第105話 待望の!!

「卵って、育つと大きくなるんだな。それともこれは、こういう爬虫類系の柔らかい卵限定なのかな?」


 ふむふむ、と考察しつつ、最初は気のせいかとも思ったけど絶対に大きく成長していると確信できる程に大きくなったククルカンの卵を撫でる。

 最初は大きな巣にポツンとあったのに、今では大きな巣に見合うくらいには大きくなった卵は、温かく温度を保ちながら嬉しそうにゆらゆらと揺れた。


『またイツキは自分の価値観に当てはめて考えていますね。僕達は神獣、幻獣ですからね。その爬虫類系、というのはなんとなく想像はつきますが、多分違うと思いますよ』


 撫でると嬉しそうに反応する卵がうれしくて、未だに毎日しくしく泣きながら見守っているククルカンを無視しつつ毎日せっせと撫でている。

 そんな俺にかけられた今日の当番のドライの辛口な返事に苦笑した。


「まあ、それは分かっているんだけどさ。でも仕方ないだろう?こっちの常識がいまいち分からないんだから。ドライだって神獣、幻獣の常識を教えて一から全部教えてくれって言ったら教えてくれるのか?」

『……まあ、イツキはそのままでもいいんじゃないの?ほら、今日はこの周辺を見て回りたいって言ってなかった?訓練したいから、さっさと終わらせて欲しいんだけど』

「面倒くさい、って顔に書いて返事しなくていいから!もう。じゃあ、また明日来るからな。頑張って成長するんだぞ?さて。ククルカン、今日は少し周囲を回らせて貰うからな」


 撫でていた卵に声を掛け、後ろで泣いているククルカンに久しぶりに視線を向けた。

 ラジ達三つ子が来るようになり、二日目以降もシュウが俺の頭の上で過ごすようになったが十日たち、やっとシュウが落ち着いてくれた。

 ラジ達三つ子もシュウを見るとすぐに突撃することも七日目にはなくなったのだが、その後も三日様子を見ていたシュウがやっと離れてくれたのだ。

 なので予めアーシュには許可を取っていた、ククルカンの巣の周囲の探索をやっと今日、決行することにした。


 まあ、一番大変だったのはドライを説得することだったんだがな!毎日訓練しているんだし、ほんのすこしの間くらいすんなり付き合ってくれたらいいのにな。


 結界の入り口でじっとこちらを見守っているキキリに手を振り、とりあえずアーシュが怒って乗り込んで来た時に枝を折ってしまい、再生の炎で若木に戻した木が順調に育っていることを確認する。


 うん、もう大分育っているから心配ないな。でも不思議だよな。アーシュの再生の炎で若木に戻すと、元の大きさに戻るまではまるで早送りのように成長するんだもんな。本来の木は、一年で数センチ程しか成長しないのにな。


 ここにククルカンに誘拐されて初めて来た時、木々の間から俺のことを心配そうに見守ってくれていたまだ若いドライアードやスプライト達も無事で、俺が来るたびに顔を見せてくれている。


「なあ、ドライアード、それにスプライト達。この地にしかない植物を教えてくれないか?出来たら俺が食べられる物がいいんだけど」


 今日も木々の間から覗いていた精霊達に声を掛けると、顔を見合わせた後に笑顔でスプライト達が出て来てくれた。

 手招きしながら森へ入って行くスプライト達を、頭上の絡み合う蔦や足元の生い茂る草を避けながら追いかける。


『あまり遠くまでは行きませんよ。これから訓練もあるし、キキリも心配しますからね』

「そうだな。キキリにあまり心配かけると悪いから、とりあえず今日は近場でお願いな!」


 この世界に来た時は、深い森に分け入ることに強い恐怖心を抱いたものだが、今では守護地の森の中を歩くのなら安全だと無意識に思ってしまっている。


 でも、そうだよな。いつもキキリが俺のことを見ていてくれていたから、何事もなく安全でいられたんだよな。蜘蛛や虫、それに小さめなトカゲとか、いつも俺がほとんど気づかない内に処理してくれていたしな。


