第4話

 大通りの公園で見つかった射殺死体と、ピエロの覆面をした男の目撃証言に、世間はどよめいた。

 また、現場を見たとされる女性の「助けられた」という証言と、それ以外は頑なに漏らさない姿勢も、自称・専門家達がとやかく言う要素となった。

 つまり、業都の世情は危うい状況となっていた。

 射殺現場へと、調査に向かった張戸は部下がいないのを不思議に思っていた。

「おい、布袋は?」と、近くの警察官に訪ねた。

「現場近くにいたという事で、本庁まで呼び出されていた様です。先程、戻られたとの事ですが――。ああ、連絡ありました。体調が優れないとの事で、早退で――」

「ったく、遅くまで仕事してるからだ。頭の固い奴め。そんで、使用されてた銃弾は」

「9mm口径の主にリボルバーで使われるものですね。監視カメラに撮られてた覆面男が高めのスーツを着てた事から、中流から上流階級のもののしわざ――あるいは警察官だ、なんて噂が出てます」

「きな臭えな」

 前髪をかき揚げながら、現場を右往左往する。

 それから、思い付いた様に、先程まで話してた男に提案した。

「ここ近辺の監視カメラの映像、全部見れるか?」

「え、ええ。構いませんが……」

「まさか、な」――と小声で呟いて、張戸は溜息を吐いた。

 コートの中のホッカイロを強く握り締めて。


 自室にいる透は、社用PCで表示されている警察の秘匿情報をUSBにコピーしていた。

 そこにリストアップされているのは、逮捕されていないか懲役から解放された、容疑者や元・凶悪犯罪者たちであった。

「俺は正しい事をしている」と、言い聞かせる様に呟く。

 コピーを終えると、USBを旅行鞄にいれ、コートを着て自室を後にした。


 テレビではピエロの男についての話題で持ち切りで、その様子を、女装させられながら宏介は見ていた。

「――で、なんで俺はお前の着せ替え人形にされてるわけ?」と、華飛に訪ねる。

 彼の長く伸びた髪を切り揃えながら、少女は言った。

「いつまでも私ひとりで買い出しに行けるわけでもないし、あなたも買い物に行ける様にするために、ね。今日は一緒に行くけど」

「女装する必要はないだろ?」

「貴方、変装は大事よ? バレたらすぐ捕まるんだから」

「だからって……」

 溜息を吐きながら、宏介はされるがままになっていた。

「そもそも、俺が逃げ出さない保証はない」

「逃げないわよ。あなたは生きたいと思っているもの」

「根拠は?」

「前に言わなかったかしら」

「はあ」

「それから、買い物中は一言も発しないこと」

「……はあ」

 前途多難な買い物がはじまろうとしている。


 華飛により、外出時の発言を禁じられている宏介は、首を縦に振るか横に振るかで会話を成立させていた。

 日用品を一通り揃え、会計を済ませる為、列に並んだ。

 自分達の番が来るのを待っていると、悲鳴がトイレの方から聞こえ、紐を持った手袋にサングラス、ピエロの覆面の男が逃げる様に出てきた。

 警備員がそれを追って走っている。

「追わなくて良いのか」と訪ねる様に、視線を華飛の方に向ける宏介。

 少女は「放っておきなさい。私達の標的じゃないわ」――と、それだけ吐き捨てる様に呟いた。

 それに対し、男は頷き返した。


 少し前、家を出た透は標的を探しに、それが働いてるとされるデパートに来ていた。

 各階のトイレを巡り、資料と同じ顔の人物を探す。

 今回の標的は強姦殺人の後、数十年経って釈放され、清掃員として働き始めた男だ。

 最早、彼は止まれなかった。自己正当化と筋を通す為、悪人を殺し続けなければいけない。

 その為のデータを揃え、その為にピエロの覆面を被って巡る。

 ようやく見付けた標的に「お疲れ様です」と声を掛け、会釈した。

 相手もこちらを見て少し狼狽えたが問題ない――手を洗って油断を誘い、手袋を付け、用意した絞殺用の紐を携えて、後ろから襲い掛かった。

 標的が絶命したのを確認し、逃げるように走り去った――途中、すれ違った人が悲鳴をあげたが、問題ない。どうせ、正体はばれない。

 透は、またひとつ罪を重ねた。

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