第93話 雪解けと別れ

「ユーラ、ユーラの背が少し伸びているっ!!」


 雪ウサギとユーラとカーバンクルの発光、そしてユーラの成長の兆し、と盛りだくさんの吹雪の合間の日課の翌日、またもや朝から叫ぶ羽目になっていた。


 あの光る世界樹の雫をユーラが飲んだ時に、そりゃあなんとなく予感はしてたよ?でも、背筋を伸ばして立って歩いたユーラの成長に驚いたけど、身長までは伸びてなかったことに安心していたというのに。


『もう、イツキ。朝からうるさいよ。ユーラの成長なんて、昨日のアレを見たら予想出来たでしょ?それに身長が伸びたっていったって、ほんのちょっとじゃないか』

『そうだよなーーー。言われてよく見ないと、気づかなかったぞーーー!』

『小さいことを気にしすぎだよな、イツキは』


 っておい!ドライにアインスにツヴァイ。そりゃあお前たちからしたら、約五センチくらい身長が伸びたって誤差だろうけどさ!人からしたら成長期だって一夜では伸びないからなっ!!


 そう、歩き出した二歳半から三歳くらいの見た目だったユーラは、まっすぐ立って身長が伸びたことで子供特有のむくむくした質感はほぼ無くなったことで、一晩で一気に四歳児ほどの体つきになっていたのだ。顔立ちは元々あまり表情が無かったこともあり子供らしくはなかったが、頬のぷっくら感が減ったことで面差しが更に大人びて見えるようになっていた。


「う……ぅいー、う!」

「へ?……ユーラ、もしかして今、イツキうるさい、って言ったのか?」

「う!」

「ユーラ、第一声がそれって、ひどすぎだろうーーーーっ!!」


 「う」は「うるさい」の「う」って、そりゃあないだろうよーーー!

 と叫んだところでドライにうるさすぎ!と羽でベシッと叩かれ、アインスとツヴァイには肉焼け!と部屋を追い出された……。なあ、俺の扱い、なんかひどくないか?


 昨日の吹雪からは一転して晴天となり、早朝から張り切って来たクオンを思う存分抱っこして甘えて癒された俺は悪くないと思うのだ!




 結局吹雪の後は晴天が五日程続き、吹雪によって積もった雪はほぼ溶けていた。その後は雪がちらつくことはあったがほとんど積もることはなく、氷の果実を見つけることもほぼ無くなっていた。

 雪が溶けると同時にクー・シーの子供達が、そうして一昨日からはセランやフェイ、そしてケット・シーの子供達がまた来るようになり、一気に賑やかさを増していた。

 そうして吹雪の日から約半月後の今朝。


『ーー、----』

「もしかして、これでお別れなのか?」


 子供達がそろい、いつものように聖地へ向かう道へと向かって歩いていると、雪ウサギがいつものように森から跳び出て来た。

 ただいつもとは雰囲気が違い、後ろにはたくさんの雪ウサギ達を従えていた。


「うぅ……ま、た!」

『ーーーーーー、---』


 しっかりとした足取りで前へ進み出たユーラが、少しずつ発生できるようになった言葉で別れの挨拶をすると、一斉に跪くように頭を下げた。


「……また、来年、だよな?楽しい冬を、ありがとうな」


 季節の精霊が時期以外をどうしているのかは分からない。でも、もう二度と季節の精霊が姿を消す事態にはならないように、出来ることを頑張らなくては、そう思いつつ来年への希望を込めてお礼を告げた。

 子供達も並んで口々にお別れの言葉を告げると、雪ウサギ達は一塊に集まった。


『ーーーーーー、---!』


 ペコリ、と頭を下げた後、全員で一斉に跳びはねる。すると、その後を追うようにわずかに残っている雪が吹き上がって行く。


「『『『『『『『『おおーーーーーーっ!(ワゥーーーンッ!)(ニャウッ!)』』』』』』』」


 キラキラと舞い上がる雪は子供たちの背の高さを次々と越えて行き、そして俺を、最後にアインス達の背さえも越え、そしてそのまま雪ウサギ達と共に空へと消えて行った。

 そうして残ったのは、一面に広がる輝いては消えて行く氷の結晶の乱舞だけだった。


 しばらく皆でその光景を呆然と眺めた後は、興奮したまま日課へと向かった。

 聖地の花畑に差し掛かると、雪ウサギ達と風の精霊の挨拶から生まれた薄く緑に色づいた翠の花が俺たちの歩みに合わせるかのように氷の結晶を飛び散らせては消えて行く。

 そうして泉の周囲の水の精霊の挨拶から生まれた薄い青い花が散って消えて行くのを見送ると、泉のウィンディーネ達に興奮が収まらない子供達をまかせて日課を行ったのだった。




 広場からは完全に雪が消え、残すは大きなかまくらのみとなった雪ウサギ達が去った翌々日の今日、とうとう今年もハーツとのお別れの時を迎えた。昨日アーシュから、今日、フェンリルとララの母親のグーラも一緒に迎えに来ると伝言を受けたのだ。


 相変わらず前日の伝言とか!しかも午後だったし、結局ハーツとララのお別れ会も昨日の夕食を外でハーツと一緒に皆で食べることくらいしか出来なかったしなー。でも、ララも少し吹っ切れた顔をしていたし、また来てくれるよな。


