第102話 子供達のトラウマと新たな日課

『もうどこにも行っちゃダメなのっ!ずっとクオンと一緒にイツキはいなきゃダメなのっ!』


 ククルカンに誘拐?され、力尽きて早々に寝てしまった翌日。早朝から駆けて来たクオンにひしっと抱き着かれている。


「あー。昨日は心配かけてごめんな、クオン。でも、ずっと一緒は……お母さんがクオンがいないと寂しくて泣いちゃうからダメだろう?」

『むーーーーーっ!お母さんに言ったら、今日のお泊りはいいけど、毎日はダメって言われたの。でも、私はイツキがどっか行っちゃわないように、ずーーーっと一緒にいたいのにっ!ぶーーーーーーーっ』


 ぐりぐりぐり、と胸元に頭をこすりつけるクオンはめっちゃかわいすぎるし愛しいけど、でも、ごめん、クオン。もう俺の腰が限界なんだけどっ!


 ぴゅーんっと駆けて来たクオンをなんとか腰を落とし、踏ん張って抱き留めはしたが、クオンも少しずつ大きくなっている。体はもっふもふだけど毛皮を抜けば細いので体重はまだ軽く短時間の抱っこなら支障はないが、それでもぐいぐい来る勢いつきだともうダメだ。非力な俺ではその勢いが受け止められなくなっているのだ。


 ううう……。真面目にもう少し鍛えないとなー。アインス達のように大きな種族は子供でも大きいのだし、筋肉は必要だよな。最近ではアインス達に乗ることもなかったし、今度少し乗せてもらうか……。


 ロデオ状態はきついが、短時間で鍛えることが出来そうだ、としぶしぶながらも今回は子供達にも心配を掛けてしまったので少しずつ訓練をすることを決意した。


「もう、クオンは本当にかわいいなー。ほーれ、もふもふー。今日はお泊りなら一緒に寝ような。ほら、俺はどこも怪我もしていないし、ずっとここにいるから大丈夫だぞ、クオン」


 よしよし、と頭を撫で、抱き着きながら全身でもふもふする。すると不機嫌にバシバシしていた尻尾が、だんだんとブンブンご機嫌にフリフリと振れ出したのを確認し、ホッとしながら更にもふもふする。


 しばらくキャッキャッともふもふしつつじゃれ、ようやくクオンが落ち着いた頃に自分の朝食の準備を始めた。

 アインス達の肉を出したところでクオンが来たのだが、見ているだけでそのまま訓練に行こうとしていたから、慌ててククルカンのところまで一緒に行ってから訓練だって引き留めたぞ。

 そのことにもクオンがすねて大変だったけどな!


 その後も朝食を食べていると続々と早めに来た子供達に心配されたので、うれしく思いつつもかなり申し訳ない気持ちになった。

 誘拐されたのは俺の不可抗力だったけど、確かに全く気付かず寝ていた自分もどうかと思うしな!



『シーラから誘拐されたと聞いて、驚きましたのぉ。無事で何よりですなぁ。ケット・シーからも大人を常時一人付き添いでつけた方がよろしければそういたしますが、どうしますかなぁ?』


 ケット・シーの子供達を引き連れて来たシンクさんにまでそう言われて心配されてしまった。

 

『ギャオウッ!!もうイツキ、離れない、大丈夫!』

「そうだな、キキリ。宜しく頼むな、キキリ。でも俺が襲われるなんて早々ないから、そんなに気張らなくていいからな」


 昨日は早々に寝てしまったが、朝起きたら枕元でキキリがじっと俯いて落ち込んでいる姿を見てぎょっとした。

 キキリはそういえばドラゴンが俺の護衛に、と預けて行っていたことを思い出したが、でも、今回だって誘拐はされたが別に怪我一つしていないし、キキリはオズについていてくれたのだし責があることではない。


 慌ててそう何度も伝えたのだが、落ち込んだキキリはなかなか顔を上げてくれず、オズの状態も落ち着いたことだし結局今日から日課の間は一人で部屋に居て貰うことにして、戻ってからはユーラや俺や誰かがたまに様子を見ることで落ち着いた。


 キキリのことはそもそも自分に護衛が必要だとは思っていなかったし、世界樹の守り人であるユーラが生まれてからはユーラが優先になることは当然だと思っていた。それにオズのことだって、世界の存亡に関わる案件だからそっちの方が優先になるのは当然だし、実際にキキリが付き添ってくれていたことで安心して任せることが出来ていた。


