第5話

「薬草を5束ですね?」

「はい、採取後はナタリーに手渡してください」

「わかりました!」

「採取できる場所は地図に記載されている森ですのでそこまでいったら自力で探してみてください」

「はい!」


 講習を受けた翌日の朝5時半、おれはまたしても寝ぼけながらメールを開いてしまいパジャマのまま異世界にきてアリスさんが用意してくれた着替えと採取セットそれに今回からは片手でつかえる軽い剣と小さな弓それに矢が10本を装備して、最後に前回と色がかわったカードを手渡され地図に従って歩き、街の外に出て1時間ほど歩いた先にある森についた。


「片刃だからかえって使いやすいか」


背の高い草を片手剣で狩りながら森の中を進むことにした、こうしておけば自分が通ってきた道が判らなくなるってことはないと思う。


「たしかカリン先生の話では薬草は日当たりのいい水辺の近くに生えるって言ってたな」


昨日の講義を色々思い出しながら草を刈ってあるいた。


「あっ!川だ!って危ない危ない……川や池には危険生物なんかも水を飲みに来るってガルドさんが言ってたっけ……この辺を探索するか……あ!あった!!」


カリン先生とガルドさんの教えをきいておいてよかった!


「よし!いないな!」


薬草の切り口を覆う布を濡らすため周囲を思いっきり生き物なんかが居ないことを確認して川に行き濡らして即離脱して作業に取り掛かった。


「おぉ!?結構生えてるな!お?毒消し草もある!あって困るものじゃないしこれも採っていくか!」


俺は森の中の少し日当たりのいい場所に生えていた薬草と毒消し草を取った。


「あまりとりすぎても次が困るか……」


結構な数の束を背中に背負った籠にいれ最後に籠の底を川につけ中の切り口を保護している布に水を含ませてから帰ることにした。


「ナタリーさん依頼を終えてきました」

「タチバナ様おかえりなさいませ、お疲れ様でした」

「これが薬草です確認願います」

「はい、お預かりいたします」

「ナタリー、それは私が査定します!」

「あれ?カリン先生?」

「せ、先生!?」

「?」

「いえ!なんでも!!安心してください!私がとしてちゃんとできたか確認しますね!」

「ありがとうございます、もし改善点なんかあれば教えてください」

「!?も、もちろんですよ!」


カリン先生が意気揚々と籠をもって奥に消えていった。


「あ、アリスさんから依頼書をもらってくるの忘れてた…」

「ふふふ、大丈夫です。アリスが届けに来てくれましたし結果も直接渡すことになっておりますから」

「あ、そうなんですね、じゃあカリン先生が戻ったら帰ります」

「いえ、お待たせするわけにはいかないのでアドバイスがあれば後日カリンには伝えるよういっておきますのでお疲れのようですし、本日はごゆっくりお休みください」

「そうですか?じゃあお言葉に甘えて……では失礼します」

「はい、お疲れ様でした」


ナタリーさんに笑顔で手を振られ見送られながら俺は部屋へと戻ることにした、クールな印象のナタリーさんがにこっと優しく笑うと破壊力がちがうと思ったが俺も社会人、社交辞令の笑顔で動じる男では決してない……決して!!


