第12話
「リア!王宮から使いが来ているよ」
お父様に呼ばれて急いで玄関ホールに向かうとそこには1人の使者が立っていた。私が使者の前に立つと使者は紙を広げ、宣言する。
「リア・ノーツ侯爵令嬢。先日の試験結果は合格である。1週間後に王宮魔導師第一師団団長ニール・カルサルの元へ来るように。以上である」
使者からもたらされた合格発表。
「お父様!お母様!お兄様!やったわ!私合格したわ!」
私は嬉しさのあまりメイジーに抱きつく。
これでお父様やお兄様と同じ王宮で働く事が出来るのね。お兄様はライアン殿下の側近だから来年からは王宮勤めになる。家族で出勤って良い響きね。その日は家族に祝われて豪華な食事もして、人生で1番幸せだと感じたわ。
翌日から王宮へ登上するまでの間は必死で魔法の練習に当てたの。少しでもへっぽこ具合を改善したいですからね!
カルサル魔導師師団長の元へ向かう日、お母様の涙ながらの激励の後、お父様とお兄様と一緒に馬車へ乗車した。
お父様は王宮へ着くと泣く泣く執務へ向かう。お兄様はというと私をカルサル魔導師師団長の元へ送り届けてからライアン殿下の執務室へ行くそう。お兄様と私は魔導師棟へ入室し、受付の魔導師にカルサル魔導師第一師団長に会いに来たと告げる。
お兄様は心配そうにしていたけれど、受付を済ませたのでライアン殿下の執務室へ向かった。暫くしてから受付の魔導師の人が「こちらです」と案内してくれた。
王宮に勤める魔導師は王宮魔導師と魔導師との2種に別れていて魔導師は魔力の量や技術的に一般の試験をクリアした者がなれる。王宮魔導師は更に魔力量が多い者や特殊魔法を使う者。そして知識、技量を自他共に認める程の実力者がなれる。
私はもちろん魔導師からだと思うわ。特殊魔法と魔力量に関してはクリアしているとは思うのだけれど、技術も知識も足りて居ないのよね。魔導師は平民も多い。けれど、王宮魔導師になるには魔力量も必要となってくるのでやはり現状は貴族で占めている。
受付の魔導師に案内されて着いた部屋はカルサル魔導師師団長の執務室。特段、魔導師だからと部屋に幻術が掛けられているとかは無いらしく、極普通に書類が山積みにされている。
・・・山積みにされている。
足の踏み場も無い程に。
「師団長、リア・ノーツ侯爵令嬢をお連れしました」
輝かしい未来に胸を膨らませて来たけれど、急に不安になってきたわ。色々と。
「まぁ、そこにかけたまえ」
そこ?もしや、これはソファ?受付の魔導師さんもやれやれって顔をしているわ。私は書類を避けてなんとか座る。
「リア君。君を待って居ましたよ。14歳にして光魔法の使い手。君を騎士団の専属治療師として迎えたいと話も出ていましたが、私が捻じ伏せました。君は王宮魔導師として光魔法は合格だと思っていますが、水魔法はまだ14歳のレベル。なので、私の補佐として、当分は王宮魔導師見習いとする事にしました。明日からここが君の職場となります。改めて宜しく」
「カルサル師団長様、私はまず何をすれば良いですか?学院もどうするか聞いても良いですか?」
書類の山で顔の見えないカルサル師団長に質問をする。
不安すぎるわ。
「学院には課題を提出するだけで認めてくれるように手配しました。登校する時は王宮魔導師ローブを必ず着用するように。
あと、ここでの仕事は、まず、書類整理になります。書類が片付き次第考えましょう。君の父も兄も優秀な文官だと聞きました。君も優秀なのだから大丈夫。なんとかなります」
なんて適当な人なの?
この職場本当に大丈夫?
学院でお友達になったララ様とイリス様に会えなくなるのは少し残念だわ。お手紙を書く事にするわ。そういえばお父様の執務室へ行った事があるけれど、部屋は整理整頓されていたわ。
そんな事を考えていると、カルサル師団長は自分の椅子から扉の前にストンと飛び移る。
「そうだ、これは貴方に支給されるローブとバッジです。外へ出る時は必ず着用するように。後日、制服は自宅へと送られます。本日は以上です。後は、少し書類整理を手伝って帰ってください」
ええー。内心かなりビックリしているけれど、そこは貴族令嬢。顔には出さず、『分かりました』と書類を片付けていく。
この書類の山どこから手を付けて良いのか分からないが、とりあえずは目につくものから、通常の書類、少し猶予のある書類、緊急性の高い書類と分けていく。すぐに帰宅出来ると思っていたのに。
3時間ほど経った頃、師団長の部屋をノックする音がした。『入れ』の合図で扉が開くとそこに居たのは兄とアラン殿下だった。私はアラン殿下に向いて礼をする。
「続けてくれ」
そう言われ、手を止めていた書類整理をまた行い始める。山になっている書類はたかだか3時間ほどの整理では焼け石に水といった所だと思う。ましてや私は書類整理初心者。アラン殿下はカルサル師団長と話し終えたようだ。
「ニール、少しリア嬢を借りるぞ。今日は借りた後そのまま帰宅させる。リア嬢の代わりにファルセットを置いていく。知っていると思うが、ライアンからもぎ取ってきた文官でリア嬢の兄、王宮魔導師にもなれる程の優秀な者なのだ。感謝してくれ」
よく分かりませんが、お兄様凄く褒められています。妹の私は鼻が高いわ。カルサル師団長は了解しました、とあっさり兄と交換をOKしたわ。
「リア君、明日から宜しく頼む。ではまた明日」
「カルサル師団長様、明日から宜しくお願いします」
私は一礼してからアラン殿下と共に魔術師棟を後にする。
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