 そんなことをぼんやりと考えていたからか、足元への注意が疎かになり、太ももまである藪に脚を取られてしまった。


「う、うわぁあああっ!」


 なんとか堪えようと踏ん張るために踏み込んだ逆側の脚も、足元の草にズルッと滑って体勢を崩し、そのまま倒れ込むように頭から地面を覆う藪へと倒れ込む。

 地面に身体を打ち付けられる覚悟をしていたのにそこに地面はなく、そのまま草が覆う斜面を頭から滑り落ちてしまった。


「いっ、いたっ!いたたたたた……」


 草の上を滑り落ちながら顔を草の葉で切りつけられ、あちこちに切り傷が出来ていく。その痛みに晒されながら落ちた時間は、体感的には長く感じもしたが、恐らく十秒にも満たない時間だっただろう。


『イツキ、なんでそこまで転げ落ちられるか、こうなると一種の才能なんじゃないのかって思っちゃうよ。まあ、僕も人間のことは知らないから、人間は皆ドンくさいのかもしれないけどさ』


 やれやれ、と言わんばかりのドライの声で自分が無事に止まったことを知り、つぶっていた目を開けるとすぐ目の前には沼があった。どうやら沼のへりから転げ落ちてしまったらしい。

 着ていたローブのフードの部分をドライの嘴がつかみ、半分上半身が浮かんでいた。


「うわぁ……。ありがとうな、ドライ。このまま沼に飛び込んでいたら、ドロドロになってたよ」

『大きな怪我をしないのは、イツキが運がいいのか悪運がいいのかだね。ほら、ちゃんと立って。スプライト達も心配しているから』

「ああ、ありがとう。ふう。キキリに見つかる前に、泉の水を飲んでおくよ」


 膝をついてバランスをとって立ち上がり、草の葉で切った傷以外に怪我がないことを確認すると、肩にかけていたマジックバッグから泉の水を取り出して飲む。たちまち痛みが引いていくのを実感し、ほう、とため息をついた。


 カバンがどこかにひっかからなくて良かったよな。マジックバッグを壊したらこれからが大変だったし、中に入れてた物がどうなるか分からないからな。


 アルミラージがラジ達三つ子を送りに来た時、お詫びだと言ってついこの間マジックバッグに果物を入れて届けてくれた。

 そのマジックバッグもどうやらかなり前の物みたいだったが、アーシュに貰ったこのカバンよりも容量が小さく、中に入っていたのも着替えが一着とこちらの世界のお金だろうコイン、それに小さなナイフくらいだった。


 でも予備のマジックバッグが手に入ったことで俺が凄く喜んでいたからか、他の子も守護地で探してみるって言ってくれたので、もしかしたら他にも手に入るかもしれないがな。


 一息をつき、マジックバッグも着ていた服も無事なことの確認が終わると、転がり落ちてしまった土手を上がる前に、沼の方を見回してみる。


「んん?あれは……」


 沼地の浅い場所、湿地帯のようになっている処に生えている植物を見て、どこか既視感を覚えたのだ。


 ……んーー、なんだっけ。実家にいた頃、よく見た気がするんだよな。でも湿地帯なんて実家の傍にはなかったよな。でも、絶対見たことある気がするんだよな。


 近くに行ってみようと、沼のほとりを足元に気を配りながら進んで行く。後ろでドライが止めているような気がしたが、今はそんなことよりもどうしてもその植物のことだけしか目に入らなかった。


「んーー?なんだっけ、ええと確かあれは……。あああーーーーーーーっ!!も、もしかして、あれって!!」


 もしかしたら、もしかしてっ、あれは、稲、なんじゃないかーーーーっ!!








******


今回はちびうさぎ達から離れて、とうとう待望の稲発見でした!

次回は水曜更新予定です。


前回でバタバタとご報告しましたが、今作は、『ちび神獣たちのお世話係始めました ~世界樹の森でもふもふスローライフ!~ 』と改題して来年1月にGCノベルズさんより書籍化されます!イラストレーターさんはなんと、OX先生です!

早くもアマゾンさんなどで予約が始まっておりますので、どうぞよろしくお願いいたします。


また、書籍化に伴い、書籍化で変更したり増やした設定で今後書かせていただきます。(アーシュの再生の炎とかですね)

申し訳ありませんが、ご了承下さい。

加筆改稿しておりますので、書籍版をどうぞよろしくお願いいたします<(_ _)>


またフォロー、☆♡をありがとうございます!励みになっておりますので、よろしくお願いします<(_ _)>





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