もち

第1話 プロローグ

 新卒で大手企業に入社してもうすぐ30。この年になればそこそこ出世もするもので。全てを仕事に捧げてきた結果、彼女はいないければ趣味もない寂しい男の完成だ。

 同期はみんな結婚して幸せで忙しそうで、誰も飲みに行ってくれなくなった。このまま独身は嫌だと思って婚活を始めてみた。しかし趣味のない俺は話が続かず惨敗続きだ。

 惨敗の悲しさを紛らわすために、仕事に没頭したら残業が続いた。そのせいで疲れた結果、婚活所にも通えなくなっている。でもいつかまた通えるようになった時をみこして、女性の心を掴むために乙女ゲームというものを始めた。


 これが結構おもしろかった。

 日々誰かに愛されることを望んでいるからか、俺にはよく刺さった。

 仕事はちょっとした失敗から罵倒されても誰も慰めてくれない。そんな俺にとって、乙女ゲームの世界は羨ましいものでしかない。ちょっと努力したらお釣りが出るくらい愛されてるからな。おまけにハッピーエンドが約束されている。

 寂しい、辛い、誰でもいいから俺を愛して欲しい、チヤホヤされたい。

 そんな気持ちを抱えながら、ぼんやり帰り道を歩いていると―――ダンプが突っ込んできた。。


「大丈夫ですか!」


 痛いし大丈夫じゃない。助けて。


「もうすぐ救急車きますからしっかり!」


 もうすぐってどのくらいだ?早く痛みを取ってくれ。

 そう答えたいのに声は出てくれない。指先ですら動かない。何が起こっているのかは分からないが、身体が冷たくなっていくことだけは分かる。寒い。


 このまま俺、死ぬのかな。嫌だなぁ…俺、まだ誰にも……愛されてないのに……。


 痛みからか、悔しさからか分からない涙を流しながら、俺の人生はそこで幕を下ろした。



「……さん」


 誰かが呼ぶ声が聞こえる。……でもそんなことより布団が暖かい。さっきまであんなに寒かったからかな、この温かさが心地いい。


「起きて……」


 なんで起きないといけないんだ。こんなに暖かいんだからまだこのままがいい。痛みもないし。


「兄さん起きて!」


 ガバッと布団を誰かに剥がされ、眠たい目を擦りながら目を開けると。


「もう!今日は入学式なんだから早く起きないとダメでしょ!初日から遅刻しちゃうよ!」


 プレイしていた乙女ゲームの主人公がいた。


「……へ?」

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