第103話 子ウサギ3兄妹
毎日の聖地での日課に、ククルカンの卵を撫でることが加わって早五日。最初は毎日子供達全員が結界のすぐ傍まで来ていたが、やっと昨日からキキリとクオン以外の子供達は泉で別れるようになっていた。
『イツキ、すぐ戻って来てね?ちゃんと帰って来るよね?』
「大丈夫だよ、クオン。ちゃんと昨日もすぐに戻って来ただろう?そこから見えるんだし、ちょっとだけだから行って来るな」
キューンと鳴くクオンの頭を撫でて、早く!と目線を送って来るアインスを連れてククルカンの守護地への結界をくぐりながら見ると、キキリがクオンの横でぽんぽんとなだめていてくれていた。
キキリは誘拐されてから、俺の傍から離れずにずっと一緒にいてくれている。護衛という自覚の高いキキリは、本当なら一緒に入りたいんだろうけど、アーシュに聞いたら結界を張りなおすのは面倒だし、生まれるまでの間のことだから、って言われてしまい、ああやって結界の境界で毎日待ってくれているのだ。
アインス達は三日目までは三人で着いて来てくれたが、今では一緒に付いて来てくれるのは一日交替で誰か一人だけとなっているんだけどな!
『ああ、今日も来て下さり、ありがとうございます。ありがとうございますぅ……。ううう。我が子が、我が子が少し反応してくれました!本当にありがとうございますぅ……!』
結界をくぐるとすぐ目の前に卵が乗った巣があり、そうしてその向こうにはむせび泣いているククルカンの姿が……。
……まあ、毎日ククルカンが泣きながら待機しているし、アインス達が嫌がるのも分かるけどさ。アインス、そのあからさまに嫌そうな顔をしながら走ってククルカンを踏みつぶそうとするの止めてくれよな!
俺が来る頃には毎日ククルカンもいて、俺達を監視ではなくお礼を言いながら泣いているのだ。もう俺も反応を返さずに挨拶をして卵を撫でてすぐに戻るようになっているんだけどな。
「……こんにちは。今日も撫でに来ました。少し反応があったということは、孵る日も近づいているかもしれませんね。良かったです」
『ううう、そう、そうなんですぅーーーーっ!!もう、本当になんとお礼を言ったらいいのかっ!ありがとうございます、ありがとうございますぅ!うううううぅ……』
最初は撫でるとほんのりと温もりを感じるだけだったが、昨日は確かにうっすらと卵が蠢いた気はしていた。どうやらそれが間違いではなかったようだ。
ほら、お母さんがあんなに泣きながらお前のことを待っていてくれるからな。頑張って孵るんだぞ?
今では体温より暖かな温もりが伝わる卵をゆっくりと撫で、せかせかと落ち着きなくこちらを見るアインスを見て、では帰ろう、と立ち上がりつつ辺りを見回した。
そういえば、ここにもう何度も来ているけど、ゆっくりこの周囲を見たことは無かったんだよな。ここはアーシュの守護地より体感的に温かく感じるから、ライとかが棲んでいる南にある守護地に近いのかな?
