第94話 春と騒乱の訪れ
雪ウサギ達に続いてハーツとララが帰ると、本格的に春へと加速した。
日陰に残っていた雪も消え、大きなかまくらも天井が溶けて落ち、あと十日もしない内に全て溶けてなくなるだろう。
そんな中、子供達はまた全員がそろうようになり、しっかり歩けるようになったユーラも加わって毎日賑やかに遊んでいる。
たまに冷え込んで雪がちらつく時もあるが、もうこれからは温かくなる一方だろう。
この世界に来て丸二年、か……。早かったな。子供達がかわいすぎて毎日充実しているから、もうほとんど日本でのことを思い出すこともなくなったしな。
料理を作る時には日本での料理が食べたいと思い出す時は多いが、それ以外ではほとんど思い出すことはなかった。
胡椒は見つけたし、トマトっぽい野菜もシンクさんが見つけて来てくれたし。あとは卵と牛乳は無理でもミルクが手に入るようになれば、また更に食生活も充実するんだが。あと、当然ながらお米だな!お米をなんとしても見つけたいんだけどなー。
新たな子供達が来るたびに、周囲に小麦のような見た目の植物はないか、と尋ねているのだが、今のところ誰からも見かけた、という報告はなかった。その変わりに最近では現地で採れる果物を、現地の精霊達に手伝って貰い袋に入れて大量に持って来てくれることがあって、果物の種類は増えたのでその点では大満足だ。
去年は物思いにふけったものだが、日本で死んで二年、とは思っても今の充実した暮らしにすっかり馴染んだことの方が嬉しいと感じた自分に、時の流れを感じたのだった。
『おはよう、イツキーーーー!』
「お、クオン、おはよう。今日も元気だな」
朝食を食べていると広場から叫びつついつものように腕の中に飛び込んで来たクオンを抱きしめ、ペロペロ顔を舐められるままにもっふもふな毛並みを撫でる。パタパタと腕に当たる尻尾のみっちりとしたもこもこな感触に顔が蕩けそうになるが我慢だ。
クオンにデレデレしていると、またドライに冷たい目で見られちゃうからな!最近またドライの毒舌に磨きがかかったよな……。腹黒くてツンデレでもいいけど、たまには俺にももっとデレて優しくして欲しいな。
内心そんなことを思ってしまったのは、ドライには内緒だ。
ちらっとドライの方を横目で見ると、呆れた目で見られた気がしたけど、気のせいったら気のせいなのだ!
そのままひとしきりクオンと戯れ、朝食と食べて片付けが終わる頃にはアインス達は訓練に行っていないが子供達は全員揃っていた。
「じゃあそろそろ日課に……って、あれ?シュウはどこに行った?」
冬の間はハーツと一緒に駆けまわっていたが、ハーツが帰ってしまってからは少しだけ元気がないように見えて、気を付けていたのだが。
ケット・シーやクー・シーの子供達に混じっていないか確認しても、やはりシュウだけ姿がなかった。
『さっき、聖地の方へ走っていたな』『凄い勢いで走ってった』
ロトムの言葉に他の子供達に確認すると、他に見かけた人が誰もいなかったのでとりあえず聖地の方へ向かいながらシュウの名を呼びながら歩いて行くことにした。
「シュウーー!日課行くぞーー!……うーん、いないな。聖地へ入ったのか?最近はシュウも落ち着いていたんだけどな……」
預けられた当初はとにかく神出鬼没で、捕まえた!と思ったらいつの間にかいなくなっている常習犯だった。それから時間を掛けて少しずつ暴走が減り、他の子供達の様子を伺うようになり、オズが来た頃には誰かと一緒に走っていたり、見える場所以外には一人で行かなくなっていたのだ。
やっぱり最近ずっと一緒だったハーツが居なくなったから、ストレスが溜まって走り出しちゃったのかな?まあ多分その内戻って来るとは思うけど、心配だよな……。
シュウの母親にも、どうしても見つからない時は放っておいてもいい、と了承は得ていても、姿が見えないとやはり気がかりだ。
そのまま子供達と声を掛けながら歩き、聖地まで来ると。
『みぎゃうみぎゃ!みゃうぅーーーっ!!』
「シュウの声だ。シュウ!どうしたんだ!どこにいるのか、返事をしてくれ!」
花畑の入り口に入ったところで、シュウの怒った声が聞こえて来た。慌てて周囲を見回しつつ声をあげると。
『みぎゃう!』
いつもの泉への道のりよりも大分右側から、シュウの返事のような叫び声が返って来た。
「シュウ、なんで怒っているのか分かるか?」
『なんだか、あっちへ行け!とか』『こっちへ来るな!とか言ってる』
『なんかざわざわしているから、たくさんいるよ?』
ロトムとクオンの返事に、この聖地にどうやら誰かがいるようだと確信する。
ここに入れるなら、神獣か幻獣本人か、許可を貰った精霊達くらいだよな?シュウがあんな声を出しているなんてどうしたんだろう?
