第97話 嵐の終焉(もふもふパニック)
あの傍若無人な子ウサギ達を集めて頭を下げさせたユーラの「めっーーっ!!」に、俺は心の中で滂沱の涙を流して拍手喝采を送っていた。
それは他の子供達も同じだったようで、あのシュウでさえユーラをキラキラした瞳で見つめていたほどだ。
さすがに縦横無尽に飛び跳ね回っていた子ウサギ達も、幼くても世界樹の守り人であるユーラの言葉には従い、それからはユーラが仁王立ちでの監視の元、子供達のいうことも聞いてくれて遊んでいた。
ただ畑の新芽や森の境の草などを好き放題食べたからか、それからいくらもかからずに子ウサギ達は揃ってコテンと眠りについた。
まあ、子ウサギ達も興奮状態だったんだろうな……。いつもと違う場所へ行って、大人の監視がいなくなって、そりゃあ元気いっぱい、いや元気過ぎる子ウサギ達がはしゃがない訳はないよな。そうは納得はしても、食べられてしまった新芽は……。ちょっとスプライト達に相談して魔法を掛けてみようかな。
子ウサギ達は起こさないようにそーっと家の中へと運んで毛布の上に寝せ、他の子供達も子ウサギ達を追い回して疲れ果てたのかお昼を食べる気力ももたなかったのか寝てしまったのを見届け、この場をユーラとキキリに頼んで外に出る。
『おーーー。やっと寝てくれたなーーーー』
『ユーラ、凄かったな!俺らじゃあのウサギ達は小さくて、どうにも出来なかったしな!!』
「……他の子供達がバタバタ子ウサギ達に対応してくれていたのに、お前達はほとんど何もしていなかったじゃないか!」
そう、アインス達も一緒に戻っては来ていたのだが、抑えようにも子ウサギ達が小さすぎて足元を抜けられ、羽で行く手を阻もうとすれば飛び跳ねて逃げられていたのだ。
確かに立ち上がると三メートルはあるアインス達が三十センチもない子ウサギ達を捕まえるのは大変かな、とは思うけど、それでも畑へ入る子ウサギ達の阻止くらいはして欲しかった。
『いうことを聞いてくれるなら面倒もみれますが、いうことは全く聞かずに走り回っている上にあんな小さいのでは僕達が対応するのは無理ですよ』
ケット・シーやクー・シーの子猫子犬達も同じ大きさだが、確かに俺達のいうことは聞いてくれるし、ドライ達の背中に乗せても大人しくしてくれている。
あの元気すぎる子ウサギ達をアインス達が止める方法か……。脚で抑えるには暴れたら爪が刺さって危ないし、羽で捕まえるにも、するっと落っこちそうではあるけど。そうだな……絵面は悪いけど、嘴で猫の子のように首をつまむのは……ウサギは伸びないから無理か。
日本で見た猫のどれだけ伸びるかの映像を思い出し、ちょっとだけすさんだ心が和んだが、それでも疲れすぎていて完全には怒りは解けなかった。なので。
「でも、どうにかして畑に入るのを阻止くらいはしてくれても良かっただろ!ご飯は畑をどうにかしてからだからな!」
『『ええーーー!お腹減ってるのに!』』
ドライが本気でどうにかしようとすれば、もう少しやりようがあったんじゃないか、と思っているからな!
「スプライト達、どうかな?まだ魔法かけたら芽が出てくれるかな?」
畑でしゃがんで食べられた芽を見ていたスプライト達に声を掛けると、大丈夫!と頷いてくれる子と、しょぼんと頭を下げた子がいた。
まだ大丈夫な芽と、ダメになってしまった芽があるのだろうな。
「まあ、残念だけど……かなり残念だけど仕方ないか。じゃあ畑に一度ずつ魔法を掛けるよ。重点的に魔法が必要な芽があったら教えてくれな」
おー!と片手をあげてくれたスプライト達に応えて俺も「おー!」と手を挙げて気合を入れ、目の前の畑に手をつき、どうかまた芽が出ますように、と祈りつつ魔力を注いだのだった。
結局全ての畑に魔法を掛け、まだギリギリ助かりそうな芽に更に魔法を掛けて回り、なんとか8割の芽が新しい小さな新芽を出してくれた。
ふう……。シンクさんが持って来てくれた種はそれ程ないから、8割だけでも助かって良かったな。これが待ち望んでいる玉ねぎとか人参、キャベツに似た野菜の種だったりしたら、ほぼ全滅していたらちょっと子ウサギ達を恨んでしまったかもしれない。
去年持って来てくれた野菜の種は、なんとか種をとって今年も撒いている。ただケット・シーの集落で付き合いのあった人の集落が、オズを預かった時に聞いた通り戦乱に巻き込まれて離散してしまったので、これからは野菜の種が手に入るか分からない状況なのだ。だから大切に今年は育てよう!と思っていた時だった為に、子供達も畑に子ウサギ達が入らないように頑張ってくれたのだ。
