第96話 春の嵐(もふもふパニック)
右を見ても、左を見ても子ウサギがぴょんぴょん跳ねている。
つい先ほど聖地でもそんな光景を見たばかりなのに、今度は自宅前の広場や畑の中を我が物顔であちこち跳ねまわる子ウサギをぐったりとした眼差しで眺めている。
今日の夕方まで、と預かったアルミラージの子ウサギ達、計35人は、あのシュウが逃げ出したくらいにはわんぱくだった。
普段大勢の子供と接し慣れていない他の神獣、幻獣の子供達も奮闘してくれているし、ケット・シーとクー・シーの子供達は集団には慣れていても子ウサギ達の勢いにはついて行けていなかった。
春になって新芽が顔を出していた畑を子ウサギ達に荒らされても、もう注意して追い出すだけの体力は底をついていた。
……まさしくこれが子供戦争、ってヤツなのか?保育士を、今なら心から尊敬出来るな……。
小さくても神獣の子供達なので、こちらの言葉を理解している筈なのだが、何度「お願いだから畑の新芽を食べないでくれ!」と言ってもいうことを聞いてくれたのはその時だけで、振り返るともう食べている子がいた。
もう、どうしたらいいんだ……。ウサギは寂しいと死ぬ、なんて嘘だよな。あれはまさに都市伝説だ!ストレスに弱い、とはテレビで聞いたことはあったけど、親と離されてストレスとかは関係ないよな。だってこの子達、自分で聖地へ付いてきちゃったんだもんな……。
『こらーーーーーっ!畑の新芽は食べちゃダメ!ってさっきからイツキが言っているのに!食べちゃダメなの!』
『ぷぅ……ぐぅ!!』
『ぐぅぐぅ』
『ぷぅーーーーー』
『こらそっちは』『森へ入ってはダメだ』
『ピィ……。だめ、だめ、そっち行かないでーーーーーっ!!』
クオンもみんなもいい子だな……。クー・シーの子供達が子ウサギ達を追いかけっこに誘ってくれてたけど、やっぱりウサギは足が速いから結局あっちこっちに散っちゃったし。ケット・シーの子達がライの指示の元回収しようとしてくれているけど、どうしてこの子達はこんなに聞いてくれないのか……。
『あー!ダメ、ダメだよ!そっち、行かないで!』
『セラン、そんなに慌てたら子ウサギを踏みつけてしまうぞ……。ハア……』
あー、セランもフェイもありがとうな……。体が大きいから、小さな子ウサギを静止するのも大変だって分かっているからな!
シュウの時よりも繰り広げられる大騒動に、このまま倒れてしまいたい気分になってしまった。
「うー?」
「お、ユーラ、オズは大丈夫そうか?この大騒ぎだからな……。本当にどうしたら」
「うー……うさ、だーー!うさ!」
家の前で座り込み、がっくり項垂れていると、オズの様子を見に行ってくれていたユーラが部屋から出て、ゆっくりと階段を下りてきた。
雪ウサギ達が去ってから格段にしっかりと成長したユーラは、もう階段も一人で危なげなく上り下り出来るようになっている。たださすがに口はまだ回らないのか、舌足らずながら「う」以外の言葉を少しずつ発音出来るようになった。
「ん?もしかしてユーラも注意してくれるのか?」
ユーラは小さいながら世界樹の守り人だ。はっきりと聞いたことはないが、精霊達のユーラへの敬意を見ていると神獣、幻獣と同等か世界樹に次にこの世界では立場が上なのだと思う。だから本来ならユーラの言葉は、神獣であるアルミラージの子が聞かない筈はないのだが。
……この子達、人の話聞いてないからな。ユーラのその好意はとてもうれしいんだけど、今回ばかりは勝手が違うかもな。
これまではユーラが出れば大抵のことはほどほどで収まって来た。あのシュウでさえ、ユーラには最初から気を使っていたのだ。
「ありがとうな。でも、ほら、今回は人数が多いからな……」
『もう、畑入っちゃダメって言っているのーーーーーっ!!』
『あっ!そっちは、森に出ちゃう!ピィッ!ダメ、ダメだよーーー!』
『あっ、逃げる』『そちらに行くな』
『ダメ、ダメ、ダメだよーー……』
『……ハア』
うん。ほら、クオン達のあの健闘具合を考えても、ユーラの言葉が届く範囲に子ウサギ達を集めるのさえ、どれだけの労力がいることか……。
ふう……。大きなため息を一つつくと、疲れ果てた体に活をいれ、気合で立ち上がる。子供達が頑張ってくれているんだ。俺ももうひと頑張りしないとな!
「ユーラ、俺も行ってくるよ。皆バタバタしているから、キキリと一緒にオズのところに居てくれな」
「うー……。ううん!」
へ?ううん?うん、じゃなくて、イヤ、ってことか?
俺がユーラの言葉に目を丸くしていると、ずんずんとユーラが広場の中央に歩いて行ってしまった。
「ユ、ユーラ?」
「ううーーーーーーーーーっ!うさ、めっ!!」
そうして広場の中央で仁王立ちになると、これまで聞いたことのない程の大声で叫んだのだ。
その瞬間、あれだけこちらの言うことを聞かずにあちこち飛び跳ねていた子ウサギ達が、ピタリ、と止まった。
まるでゼンマイ仕掛けのおもちゃが、ゼンマイが切れて止まったかのように一斉に身動きを止めた子ウサギ達に、俺もクオンや子供達も目を丸くして止まった。
そして静まり返った広場に、ユーラの身じろぎの音だけが響くと。
「めーーーっ!うさ!めっ!」
フンッと腰に手を当ててびしりと指を掲げたユーラが、この時はとても大きく、それこそアーシュくらいに大きく見えた。
ユーラの言葉に硬直したように固まった子ウサギ達は少しすると動き出したが、おずおずとそれまでの動きからは考えられない程にゆっくりとユーラの前に集まり出し、全員子ウサギ達が揃ったところであの子ウサギ達がユーラに頭を下げたのだった。
ユーラ、最強では。……この時から、ユーラの最強伝説は始まったのだった。
そんなテロップが頭の中を流れていったのだった。
*****
すいません、短いですがちょっとバタバタして時間がないので今回はここまでです。
もうちょっと進める予定だったのですが……
もう少しもふもふパニックです( ´艸`)
次回は日曜予定ですが、月曜になる可能性が高いです。
フォロー、☆♡をありがとうございます!励みになります!
申し訳ありませんがコメントへの返信、誤字報告は時間がとれないので対応が出来ていません。すみませんがよろしくお願いします。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます