第104話 騒がしい春

 ジア、ラジ、ミアのアルミラージの三つ子は、やんちゃだがやって来たケットシーやクー・シーの子供達が最初はちょっと引いていたが、三人だけだからか今は溶け込んで元気に走り回っている。


『みぎゃうぅぅ……』

「あー、ほら、シュウ。三つ子は他の子供達と遊んでいるから、もう降りてこないか?」

『みぎゃ!!ぎゃうぅ』


 頭に食い込んだ爪が少しいたいが、もふもふなお腹が頭に当たってほこっこりはするんだけどな。


 三つ子によってたかられたシュウは、広場を走って逃げ回り、結局三つ子が昇って来れない俺の頭の上に落ち着いてしまった。

 憧れの猫マフラーではなく、キキリもお気に入りの肩の上に後ろ脚を乗せて頭に乗り上げる格好だ。


『もう、シュウ、降りて来るの!イツキは私を抱っこするんだから!』

「あーー、クオン。シュウはラジ達と慣れるまでちょっとかかりそうだから、クオンはラジ達の面倒をお姉さんとして見てやってくれないか?」

『みぎゃうぅぅ……!』


 いやいや、と頭の上でシュウが首を振る気配に、本気でシュウが嫌がっているのを感じて苦笑した。

 ラジ達はケット・シーとクー・シーの子供達には飛び掛かったりしなかったのだが、どうやらシュウの大きさが遊び相手として飛び掛かるには丁度良かったのか、シュウを見ると三人とも追いかけだすのだ。


 まあ、ラジ達はシュウにじゃれているつもりなんだろうけどなぁ。最初がもっと大人数でじゃれられたから、シュウに苦手意識が染みついちゃったみたいだからなぁ。


 足元で飛び跳ねるクオンをなんとか宥めて駆け回っている子供達の方へ誘導し、頭にしがみついているシュウに手を伸ばして体をポンポンと叩いて慰めた。

 クー・シーやケット・シーの子供達が来ても、逃げ回るシュウを追い回し続けたラジ達は、シュウが俺の頭上にしがみついたことでやっと離れて行ったのだ。


 それからもあちこち興味のままにフラフラする三つ子達をクオンやその後に来たロトム、それにライが面倒を見てくれている。ケット・シーやクー・シーの子供達も来た時は遠巻きにしていたが、少しずつお互い近づき、大きさがあまり変わらないからかそれ程かからずに溶け込んでいた。

 そんな様子をシュウをなだめつつ見守っていると、そこへ最後のセランとフェイがやって来た。


『あーーっ!ウサギの子だっ!』

『こら、セラン。ダメですよ』

「お、セラン、フェイ、今日からアルミラージの三つ子が来ることになったから。セランもお兄ちゃんとして、面倒を見てやってくれな」

『わかった!僕、お兄ちゃんとして頑張るよ!』


 この間の騒ぎを思い出したのか、最初は不機嫌そうだったセランが、お兄ちゃんだから、というと途端にご機嫌になり、バラバラに走り回る三つ子に翻弄されているロトム達の方へセランが走って行くのを見送ると、フェイが俺の頭上にいるシュウに気づいて話しかけて来た。


『私も三つ子には気を付けるようにしておきますが、シュウはどうされたのですか?』

「なんかラジ達に一斉に飛び掛かられちゃってな。ほら、この間も子ウサギ達に飛び掛かられていただろう?それでトラウマになっちゃったみたいなんだよ。ラジ達からしたら、恐らくシュウがじゃれるのには丁度いい大きさなんだろうなぁ。まあ三つ子も落ち着けば、シュウも慣れてくれると思うんだけどな」

『みぎゃうぅ!みぎゃぎゃう!!』


 いやいやとまたしっかりと頭にしがみつかれ、苦笑しながらシュウの体をポン、と一つ叩くと、全員が揃ったのでいつもの日課に出かける為に子供達に声を掛ける。

 因みに今日が当番のドライも一緒にいたが、大きすぎるからかラジ達三つ子が近寄って来ないことをいいことに、一人我関せずを決め込んでいたぞ!アインスとツヴァイはさっさと訓練に行ってしまったしな!


