第101話 誘拐からの帰宅
『ありがとうございます、ありがとう、ございますぅ……。こ、これでこの子も。うううううぅ』
『泣いてばかりで鬱陶しいわっ!!』
ドカッ。ゲシッ。ゲシゲシゲシゲシッ!
さめざめと感謝の言葉を発しながら泣き続けるククルカンは、イラっとしたアーシュが更に踏みつけ嘴でつついたので、色褪せていた黒い鱗や羽にあちこち傷だらけになったが、卵の孵化の希望からか最初に会った時よりも鱗が艶々になった気がする。
それでも泣き続けるククルカンが鬱陶しくなったのか、とうとうアーシュがどつきながら空間を繋ぐ結界を張らせていた。
因みに散々ダメ出しして、結局アーシュの結界も上に一枚被せて二重の厳重な結界になったから、俺の安全は勿論、どちらかというとククルカンの守護地の要、卵が置かれているこの場所は聖地と直接空間的には繋がったが安全性は高まる、といった結果になった。
当然その結果にククルカンがアーシュの脚に縋り付きながら更にむせび泣きながら感謝していたので、当然のようにまた蹴られて踏まれていたがな!
『ほらイツキ、帰るぞ!起きたらお前がどこにもいなくて、子供達が泣きわめいていたからな!』
「え、えええっ!アーシュ、先にそれを言ってくれよ!急いで戻らないと!じゃあ、また来ますので!卵もまたな。頑張って生まれて来るんだぞ!」
アーシュの言葉に、そういえば子供達!と思い出し、クオンがキューンと鳴きながら俺を求めて駆け回っている姿を思い描いて、慌てて立ち上がった。
それでももう一度そっと卵を撫でながら声を掛けると、今完成したばかりの連結した空間へと向かう。
『ありがとうございます、ありがとうございます。あ、明日も、よろしくお願いします……。うううぅ』
感激して卵に縋り付いて鳴きだしたククルカンの声にはもうアーシュも俺も反応せず、心配してうろうろ俺のことを探し回る子供達の姿を想像しつつ結界の前に立った。すぐ後ろにはアーシュもついて来ている。
「アーシュ、これ、もう俺が通れるよな?聖地のどこに出るんだ?」
『通れるが、場所は世界樹の泉の傍だな。フン。お前が歩いたら時間がかかるから、行くぞ』
あっ!と思った時にはもう既にアーシュに放り投げられ、久しぶりにガシッと手に捕まえられた。
「うわぁあああっ!ア、アーシュっ!下ろす時は絶対にそっと下ろしてくれよっ!」
『わめくな、うるさい。行くぞ』
そのまま空間を抜けて聖地へ出て上空に舞い上がったアーシュから見下ろすと、すぐ近くに泉が見えた。
あ、あそこと繋がっているのか。じゃあ朝日課に来る時にアインス達に付き合って貰って最初にククルカンの卵を撫でてから日課をすれば、アインス達の訓練に支障は出ないかな。
まあ元々そのつもりでアーシュも泉の傍に繋げたんだろうけどな。そう思いつつ、初めて空から見る聖地の様子に見入りながら、上空を飛ぶアーシュよりも更に上空に広がる世界樹の枝に久しぶりにしみじみここが異世界だな、と実感したのだった。
『イツキ!キャウ、キューンッ!お、起きたらイツキ、いなくて、心配してずっと探してたのっ!!』
しんみりと聖地を上空から見下ろすことしばし、すぐに家へと戻って来た。
家の前の広場にアーシュに微妙な高さから無防備に落とされ、受け身をとれずに転がり打った体の痛みにすぐに起きれないでいると、広場にアーシュが戻って来たことで察したクオンが走り込んで来てドーンと背中に乗り上げてキュンキュン鳴きながらぐりぐりベロベロされた。
「ク、クオン、心配してくれてありがとうな。俺は大丈夫だから、ほら、落ち着いて……」
痛みは遠のいたが、今度は背中に重量が増したクオンに乗られて内蔵が圧迫された苦しさから、なんとか声を絞り出した。でも興奮したクオンは当然落ち着く筈もなく、そのままぐりぐりベロベロされた。
そうしているうちに他の子供達も駆けつけ、次々に「心配した」と声を掛けられながらベロベロされ。
ちょっ、ちょっと待ってくれ皆っ!そんなにベロベロされたら目も口も開けられないし、うわっ、誰だ背中に乗ったのはっ……っ!!