春が来て、最近では上着一枚で過ごせるようになっては来たが、それでも厚手の下着はまだ手放せない気温だ。それなのにここに来ると、上着を脱ぎたくなる程度には温かく感じる。
今度はアーシュに言って、ここで何か植物を探していいか聞いてみよう。新しい食べられる野菜か野草があったら嬉しいよな。
そのくらいの特典は貰ってもいいよな、と思いつつ、結界からこちらを心配そうに見つめるクオンと目があい、今日はもう帰ることにしたのだった。
それから無事に日課をすませ、水遊びをしている子供達と合流して遊んだ後、家へ戻ろうと歩いていると珍しくアーシュが舞い降りて来た。
『もたもたしているから、アルミラージとの結界を張って来た。明日から子供を連れて来るだろう』
「ああ、子ウサギ達が来られないような結界を結局アーシュが張って来たんだな。でも、明日から来るのか……」
ククルカンの時もそうだったが、アーシュがアルミラージのことを気にするのが面倒になって手を出して来たのだろう。でも、子ウサギ達、か……。
一週間前のあの騒ぎを思い出しただけで、ぐったりとしてしまう。ふと見回すと、子供達も心なしかぐったりとしているようだ。シュウなんて、もう尻尾が膨らんでしまっている。
『来るのは長の子の三つ子だけだ。問題を起こしたら俺に言え。ではな』
あの騒ぎの時にもその三つ子はいたのだろうが、当然のことながら見分けはついていない。来るのは三つ子だけとはいえ、賑やかになる予感がひしひしとしている。
「……今日は昼食を食べて昼寝から起きても、ゆっくりと過ごそうか」
そう告げた俺の言葉に、子供達も無言で頷いたのだった。
そうして翌日。いつものように起き、アインス達に肉を焼いて出し、自分の朝食を作って食べていると。
『すいません、すいません。あの、その、この間はお騒がせして、申し訳ありませんでした。今日からよろしくお願いします!ほ、ほら。お前達も挨拶をしないか』
一番先に来たのは、昨日アーシュが告げたアルミラージ達だった。
どこかオドオドとあちこち視線をさ迷わせながら小さな子ウサギを連れてやって来たアルミラージの長は、三人並ばせて呼び名を教えてくれた。
『ええと、この子が一番目の子、ジア、です。その隣、真ん中が二番目の子、ラジ。そして三番目が娘のミラです。あの、騒がしいようでしたら、言って下さい。どうか、どうかよろしくお願いします!』
薄い黄色の毛並みの子ウサギ達は、ジアとラジが男の子。一番下のミラが女の子のようだ。見比べてみても、ほんの少しの体格の違いと、ほんのわずかな顔つきの違いがあるだけで見分けが出来るようになるかかなり自信がない。
「その、ジア、ラジ、ミラ。今日からよろしくな。では、お預かりいたしますので、夕方迎えに来て下さい」
この間のお詫びも兼ねて、と差し出された籠に入った果物を子ウサギの昼食として大量に受け取り、ペコペコ頭を下げながら聖地へと去っていくアルミラージの姿を見送った。
……守護地の精霊に籠に果物を入れて貰ったのかな?ドワーフがいるのか、それともケット・シーみたいな精霊なのか気になるけど、今はこの子達だよなぁ。
かなりアルミラージに言い含められているのか、うずうずと体を揺らしながらも大人しく座っている目の前の子ウサギ達を見ながら、どうしたものか、と思っていると。
『イツキーーーーーーっ!いなくなっていないよね!?』
『みぎゃっ!』
バタバタとクオンとシュウが広場へと走り込んで来た。
「クオン、ちゃんといるぞ。シュウもおはよう。今日も早いな」
『イツキ、いたーーーっ!おはようなの!』
だだだだだっ、と走って飛び込んで来たクオンを、腰を落として抱きとめて、いつものようにもふもふする。ひとしきりキャッキャとクオンとじゃれていると、シュウの叫び声が上がった。
『みぎゃうっ!!みぎゃ、ぎゃぎゃっ!?』
え、と慌てて振り返ると、シュウに先ほどまで大人しく並んで座っていた子ウサギ達が群がっていた。
あああ……。あの騒動も、シュウの鳴き声から始まったんだったよな……。
これから始まるだろう騒がしい日々を思い、つい遠い目をしながらクオンのお腹に顔を埋めてしまったのは、仕方ないと思います!
*****
子ウサギ達、ジア、ラジ、ミラの三つ子再登場です。
イツキのことだから、その内見分けがつくようになる……はずです。
次の更新は日曜が出かけるので土曜か月曜です。
どうぞよろしくお願いします<(_ _)>
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