第3話


 薄暗くなってきたスラム街を四人の騎士を引き連れて歩く。


 一人はあの若い騎士、それ以外はよく分からない騎士達だ。


「おい、まだなのか?」


「もう見えてる。……ここだ」


 もしかしたら既にあの二人が死んでいることが仲間たちにバレて騒ぎになっているかもしれないと思ったが、小屋は静かなものだった。


 閉められていた扉を開き騎士達が中にはいる。


 現場は俺達が外に出たときから何も変わっていなかった。


「これを……君が?」


 騎士の一人が男達の死体を見て驚きの声を上げた。


 心臓と喉を一突き。


 子供のやり方にしてはきれいだったからだろう。


「俺と姫様はそこの檻に閉じ込められていた。おれが連れ出されそうになったからその隙にやった」


「これじゃあこいつ等からは何も聞き出せそうにないな」


「俺を蹴り飛ばした時もそうだったが、素人とは思えん。何人殺してきた?」


「……この二人が初めてだ。まだ」


 まだ、という部分に疑問を持たれたようだが俺はあんまりゆっくりしているつもりは無かった。

 

「早く行こう」


「行く?どこへ?」


「こいつ等の本拠地。金貨千枚と情報が欲しいだろう?」


「そんな事が出来るのか!?」


「だから連れてきたんだ。騎士達がスラムに入ってきたなんて情報はすぐに広まる。向こうが勘付く前に早く行こう」


 騎士達はすぐさま動き始め、俺に整然と着いてきた。


 金貨千枚に情報源となれば騎士たちにとっても大手柄だろうからな。


 スタスタと歩く俺だったがだんだん頭が痛くなってきた。


 空腹と脱水によるものだろう。


「なぁ」


「なんだ?」


「水、持ってないか?」


「ん?ほら」


 先程斬り掛かって来た騎士が懐から出した革袋を渡してきた。


 俺は口紐を解いてその中身を一気に飲み干す。


「おいおい、その量を全部か?」


「一日飲んでなかったからな。空きっ腹に水で気分が悪いが体調はまぁ良くなった」


「……そうか」


 歩きながら多少スッキリした頭で思いついた。


「そう言えば報酬の話をしたい」


「まぁ、そうだろうな」


 ここで何も貰わずに事だけ終わらせてはこれから先の苦労が減らない。


 もう二度とあんな未来に向かわないように俺は全力を尽くさなきゃならないんだ。


「先に言っておくが回収する金貨千枚は皇妃様の私財だ。これは渡せない」


「分かってる。金貨千枚、これは持って行っていい。その代わりそれ以外の財産は俺が貰う。その財産が金貨十枚以下だったら差額分を払って貰う。これでどうだ?」


「たった、と言える金額ではないが姫様を助けた報酬と金貨千枚、そして生きた情報源の対価にしては少ないとは思わんのか?時間をかければもう少しくらいは」


 別に少なくてもそっちが困ることは無いだろうに。


 こっちはとにかく金貨十枚あれば一番しなくてはならない事は出来るのだ。


 時間がかかってはいくら貰えたところで意味がない。


「必要ない。とにかくすぐに金がいるんだ」


「わかった。ただし物によっては要交渉とさせてくれ」


「……わかった」


 そう言っているうちにかなりスラムの奥の方に来た。


 ここまで来るとかなり人間のガラが悪くなってくる。


 どいつもこいつも武装しているので警戒心も強くしていく。


「あれだ」


 かなり奥まで来たところで俺は一つの石造りの建物を指さした。


 かなり体の調子が良くなってきたので今ならある程度のことは出来そうだ。


「中に入ったら俺がやる」


「流石に人数が多かったら危険だろう。手助けは?」


「必要ない。それより何人だ?」


「何がだ?」


「何人、生かしておけば十分だ?」


 俺の言葉に騎士達が顔を見合わせる。


 そしてハハッと笑い、「三人」と言った。


 それを聞いて俺は駆け出す。


 入り口のところに立っていた二人の見張りの首を刎ねた。


 そして扉の鍵穴から中を覗く。


 およそ二十人ほどが中に見えた。


 流石に生身に剣一本でこれは厳しい。


 だから体の中を流れていた魔力を体全体を包むように推し広げ、身体能力を強化する。


 扉には鍵がかかっていなかったので普通に扉を開けて中に入った。


 当然のように部屋の中の全員の視線が俺に集まったが、俺はそれに構わず部屋全体を見渡した。


 生かすにしても下っ端を残してもしょうがないからだ。


 部屋の中でふんぞり返っていた奴らの中で特に偉そうなやつを三人選ぶ。


「なんだてめぇ、見張りはどうした?」


「すぐ分かる」


 問答はすぐに終わらせて床を踏み抜きながら加速し、俺の正面で椅子に座っていた男の首を飛ばした。


 そしてその次はその近くにいた男、そしてその隣。


 三人の首を飛ばしたあたりで全員が動き始めたが、最初に剣を抜いた奴から順に跳ねて殺し回った。


 しかし流石に半分行かないくらいで剣を抜いた数人が斬りかかってくる。


 それを弾き逸らして次々と斬っていく。


 途中から一撃で殺すことより深手を負わせることに集中した。


 手首を落とし腹を割いて目を潰す。


 確実に斬れるところを斬って動ける人間を減らしたほうが効率がいいからだ。


 背後から振り下ろされた剣を隣りにいた男の足を刺して傾けることで代わりに受けてもらい、回転しながら首を刎ねれば死なないくらいの手傷を負った人間が5人残った。


「もういいぞ」


 そう外に向かって声をかけると扉の前で待っていた騎士達が部屋に入ってきた。   


 部屋の惨状を見た騎士たちが一斉に顔を顰める。


 俺も返り血で濡れたトマトのようになっていた。


 そこらのきれいな死体から服を剥いで血がついて部分を拭う。


「予定より二人多いが要らないなら選んで殺すといい」


「……お前、鬼の子か?」


「人の子だ。親は知らないがな」


 物心ついたときには孤児だったから。


 そんなことより宝物だ。


 昔連れてこられた時の記憶を頼りに床を探ると地下室への階段があった。


 たしかこの先に商品を受け取りまで保管する檻と金銭の類を保管する場所があった筈だ。


「て、てめぇら一体何なんだ!?」


 地下に降ろうとしたところで手首を切り落とされただけの比較的元気な男が喚いた。


「こいつらは騎士、俺はスラムの人間だ。地獄の鬼より深い憎悪に落ちた、ただの人間だ」

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