第95話 春の嵐の到来
一面に真っ白な花が咲き乱れる花畑の中を、小さな薄い黄色のウサギがあちこちでぴょんぴょん飛び跳ね、遊びまわっている。
右を見ても子ウサギが、左を見ても子ウサギが跳ねる。一見そんなのどかな光景に和みそうになるが、これは異常事態だ!と気を引き締め、逃避に走りそうになる心を沈めて前を見ると。
『みぎゃっ!ぶみゃうぅーーーーー!』
『ぷぅぷぅーーー』『ぷぅ?』『ぷっ!』
『ぶみーーーーーーーっ!!』
シュウが纏わりつく子ウサギを振り切ろうと立ち上がると、すぐに何匹もの子ウサギが群がって倒される。それを何度となく繰り返しており、切れたシュウが叫び声を上げた。
「あっ!シュウ、シルフ、ダメだぞ!どう見ても神獣か幻獣の子供たちだろう?手荒なことをしちゃダメだからな!」
シュウの叫び声に周囲のシルフが集まって来たのを感じ、大慌てで静止の声を上げた。
最近のシュウは、シルフと竜巻を起こすことが出来るようになっているので、そんなものをこの場所で出されたら花畑も大惨事になりかねないのだ。
『みぎゃう、ふんぎゃーーーっ!!』
だったらどうにかして!と言わんばかりの声に、シュウの体に群がる子ウサギ達をどうにかしようと近寄る。
「ごめんな、ちょっとどいてなー」
そっと子ウサギを持ち上げると、きょとんとした目をしている姿がかわいいが、今はほわほわの温もりにうつつを抜かしている場合ではない、と次の子に手をかける。
腕の中の子ウサギが五匹まで増えたところでシュウが子ウサギアタックから無事に抜け出し、脱兎のごとく走って逃げだした。
「あっ、シュウ!ちょっとどこ行くんだよ!!セランとフェイがケット・シーとクー・シーの子供達と一緒に待っているから、そっちに……って、止まれ、シュウ!子ウサギがシュウを追っかけているから!ここから連れ出したら、どこに行っちゃうか分からないから、この周辺にいて!」
『ぶみゃーーっ!』
あのシュウでも苦手に感じることもあるのか、なんて思っていたら、シュウを追いかけて子ウサギが何匹も走り出したのだ。しかも風を纏うシュウほどではないが、体の大きさから考えられない程に足が速い。
ウサギはダッシュ力が凄いんだったっけ。でも、本当に何匹いるんだ?
いきなり聖地に居たのはシュウもハーツもだったが、それぞれ一人ずつだったからすぐに確保も出来たが、これだけ大勢で脱走は考えずらい。なら一緒に来た保護者がいる筈だ、と五匹の子ウサギを抱っこしたまま周囲を探していると。
『ピィ!イツキ、見つけた!あっちに大きなウサギ、いるよ!』
「お、ライ、ありがとう。じゃあ向かうから案内してくれな」
最初に見つけたのは、今回もライだった。空からライに案内されて、そのまま保護者だろうアルミラージの元へと向かってあちこちで遊ぶ子ウサギ達の姿を見ながら歩き出した。
『い、いやぁ、すいません。いきなり大勢で押しかけてしまいまして。すいません。すいません』
ライの案内で歩いて行くと、花畑の境辺りで右往左往する一メートルほどの大きな金色の毛並みのウサギの姿を発見した。
そこで俺の腕の中の子ウサギを見るや、平身低頭で謝って来たのだ。
「え、ええと……。神獣か幻獣の方、ですよね?」
『は、はい!我らは神獣アルミラージ、です!その、あの、大勢ですいません!すいません!』
やっぱりアルミラージだったか。まあ俺の認識でそう翻訳されているんだろうけど。
でも、どうしようかな……。他の子ウサギ達がどこか行ってしまわないうちに、集めないとまずいよな?
「ええと、とりあえず子ウサギ達を集めませんか?あっちの方にもまだたくさんいたのですが」
『は、はいぃいいいいっ!た、ただいま、ただいま集めますので!ほ、ほら皆!こっちに集合して!お願いだから!』
平身低頭だったアルミラージは俺の言葉にビクンッと一度震えて飛び上がると、今度は慌てて右往左往してあちこちで跳ねている子ウサギ達を集めようとしだしたが、子ウサギ達は全く気にせず我が道を行く、とばかりにあちこちうろついているだけだった。
え、ええと、これはどうしたらいいんだ?とりあえずライにどのくらいの範囲に子ウサギ達が散らばっているのか確認して貰って、それからどうしたらいいかな……。
腕の中の子ウサギ達はいつの間にか寝ていて静かにしているが、これ以上抱えるのは無理だ。なら、どうやって集めておけばいいのか、見当もつかない。
「と、とりあえずライ、どのくらいの範囲に散ってしまっているか、確認して来てくれるか?それでアルミラージさん。子ウサギ達は、何人くらい連れて来たのですか?」
『すいません、すいませんっ!ええと、その、我ら一族で暮らしてまして、ね。それで、その、なんというか、あの、すいません、すいませんっ!』
ただ子ウサギ達の人数を聞いただけなのに、何故か顔色を青ざめて土下座の勢いで謝り出したアルミラージに、これはどうしたらいいんだ?とロトムとクオンに目を向けると。
『むう、イツキ、いつまでその子達抱っこしているの?クオンも抱っこして欲しいのに!』
「いやいやクオン、今はそんなこと言っている場合じゃないだろう?」
『クオン、わがまま、ダメだ』『そうだ、今はそんな場合じゃない』
ええーーー!とすねて飛び跳ねるクオンをなだめながらどうしたものか?と思っていると、ライが戻って来た。
『見て、来た、よ!数、分からなかった、けど、ここら辺から、いつも聖地へ行っている道まで、あちこちに、いたよ!』
「え?あちこちに、いた、のか?」
『ピィッ!うん、黄色、目立つから間違い、ない、よ!』
えええええぇっ!ここからいつもの道まで、ってかなり範囲が広いよな!まさかさっきのシュウがいた場所みたいに全範囲で集団でいる、ってことはなさそうだけど、ここだって見える範囲でさえ七匹くらいいるよな?