「もどりました」

「お疲れ様でした」

「薬草をおさめたらかえっていいって言われたんでもどってきました」

「そうですか、ではカードをお預かりしてもよろしいですか?」

「はい」

「たしかに」

「じゃあ、依頼書のほうお願いします」

「かしこまりました、それで?本日はもうお戻りになられますか?」

「え?」

「ご希望でしたらガルフさんなどに訓練などつけてもらえるように手筈もできますが」

「んー…うれしいですが今日はやめておきます、恥ずかしいけど慣れない山歩きで足腰バキバキですし急にガルフさんも言われても迷惑だと思うんで」

「さようにございますか、わかりました」

「気を使っていただいて申し訳ない!あ!でも明日はお願いしたいんでガルフさんの予定が空いているかだけ確認してもらってもいいですか?」

「かしこまりました」

「ちょっと武器のことで相談したくって」

「?そうですか」

「はい」


少し不思議そうな顔をしながらも俺を見送ってくれたアリスさんと別れ俺は自室にもどり久しぶりに部屋にある小さな湯船に湯を張って入った。


「うひぃ~…疲れが取れるぜぇ……ほんとは足ものばしたいけどなぁ…こんど銭湯にでもいってみるかぁ」


日ごろの疲れを風呂でとり冷蔵庫にあるとっておきの弁当と最近はハマっている抹茶オーレを楽しみに風呂からあがった。


「疲れはとれましたか?」

「うぉっ!?ア、アリスさん来てたんですか!」

「はい、依頼達成の報告に参りました」

「そうですか、わざわざありがとうございます」

「それとこちらを」

「え?なんですか?」

「冷蔵庫をはいけんさせていただきましたが賞味期限が切れたお弁当が1つと抹茶オレしかはいっていませんでしたのでこちらをお召し上がりください」

「あけても?」

「どうぞ」


風呂敷に包まれた中身は2段の重箱であけると色々なおかずとおにぎりがはいっていた。


「お…おぉ……こ、これ本当にたべていいんですか?」

「そのためにお持ちしたので」

「ありがとうございます!……うめぇ!!」

「和食というものははじめて作りましたが成功したようでなによりです」

「手作り!?」

「そうですが?」

「う…うぅ…こんな美味い手作り弁当を食える日が来るなんて…クエストを受けておいてよかった…」

「…………それくらいで泣くとか………キモいですね」

「ふぐっ!……しかたないだろ!はじめてなんだから!!ってやめて!憐れみの目だけはやめてよ!!」


氷のような冷たい目でみてくるアリスさんの視線に耐えながらたべた弁当はそれでも感動の涙をぬぐえないほどおいしかった。


「落ち着いたようなので今回のクエストのことについてお話してもよろしいでしょうか」

「は、はい!」


雰囲気を変え急に真面目なトーンで話し始めたアリスさんに思わず正座をして背筋を伸ばし言葉を待ってしまった。


「今回のクエスト、薬草採取ですが結果として達成評価はSでした」

「お?じゃあ俺の採取の仕方はあれでよかったんですね!」

「ええ、それとクエスト以外の薬草と毒消し草も別途買取になりました」

「やった!」

「それにともないクエスト5つを基準評価いじょうで達成しましたので立花様のランクがFからEランクとなりました、おめでとうございます」

「おぉぉぉぉ!!!」

「これからはFランクと難易度が少々あがるEランクどちらのクエストも受けれるようになりました」

「おぉ!って次からはクエストは自分で選べるようになるんですか?」

「選べますか?」

「……無理です」


俺はきっぱりと言い切った。だってどんなのが危険でどんなことまでなら俺が達成できるか客観的にわからないんだもの。


「そうだろうと思っていました、ですので今後も私が1つないし2つくらいまで厳選しそのどちらか、もしくは両方を受けていただくということでよろしいでしょうか」

「お手数をおかけしますがそれでよろしくお願いします」

「かしこまりました、では明日からのクエストはそのようにいたします、では私はこれで」

「なんか色々ありがとうございました!おやすみなさい!」

「いえ、ではごゆっくりおやすみください」


アリスさんが一礼してふっと消えていった。

ランクがあがった…万年平社員の俺でもクエストは頑張れば認めてもらえるんだ!



「立花様おはようございます」

「おはようございます」

「どうなされました?生まれたての老人のような……」

「生まれたてで老人!?」

「腰がまがって足腰がプルプル震えているようですが」

「筋肉痛です……」

「……さすが貧弱さがうりの立花様ですね、期待をうらぎりません」

「そんなのうりにしては……」

「そんなことで本日のクエストを受けてしまって大丈夫だったのですか?」

「休みにも限りがありますし、動いていれば体が慣れてくると思いまして」

「そうですか、本日お受けになられたクエストは……」

「は、はい」

「積み荷の積降です」

「ふぐっ!……が、がんばります」

「健闘をお祈り申し上げます」


アリスさんが手を振り見送ってくれたので部屋に用意してくれていた道具を一通りもって依頼者の元に向かい、作業内容をきいた。


「ふぅ~色々な大きさと重さの物があってきっつかったぁぁ」

「おう!ご苦労さん!休憩もさせずにわるかったな!」

「いえ!私の作業が遅かっただけですのでかえってご迷惑をおかけしました」

「時間内におわらせたんだこっちに文句はねぇよ!それに丁寧に荷分けもしてもらったしな!んじゃこれが依頼書だ!」

「はい!たしかに!ありがとうございました!」

「またなんかあったら頼むわ!」

「おぉ!是非おねがいします!!」


次々来る荷馬車から倉庫に荷物を下ろし違う倉庫から荷物を空になった馬車にひたすら積み込む作業を軋む体に鞭打って必死にやった。そして作業が終わると髭もじゃでガタイのいいおっさんがバシンと俺の背中を笑顔でたたきながら言ってくれた、なんか汗をかいて体をうごかし人に感謝されるというのはやっぱりいいなぁと感激しながらアリスさんの元に帰った。


「おかえりなさいませ」

「ただいまもどりました、これ依頼書です」

「たしかに……ふむ、なんとか動けていたようですね」

「ええ……まぁ」

「それでもう一つのクエストはいかがなさいますか?」

「やります!」

「また肉体労働系ですが大丈夫ですか?」

「うっ……はい!」


自分で用意しておいた昼食を部屋でたべ次のクエストへと向かった。


「おう、あんちゃん!急な依頼でわるいな!一人ケガしちまってよ!」

「いえ!精いっぱいがんばります!よろしくお願いします!」

「おう!とりあえずこの砂利を荷馬車に積んでくれ!」

「わかりました!」


なにかの建築現場だったクエスト場所でならした地面に敷く砂利を運んだり木材や土台になるんだろう岩を荷馬車に積み込んでは必死に運んだ。


「おう!日暮れだ!今日はここまでにしようや!」

「ふぅ~…」

「あんちゃんお疲れさん!最初はナヨナヨした細っこいあんちゃんで大丈夫かとおもったが一生懸命やってくれて助かったぜ!」

「いえ、少しでも役に立てたならよかったです」

「おう!十分すぎたぜ!お?そうだったほら依頼書だ!」

「ありがとうございます」

「またなんかあったら頼むぜ」

「是非おねがいします!!」


依頼者の親方とほかの従業員の人たちに笑顔で見送られ部屋へと帰った。


「お疲れ様でした、随分日にお焼けになられましたね」

「今日は日差しがつよかったですからね」

「そうですね、では依頼書も無事にいただきましたのでゆっくりお休みください」

「ありがとうございます、ではお疲れ様でした」

「お疲れ様でした」


アリスさんに見送られ今日もなんだかんだ充実した日をすごせて満足しながら自分の部屋にもどりシャワーを浴びた。


「いってぇぇぇぇぇ!!!!!!」


疲れを取ろうと少し熱めに設定したシャワーを浴びた瞬間、日焼けした肌の痛みに絶叫し今日も一日をおえた。






  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る