 ララだけをオズとロフトの部屋へと残し、日課へと向かったあの吹雪の日以降、オズの傍に寄り添うララとシュウの姿を見かけるようになった。

 シュウは気まぐれにオズの傍にいるようだったが、ララはオズの日課の散歩後、キキリと交代で付き添っていたのだ。


 そのことについてララに尋ねると。


『あの方は、その、心に虚無を宿していますが、まだ完全に闇に囚われている、という訳では、ないようです。少しずつ食事もとる量が増えているし、散歩もしているのは、闇に抗って生きよう、と抗っているように、思えるのです。闇に抗うなら、私たち神獣や幻獣は、味方して救い上げねばなりません、から』


 そう答えたララは、いつも人見知りでおどおどしていた姿はほとんどなく、しっかりと自分を見つけてララなりに頼もしく成長していた。


「今日でまたハーツとお別れかー。寂しくなるなー。あ、でも、もしかしてララは冬じゃなくても来られるのか?」


 ハーツはフェンリルの性質上雪がない場所ではまだ活動できない、という理由から冬だけ同居、という形をとっているが、ララはハーツと幼馴染だからとりあえず一緒に、というだけで、冬限定の種族的な理由はなかったはずだ。


『……そうです、ね。母と相談してみますが、毎日は来れないかな、と思います』


 ガーン!という顔をした後、クウン、と寂しそうに小さく鳴きながらララの後ろをうろうろし出したハーツをちらちら見ながら返事をしたララに、思わず微笑んでしまった。


「そうだな。そこは母親と相談してみてくれな。でも、たまにでもララが遊びに来てくれたら、俺もケット・シーの子供達も喜ぶよ」

『は、はい。ありがとう、ございます』


 尻尾を小さくフリフリしながら照れ気味で返事をするララの姿が、かわいらしくて抱き着きたい。

 その衝動をなんとか耐え、そっと頭を撫でるだけにとどめた。




『ハーツ、迎えに来たぞ』

『ララ~!迎えに来たわよぉーー!預ける時にもご挨拶も出来ずにごめんなさいねぇ。ちょっと立て込んでて、やっと最近落ち着いたのよぉ。冬の間、ララがお世話になったわぁ』


 皆で朝食を食べ、子供達を待っているとその前にいつもの如く、いつの間にかハーツの父、フェンリルとララの母のグーラが広場にやって来た。

 いつ聖地から入って来たのか俺には全く分からなかったが、先ほどアインス達が聖地の方をちらっと見ていたのでその時にやって来ていたのだろう。


「お久しぶりです。ハーツが居てくれて、今年の冬も賑やかに過ごせましたよ。ララもケット・シーの子供達や小さな子供達の面倒を積極的に見てくれていたので、とても助かりました」

『ウォンッ!』

『お久しぶり、です、お母さん』


 ララのお母さんのグーラは、動物園で見たアムール虎程の体躯で、身体はフェンリルに似た犬の身体に頭はララと同じうっすら模様のある猫だ。ただたれ気味の耳のララに対して、母親の方は大きな耳がピンと立っている。


『あ~ら、ララ。ちょっと見ない間にいい顔をするようになったじゃなぁい。ふふふ。あなたはしっかりしているのに、人見知りで他の人におどおどした態度になっていたのだけが心配だったけど、もう大丈夫だわねぇ。確かイツキ、と言ったかしらぁ?ありがとうねぇ』

『お、お母さん……』


 嬉しそうにかがんでララを舐めて毛づくろいする母親に、ララが照れているのか感激からか少し涙目になっている。


 なんかちょっとだけ関西のおばちゃんののりのお母さんだけど、さすが幻獣。ララのことはしっかりと見ていたんだな。これならララもどんどん成長していくだろうな。


 子供達の成長を見るのは嬉しいし眩しいが、少しだけ寂しく思ってしまうのは俺の心の器が神獣や幻獣達とはくらべものにならないくらい小さいからだろうな。ま、比べるべくもないのかもしれないがな!


『ふふふ。ハーツもいい顔になったな。雪が無くても大丈夫になる日は、近いのかもしれないな。ではな。今年も世話になった。来年、また来よう』

『あらぁ。フェンリルったらせわしないわねぇ。では、私も失礼させて貰いますねぇ。その内お礼に来るわぁ』


 ララと寄り添ってお礼を言ってくれた母親を見つめながら、ララも笑顔で頭を下げて挨拶してくれた。


「はい、お待ちしています。是非ララもたまには遊びに連れて来て下さい。ハーツもまたな。寂しいけど、また来年、待っているからな」

『ワンッ!!イツキ、さびしい、けど、がんばる!』

「頑張ってな、ハーツ。でも、訓練だけでなく、しっかり遊ぶんだぞ?」


 父親とひとしきりじゃれた後、クーンと鳴きながら近寄って来たハーツをわしゃわしゃと撫でる。このもこもこな感触ともまた冬までお別れだ。


 それからまたハーツに押し倒されて嘗め回された後、二組の親子は自分の守護地へと戻って行ったのを見送ったのだった。











*****


纏めてのお別れの回になりました。

次からは春です!春春言っていたのがやっとです( ´艸`)



新しい子も近い内に登場するかと思います。

次は水曜になります。 


どうぞよろしくお願いします!


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