第2話

 目を開けると、そこに私を覗く顔があった。私は死ねなかった?


「リア様が目を覚まされました!」


 身体が鉛のように重いわ。出血が酷かったせいね。メイジーが誰かを呼びに部屋を出て行く。メイジー?メイジーは、私の侍女・・・?


 周りに視線を向けて見回していると、記憶がどっと流れ込んできた。リア・ノーツ。それが今の私の名前。歳は14歳、家族は父のアイン・ノーツ侯爵。母のマーガレット。兄のファルセット。侍女のメイジー。

 

 今の私は家族仲が良くて、幸せに暮らしている。現在、私には婚約者はいない。


 何故、神様は前世の記憶を今更思い出させたのですか。戒めなのでしょうか。苦しくて、毎日が辛かった。義父も義母も私を政治の道具として扱い、フィアンは表面は優しかったけれど、影で女を作り、挙げ句の果てには挙式のひと月前に真実の愛を見つけたと告げられたわ。


アイラだっけ。あの人も最悪よね。人の婚約者寝取ってわざわざ見せつけてくれるのだもの。私達は愛し合っているから別れてって。フィアンに隠れて直前まで子爵子息と会っていたのに。


 リディスは誰からも愛を向けられず、婚約破棄も出来ず、逃げる事も出来なくて苦しくて死を選んだ。

 

今生、家族や友達に愛されている今なら解るわ。アイツら本当に最悪だな!って。おっと下品になってしまったわ。そして、気づいたのだけれど、死んでから半年程で生まれ変わったみたい。だから当事者達はまだ生きている。


 あの人達は今頃どうしているのかしら?後で調べてみるわ。それにしても、私のこの身体。何故こんなに怠いのかしら。


 過去の事を振り返りながらボーっと天井を眺めていると、勢いよく扉が開かれ、部屋に飛び込むように家族が入ってくる。


「リア、目を覚ましたのか!?良かった。顔をよく見せておくれ」


「お、父様。私、何故、こんなに身体が重いの?」


「それはお茶会に来ていた侯爵子息の魔力暴走に巻き込まれたからだ。背後で起きたから防げなかったんだ。半月近く目を覚まさなかったんだぞ」


「そうなのですね」


だから全身にダメージを負っているのね。


 そういえば、この世界にある魔法は火、水、土、風、光。王族は勿論の事、貴族も魔法は使えるし、魔力も多い。平民も大半は魔力持ちである。ただ、魔力量は平民は少なく、生活に使うには問題ない位の量である。


そして大体は1人1属性。各属性は満遍なくいるのだが、2属性や3属性と複数持つ者はごく僅かで優遇される事が多い。光属性だけは滅多に居ないため平民出身でも貴族の養子になったり、貴族と婚姻し、早い段階から囲われる事が多い。


 前の生の私もそうだ。光属性を持つ私が幼い頃に準男爵だった父に伯爵は強引に迫った。お父さんは泣く泣く私を手放すこととなり、私は伯爵家の養子となった。準男爵だった頃は幸せだったような記憶が微かに残っている。


伯爵家では常に道具扱いで、覚えが悪いと叩く蹴る、食事抜きは日常茶飯事で幸せを感じた事は無かったが。


 今の生での私の魔法は水属性。魔法は魂と紐付けされていると噂を耳にした事がある。今の私は使えるのかしら。父も母も兄も愛し、自分の事のように心配してくれる。それだけで私は救われる思いがするの。


 私は目を閉じて魔力循環をし始める。しっかり循環出来ているわ。何だかいけそう。『ヒール』そう呟くと全身に淡い光が灯る。


「リア!!?今のは、もしかして」


家族が目を見開き驚いているわ。ベッドからゆっくりと身体を起こし、答える。


「過去を思い出しました。光魔法を使える事を」

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