結局 子供達の圧迫感とベロベロ攻撃に何も言えずにそのまま悶絶していると、更に心配した子供達に身を乗り出され、結局ドライにぺいっと襟首を嘴で持ち上げられるまで起き上がれなかったのだった。
なんとか子供達をなだめ、迎えにきた親御さんにも事情を話しつつ子供達を見送るまで倒れずにいられたことに、少しだけ安堵したのだった。
『イツキ、いなくならない?ちゃんと明日来たらいる?』
って何度も何度もクオンに聞かれて、後ろを振り返り振り返り去っていく姿がかわいすぎてジーンと来てしまったがな!
『ねえ、イツキ。見送りまで倒れなかったのはまあ頑張ったと思うけどさ。さすがにもうちょっと体力とか警戒心とか色々つけないと、子供達がもっと大きくなったら大変じゃないの?居眠りしたまま運ばれるとか、ちょっと信じられなかったんだけど』
最後の子供を見送った後、その場に崩れ落ちて倒れた俺をドライに呆れながらつつかれても、もうすぐには起き上がれそうになく、ぐったりと横たわる。
「ううう……。確かに、さすがに今回は俺も少しは考えなきゃって思ったけど、少し訓練したくらいですぐに筋肉や警戒心なんかつかない気が……」
そろそろクオンを一時的にでも抱っこするのも限界に近づいて来ていて、真面目にもう少しは鍛えないとダメか、とか考えてはいたのだ。クオンを抱っこ出来なくなるだなんて、想像したくもないからな!
それでも今回のような場合、少し鍛えたくらいで防げる自分のビジョンがなかった。
この世界に来てからどこへ移動するにも歩きだから、体力だけはかなりついたと思っていたんだけどなぁ……。でも、子供達の動きについていけてないから、まだまだ体力もつけないとダメかな……。
『まあ、こことか聖地に入れるってだけで、相手は限られるからイツキが害されるとか僕は心配していなかったけどさぁ。もう、子供達が大騒ぎで大変だったんだけど』
「そうはいっても俺だって気づいた時には目の前でククルカンがさめざめ泣いてて驚いたんだって。ああ、そうだ。明日から訓練の前に聖地からククルカンの所へ行くの、誰か一人付き合ってくれな。アーシュがつけた条件が、アインス達の誰かと一緒に、だったからさ」
『もうイツキは……』
呆れたドライにずけずけ言われ、アインスとツヴァイには「腹減った!!」と言われて嘴で摘まみあげられて台所まで運ばれ、なんとか夕食の肉を焼いて出した後はすぐに部屋へ入って寝てしまったのだった。
今日は子供達には心配を掛けてしまったけど、皆あれだけ取り乱すほどに俺のことを心配してくれたんだな。……ふふふ。なんだかここは託児所か保育園かって感じだけど、でもなんだか、大家族に迎え入れて貰ったみたいだな。
そう思うと皆が心配してくれたのに不謹慎だがこの家が自分の帰る場所だ、と思えて心が温かくてうれしくて、つい口元が緩んでしまったのだった。
*****
すいません。まだ力尽きてて文章が全然纏まりませんでした……。
更新を見合わすか迷ったのですが、そのまま更新しておきます。
子供達の心配した様子などはまた次回書けたら(多分)
次は日曜更新予定です。少しゆっくりして英気を養いたいと思います。
よろしくお願いします<(_ _)>
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