まあ、なんというか、子ウサギ達は春の嵐みたいなものだよな……。もう、自然災害と思って諦めるしかないか。
フウ、とため息をついて気を取り直してから、スプライト達とノーム達に手伝って貰いながら子ウサギ達に荒らされてしまった畑の世話を終わらせると、さすがにかなり空腹を感じた。
日課に行く途中で遭遇してしまったので、日課はなんとか終わらせたが俺も子供達もお昼ご飯を食べる隙はあの騒動で全くなかったのだ。
「さて、もう夕食に近くなっちゃったけど、ご飯の用意をするか」
『おおーーー!お腹減ったぞーーーー!』
『もう獲物を獲って来て自分で食べようかと思ったぞ!!』
最近ではアインス達は飛行訓練をしながら魔物の間引き訓練もアーシュと一緒に始めており、自分で獲った獲物を自分たちで炙って食べていることもあり、毎日昼食を食べに戻って来てはいない。
肉の焼き加減を教えてくれ、ってドライに言われた時はビックリしたけどな。まあ獲物の解体も俺と一緒にやっているから、脚の爪で器用に肉を切り分けられるんだよな。だからある程度の大きさの塊肉を炙って食べる火加減を、何度か検証に付き合うことになったけどさ。
「そう思うなら手伝ってくれよ。ああ、そうだ。今から肉を焼くから井戸のウィンディーネに頼んで一緒に畑に水撒きをしておいてくれ」
『……水を使う訓練にもなるから、それくらいはしますか。アインス、ツヴァイ、手分けしてやりますよ』
『『えーーーー。分かったよ』』
もう怒りは収まったが、八つ当たりでもそのくらいは手伝って貰わないとな!
じっとりとした視線でアインスとツヴァイを追い払うと、自分用のスープの下準備をしながら肉を焼き出したのだった。
水やりを終わらせ、お腹減った!と騒ぐアインス達に肉を食べさせ、自分も軽くスープと焼き肉を食べると、交代がてらキキリに食事を持って部屋へ入ると、ちょうと寝起きでしょぼしょぼした目つきで顔を上げたクオンと目があった。
『あっ!イツ……』
「しーーーーーーーーーっ!!」
慌てて身振りで子ウサギ達が眠っていることを訴えると、クオンもハッとしたのか、慌てて両前脚で口を押えていた。
な、なにそれっ!!クオンってばかわい過ぎるんですけどっ!!
画面として見れば35人も子ウサギ達が眠っているのは十分すぎる程に癒しとなる筈なのだが、先ほどまでの元気っぷりを身をもって体感している身としては、癒しではなくある意味恐怖の図でもある。なんといっても、起こしてしまったら、またさっきのように奔放に飛び跳ねられてはたまらない。
そんなクオンの気配を察したのか他の子供達が次々と起き出し、「しーーー!」と押さえられる、というかわいい場面を何度か繰り返し、子ウサギ達以外の子供達が全員起きると、後をユーラとキキリに頼んでそーーーっと抜け出したのだった。
因みにさっきあまり役に立たなかった罰として、アインス達には扉の前に陣取って、子ウサギ達の監視と脱走を防ぐ役をして貰ったぞ!
それからはもうすぐお迎えの時間になってしまうが、子供達に預かっていた昼食を出して食べ、まったりとくつろいでいるとアーシュと連れ立ってアルミラージの長と何人かのアルミラージがやって来た。
俺たちのげっそりとした視線に。
『すいません、すいません、すいませんでしたーーーーっ!!』
と、それはもうペコペコとアルミラージ一同で謝り倒し、話し合いの結果、ここには長の子の三つ子のアルミラージだけが預けられることになった。
ただしアルミラージの守護地から聖地までの結界を見直すことになるので、それが終わるまでは三つ子も受け付けない!とアーシュが宣言し、無事に起き出した子ウサギ達を全員連れて戻って行った。
ただしその時の子ウサギ達の大人しさに驚いた長たちに、結局子ウサギ達のここでのふるまいやユーラの雄姿を語ることになり、アルミラージの大人達はユーラに文字通り這いつくばって謝り倒していた。
その時、ユーラは。
「うー、めっ!」
と、うるさいのはダメ!とまた仁王立ちで宣言していたぞ。
とりあえずアルミラージの結界が整うまで、つかの間の平穏が戻って来ることになったのだった。
****
お待たせしましたーーーー!バタバタしていたので、結局一週間ぶりとなってしまいました。
のんびりお待ちいただけるとうれしいです。
今回でやっともふもふパニックひと段落です。
春はもうちょっとドタバタが続きます。
どうぞよろしくお願いします<(_ _)>
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