これ、どうするんだ?と途方にくれていると、そこに空から救世主が舞い降りて来た。
『おい、アルミラージ。これはどういうことだ?ここで子供を預かるのはいい、とは言ったが、同一種族では同時に生まれた兄弟まで、とここで取り決めしただろう。なんでこんなに連れて来ているんだ』
『すいません、すいませんっ!』
『謝ってないで、いい加減、ちゃんと説明しろ!』
聖地で何かを感じたのかアーシュが飛行訓練をしていたアインス達も一緒に来てくれたのだが、アルミラージが謝るばかりで話が進まず、とりあえず子ウサギ達を集めて一度家へと戻ることになった。
子ウサギ達の確保にはアインス達の協力の元、大きな箱に詰めていく、という非常手段をとったのだが、どんどん確保して入れて行くのにまだいる!という驚きの連続で、結局総勢なんと35人もの子ウサギがいたのだ。
確かにウサギって安産のイメージがあるけど、それにしたって神獣なのに一度に35人もの子供が生まれるって……。一族って言ってたけど、一体何人の一族なんだ?
それからケット・シー、クー・シーの子供達も子ウサギまみれになって家の敷地から出ないように奮闘しつつアーシュが聞き出した事情は。
アルミラージの一族は元々多産で数が多い。でも最近では生まれても成獣することはなく、守護地の近辺に生まれた子供達が溢れかえり、精霊を保護する守護地なのに植物が食べつくされる勢いでなくなってしまい、さすがにこれはまずい!と子作りを禁止にしていた。
なんかこの時点で、もう何も言えなくなっちゃっていたよ。えええ……。守護地なら恐らく人が立ち入れない奥地の筈なのに、自然が食い尽くされる心配までって……。そういえばうさぎは増えすぎて自然破壊になる、ってうさぎの飼育を禁止にしていた国があるってニュースで聞いたような?
そこに俺がこの世界に来て、子供達が成獣しないで後継者で困っていた神獣、幻獣の子供達を預かる、となって、アルミラージも子供を作って預けよう、となった。でもアーシュが言ったように神獣、幻獣できちんと預ける人数の取り決めがあったので、長の自分かそれに準じる人に子供を、となった時に、それまで抑えこまれていた一族が暴走してしまい、子供が35人も生まれてしまった、という。
『それでもここに全員連れて来ることはないだろうが。ここで預かるにも限界があるんだ。兄弟までなら認めるが、それ以外は認められないぞ』
『すいません、すいませんっ!そ、その、私の子供だけ連れて来ようとしたのですが……』
気づいたら子供達が一緒について来てしまっていた、ということだった。しかも、守護地でも久しぶりに子供が、しかも35人も生まれたことからパニックになってしまい、ずっと大人達は右往左往しているそうで、このままだといつの間にか聖地への結界に入り込む子供が出る可能性が高いらしい。
『そんなのこちらは関係ない。アルミラージ、お前な。仮にも神獣で守護地を預かる者なら、しっかり統率しなくてどうする!結界をお前とお前の子供以外に通れないように調整しろ!』
『すいません、すいませんっ!が、頑張って調整できるようにしますので!お、お願いですから!』
一族に説明し、説得する間、今日一日だけでも子ウサギ達を全員預かって欲しい、と平身低頭で謝りながらお願いされ、結局アーシュが折れ、夕方まで35人の子ウサギ達を預かることになったのだが。
ちょ、ちょっとアーシュ!なに飛んでいっちゃってんだよ!そりゃあアインス達を残してくれたのは助かるが、あのシュウでさえ逃げる子ウサギ達を夕方までみているなんて、どうしたらいいんだよっ!!
……結局なんとか日課に抜け出して行った以外、てんやわんやのもふもふパニックな一日を過ごすことになったのだった。
*****
文章が進まず遅くなりましたーーーー!
気温差にまたやられてます……。もう、季節の変わり目は弱いので、さっさと終わって欲しいです。
ということでもふもふパニックです。
詳細はちらっと次回に( ´艸`)
次は水曜日予定ですが、もしかしたら遅れるかもしれません。
のんびりお待ちいただけるとうれしいです。
どうぞよろしくお願いします<(_ _)>
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