 三つ子は小さいしすばしっこいから大きいアインス達には相手するのが面倒なのは分かるのだが、もう少し協力して欲しいんだけどな、と思いつつキキリとユーラと一緒に頭上にシュウを張り付かせたまま子供達と一緒に歩き出したのだった。




 聖地へ続く道沿いの森も、緑の色が濃くなりすっかりと春の装いになっている。


『あーーー!そっちいっちゃダメだよ!森へ行くのは戻って来て昼寝してからだよ!』


 そんな道を皆で歩き出してからも、あっちへフラフラ、こっちへフラフラと興味が向くままうろちょろする三つ子をセランが追いかけて行くが、そのセランにラジ達がぴゅーっと飛び跳ねて逃げ、そんな三つ子をロトム達が追いかけまわし、と歩くだけでも大変なことになっている。


 ラジ達三つ子は恐らく初めて近くで接する細い脚で大きな馬の姿に慣れずに逃げてしまうのだろうが、逃げた三つ子をセランが追いかけ、またその姿に逃げ、とてんやわんやだ。


「なあ、フェイ。セランに説明した方がいいかな?」

『……もう少し様子を見てからでいいかと。そのうちラジ達も私達の姿を見慣れてくれるでしょうし、今はセランも必死なようですから』

「ならもう少し様子をみるか……。すまないがセランが落ち込んでしまったら、フォローをお願いな」


 今まではセランがもっと小さかったからか怖がられたことはなかったが、子猫よりも一回り大きいくらいのラジ達からしたらセランは見上げても顔も見えないのだ。


 まあラジ達もかなりやんちゃだし、案外すぐにセランにも慣れて仲良く走り回るようになるかもしれないしな。怖がられているのかも、なんてセランに言うのもかわいそうだし、とりあえずもう少し様子を見るか。



 聖地へ到着しても、聖地の花畑に埋もれてしまいそうになるラジ達をなんとか見失わないように、皆で奔走しながらいつもよりも時間を掛けてやっと泉へと到着した。

 ふっと気づくといなくなるラジ達を花畑で捕まえるのは至難の業で、早く落ち着いてくれることを願うばかりだ。


「じゃあ、ウィンディーネ達、やんちゃだから大変だと思うけどよろしくお願いな」


 気が付いたら溺れていた、なんてことにならないように、くれぐれもどうか宜しく、と深々とウィンディーネ達に頭を下げてお願いする。

 お願いされたウィンディーネ達はクスクスと笑いながらも、水辺できょどきょどしているラジ達に水しぶきを掛けながら楽しそうにしているので一安心だ。


「じゃあキキリ、行こうか。ほらシュウ、いい加減降りてくれ。シュウはククルカンの結界に入れないだろう?」

『みぎゃ!ぐるるるぅるるる!!』


 いやいやと、更にしがみついてくる頭上のシュウをどうしたらいいかと思っていると、べりッとシュウが頭からはがされて慌てて振り向くと、ドライの嘴から吊り下げられてぷらんぷらんと揺れているシュウの姿が。


「うわっ、ドライ。剥がしてくれたのはありがたいけど、シュウをどうするんだよ」

『ぎゃうぅぅ……』


 俺の言葉にツン、と目をそらしたドライが、そのままブンブンとシュウを振り回し、そのままポーンと泉の方に放り投げた。


「うわあああぁっ!だ、大丈夫か、シュウ!」

『ふん。大丈夫ですよ、ほら。それよりもさっさと行きましょう。僕も早く訓練に行きたいので』

「えええええぇ……」


 慌てて放り投げられたシュウを目で追うと、泉の上でうまくシルフ達にキャッチされ、シルフとウィンディーネ達の力を借りたのか泉の上を走って去って行くシュウを唖然としたまま見送ると、改めてウィンディーネ達にシュウのことも頼むとキキリとドライを連れてククルカンの結界へと向かった。


 ハア……。覚悟はしていたけど、シュウのこともあるし、しばらくは騒がしい日々になりそうだな。


 春になり、一年中咲き誇る花畑の白い花さえも鮮やかに見える気がするが、これからのドタバタした日々を想像しつつ最近少し動くようになって来た卵に思いをはせたのだった。









*****


結局一週間空いてしまい申し訳ありませんでした。

急に寒くなり、体調が整わずにゆっくりしていました。


しかも今日は出先で(仕事がお休みだったので)

書き終わったはずがデータが消えていて( ;∀;)

流れしか思い出せずに泣きながら書き直しました( ;∀;)


次回は日曜予定ですが、体調しだいになるかと思います。

皆様も体調にはお気をつけて下さい。

のんびりお待ちいただけるとうれしいです。どうぞよろしくお願いします<(_ _)>


フォロー、評価、いいねをありがとうございます!励みになっております。


後日改めて告知させていただきますが、この度この作品は書籍化していただくことが決定いたしました!

今後ともどうぞよろしくお願いいたします<(_ _)>

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