 どちらかというと、まだ生まれたばかりのキキリに俺が甘えすぎていたんだよな……。キキリが俺の護衛をしたい、と思ってくれるなら、その望みを叶えて俺の傍で普段はのんびりして貰うのが一番だよな。


 そう思って改めてキキリに俺の護衛を頼んで「頼りにしているからな!」と言ったことで、やっと顔を上げてくれたのだ。


『これは失礼しましたなぁ。キキリさんがついていれば、我々の手など必要ありませんなぁ』


 こ、これはもしやリアル猫の手!とつい考えてついシンクさんの手を見てしまったが、こっそり目線をそらしてごまかしたぞ。


『ミャウミャオウッ!』

「お、シーラも心配してくれたのか?ありがとうなー」


 シンクさんの娘の黒猫のシーラも、最初に聖地の会合の時に会った時はほんの小さな子猫だったのが、今では立派な生猫サイズに成長している。もう少し大きくなれば二本足で立って話し出すだろう。

 そんなシーラはツンデレ猫で、普段はあまり俺に近寄ることなく皆と毛玉になって寝ていることが多いのだが、今朝は自分から俺の膝に乗ってくれたので、デレデレと撫でてしまった。


 そんな俺を見てクオンがまた『むーーーーっ!』と言いながら俺の脚にからんで来ているのがまた更にかわいくてデレデレしてしまう。


 その後クー・シーの子供達を連れてやって来たシェロにも心配され、俺にはこんなに心配してくれる人がいるんだ、と思うと心がぽっかぽかになったのだった。



 そうこうして皆が集まり、普段より少し遅くなったがいつものように子供達と聖地へ出発した。

 久しぶりにアインス達が同行しているのを見て子供達が少し不思議そうにしていたが、泉に着いたら訓練に行くからと説明した。


 俺の隣をユーラが歩き、その隣にはしっかりキキリが周囲を警戒しつつ歩いている。そんな俺達の周囲をクオンがちょこちょこ走り回りながら着いて来て賑やかだ。

 あのシュウでさえ真っ先に走って先にいかず、俺のことをちらちら見ながら子供達のペースで歩いている。

 その姿を見て、本当に子供達には心配を掛けてしまったのだ、としみじみと実感して申し訳ない気持ちでいっぱいになったのだった。



 そうして泉に着き、いつもと違う方向へアインス達を連れて行こうとすると、子供達の視線が突き刺さった。


『イツキ、どこ行くの?私も一緒に行くの!』

『そうだ、どこに行くのだ?』『俺も一緒に行こう』

『ピュイ!ぼくも、行くよ』

『イツキ、またどっか行くなら、セラも、一緒、行く!』

『みぎゃっ!』


 そうなるとクオンが飛びついて来、ロトムやライ、それにシュウやセランやフェイも一緒に行く!と着いて来た。キキリも当然のように隣に来たしな!ケット・シーやクー・シーの子供達もこちらの様子をじっと見つめている。


「う、うーん。そのな、昨日のほら、ククルカンの卵の様子を見に行くことになったんだよ。聖地から結界で繋いでもらったし、アインス達も一緒だから危険なことはないから、皆はこの泉で待っていてくれないか?」


 アーシュがかなり厳重に結界を張っていたから、俺とアインス達しか通れない筈だ。キキリはもしかしたら通れるかもしれないが、アーシュに確認してみないと分からないからな……。


 それでも昨日皆が寝ている間に俺がいつの間にかいなくなっていたことはやはり子供達のトラウマになってしまったのかなかなか子供達は納得してくれず、結局結界の前まで一緒について来ることになってしまった。


 アーシュと空から見た景色の記憶を頼りに少しだけ泉の奥へ進み、景色が歪んで昨日見たククルカンの巣が見える場所を発見した。

 そこで皆に待って貰ってアインス達と一緒に結界に入り、無事に卵を撫でたのだが、その間ククルカンに張り付かれてまたさめざめと泣かれてしまい、アインス達が辟易してさっさと戻ることになったのだった。


 子供達が卵を見て落ち着いてくれたのは良かったけど、毎日ククルカンに泣かれるのかと思うと……ちょっとだけ面倒だな、と思ってしまったのは仕方ないよな!










******


やはり寝ている間に居なくなってしまったイツキのことは、子供達にはトラウマになっていました。

クオンに纏わりつかれてイツキはデレデレですけどね( ´艸`)

まだ文章の纏まりがいまいちですが、回復してきました!


次の更新は水曜予定です。

次回は子ウサギが登場、かも?


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