『ピュイッ!なんだか、小さい気配、たくさんです』
『そうですね。シュウより小さい気配がたくさんいますね』
え?シュウより小さい、って、シュウだって中型犬くらいだし、もしかして子供なのか?
シュウは足も太いが預かるようになってからそれ程大きくは成長していない。そのシュウより小さい、ってことは小型犬か子犬子猫サイズってことになる。そうなるとどの種族でも子供しか考えられないのだが。
ライとフェイの言葉にそう考えつつ、最近アーシュと交わした言葉を思い返してみても、アーシュからは何も聞いた覚えはなかった。
「でも、そんな大勢で預けに来る、って話は聞いてないけどな……。ケット・シーとかクー・シーとか、同じような精霊の子達かな?」
神獣や幻獣は、自分だけで守護地を守っている種族と、一族で守っている種族が存在している。一族で守っていても、その一族は神獣、幻獣を名乗るだけに成獣はしている。なので一族とはいえ個体数としては多くても十人前後という話はクオンから聞いていた。
因みにアーシュのフェニックス、オルトロス、フェンリルは一人だけの種族で、他の子供達は一族で守護地を守っている種族だ。
精霊は一族で纏まって集落を作っていて、神獣や幻獣よりも出生率は高めだった。だから子供がたくさん、となると断然可能性が高いのは精霊となるのだが。
でも、精霊は守護地の神獣か幻獣の許可を得ないと勝手に聖地へは入れないはずなんだよな。一体、どういうことなんだろうな?
シュウの声の方にとりあえず小さな子供達をフェイとセランに任せて歩いていると、最初に気がついたのは空を飛ぶライだった。
『あっ、見えた、よ。なんか、シュウが、黄色の毛並みの子達に埋もれている?よ』
「えっ!あのシュウが、埋もれているのか?」
シュウはケット・シーの子供達にもよくかまって!と追いかけられているが、捕まることなくいつも走って逃げている。そのシュウが埋もれている?どんな種族の子供なんだ?
のんびりと歩いていたが、慌てて隣を歩いているユーラを抱っこして速足で向かって行くと、見えて来たのは。
「ええっ!雪ウサギ達じゃない、黄色の毛並みに額に角、ってことは、アルミラージの子供達、か?」
そう、白い花畑をあちこち走り回る、薄い黄色の毛並みのたくさんの小さなウサギの姿があったのだった。
****
今回は少なめですが、切りがいいのでここで。
雪ウサギを出したのでどうしようかな?とも思ったのですが、春、多産=ウサギ、と思いついてしまったので。
子羊も子ヤギもどうか、と考えたのですが、今回はウサギで!
もふもふパニックです( ´艸`)
次の更新は日曜予定です。
また急に寒くなったので、皆様もお体に気をつけてお過ごしください。
どうぞよろしくお願いします<(_ _)>
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