第91話 吹雪の合間の日課

 ララとゆっくりと話しながら毛皮と布で作った試作のボールは、ユーラが気に入ってあちこちに投げ、それを俺やキキリが拾う、という何故か俺とキキリのとってこーーい状態になったが、そのボールをオズが目で追っていたので、少しずつでも回復していると改めて実感することが出来た。


 午後はユーラが身振りで教えてくれた通り、あれだけ猛吹雪だった雪が収まり、少しだけ晴れ間をのぞかせていた。

 それでもまだ薄暗く厚い雲が空を覆っていたので、急いで日課へと向かうことにした。



「最近雪が減っていたっていうのに、また真冬に逆戻りだな。いや、それよりも積もっているか?」


 外へ出ると家から出る階段は半分近くが埋まり、台所へと続く渡り廊下の中まで吹雪によって雪が積もっていた。当然どこもかしこも真っ白に染まり、聖地へ続く道も雪に埋まっていた。

 大きいかまくらも入り口は半分以上埋まっており、ハーツの寝床にしている小さなかまくらは天井が少しだけ雪の上に出ているだけだった。


『ウォーーーーンッ!イツキ、雪、楽しい!』

「ハーツ……。楽しそうで良かったな。これから聖地へ日課しに行くけど、ハーツも行こう」

『ワンッ!行く!』


 玄関で外の景色に圧倒されていたら、雪しぶきを上げながらハーツが猛然と走って来た。その楽しそうな様子に呆れつつ、積もった雪をかき分けて階段を降り、一歩地面に脚を踏み出すとズブズブと雪へと埋まる。


「うっ……。こ、これは歩くの大変そうだな。ほらユーラ、抱っこするから。さすがに今日はユーラが歩くのは無理だぞ」

「うううーーー……」


 最近では抱っこを嫌がるユーラをなんとか説得しようとしていると、ドライがスッと寄って来て、ユーラの前にしゃがむ。


『ユーラ。じゃあ僕に乗って行きますか?イツキよりも高くて見晴らしがいいですよ?』

「ドライが乗せるのはいいけど、ユーラ一人じゃ落ちちゃわないか?」


 俺が乗ってユーラを支えてもいいが、なんとなくユーラが嫌がりそうだな、と思っていると。


『ギャウッ!支える!』

「お、今日はキキリも一緒に行くのか?」

『あの、私、オズさんと、留守番、しています』

「ララがオズを見ていてくれるのか。助かるよ。そろそろキキリもずっと付き添いだけでは悪いなと思っていたんだ」


 さっきララと話しながらオズと一緒にロフトにいたので、ララもオズのことをもう怖がってはいなかった。

 オズはまだ昏い瞳をしているが、誰かを害そう、というそぶりもしたことは一度もない。だからララと二人きりになることを、心配はしていなかった。


『じゃあ決まったのならさっさと行こうーーー!早くしないと、また吹雪くかもよーーー?』

『おう、まだ上空が不穏そうだからな!行くなら行こうぜ!』


 先に歩いていたアインスとツヴァイに言われ、改めて上空を見るとさっきよりも少し雲が厚くなって来ているようにも見えて、ドライにユーラを乗せ、キキリがしっかりサポートしているのを確認すると慌てて歩き出そうとした。


「うっ……。こ、これは聖地まで歩いて戻って来れるかな……」


 一歩進むたびにズボッとハマる足を抜くのにも時間がかかり、広場から出る頃には息が上がっていた。


『ーーーー』


 はあー……と息を整えていると、森から雪ウサギが飛び出て来た。


「ごめんな。今日は果物を探しに行く時間はなさそうだよ。また吹雪く前に、聖地へ日課に行って戻って来なければならないんだ」


 もう午後でも、この天気ならまだ木は散ってなさそうだったが、こんな雪の中森へ入ったら、俺が遭難する未来しか想像できない。


 今日だったら、もしかしたら何本も見つけられたかもしらないから、ちょっと残念だけどな。


 マジックバッグの中にはかなりの数の果物が入っていたが、暑い時期まで取っておいたら格別のデザートになりそうなので、せっせと毎日かかさず集めていたのだ。


 俺の返事に小首を傾げた雪ウサギが一声鳴くと、森の中からぴょーーーんと何羽もの雪ウサギがわらわらと出て来て、そうして俺たちの前に道を作るように両側に並んだ。

 何が始まるのか、と皆で見守っていると、タシタシ、と小さくて短い脚でいっせいに雪面で足踏みをしだした。すると。


「おおおおおおーーーーー!な、なんだぁ?」

『すげーーーーー!氷の花が咲いたぞーーーー!』

『雪の精霊は、氷も自在に操れるのですね』


 吹雪で積もった雪で真っ白に埋もれた道が、雪ウサギによって一斉に氷の花が敷き詰められた道へと変化していたのだ。茎の長さはほぼなく、重なることなく氷の花が道を覆っている。

 聖地への結界まで続いている氷の花の道に、最初に踏み出したのはハーツだった。


『ワンッ!硬くて、走りやすい』


 あっという間に走って視界から消えたと思ったら、すぐにまた走って戻って来た。その様子を見てアインスとツヴァイが足を踏み出し、確かめるように歩いて行く。


『氷なのに歩きやすいよーーーー!おもしろいなーーー!』

『ワハハハハハ!これならイツキも滑って転ばないで歩けるぞ!』


 かまくらを作っていた時に、誤って水を辺り一面に撒いてしまい、つるつるに凍った雪に何度も滑って転んでいたことをツヴァイに当てこすられ、反論しようとする前にアインスとツヴァイも走って行ってしまった。


「もう、ツヴァイは!俺は雪も氷にも慣れてないんだから仕方ないだろう!……でも、本当に滑らないのか?」

『……これならイツキでも歩けそうですよ。ほら、せっかく雪ウサギ達が道を作ってくれたんです。さっさと行きましょう』


 でも、もし滑ったら、と思うと一歩を踏み出せずにいると、隣ならドライが何でもないように歩いて行き、確かめように片足でポンポンと氷の花を叩く。

 この氷の花は割れることもなく、道一面をほぼ覆っている為にしっかりと体重も受け止められているようだった。


「うーうー!」


 楽しそうにドライの背のユーラが手を叩き、そのユーラを後ろでキキリがしっかりと補助している。そんな姿を見ていると、ドライもスタスタと歩いて行ってしまった。


「お、おいっ!俺を置いて行かないでくれよっ!」


 く、くうっ。クオンもロトムもライもセランもいないから、皆俺の扱いが雑じゃないかっ!!


 クオンのぬくもりがここにないことを寂しく思いつつ、意を決して一歩を踏み出すと。


「おおっ、す、滑らない、な。これなら歩ける、か。……ありがとう。疑ってごめんな」


 しっかりと靴を受け止めた氷の花に、もう片方の足ものせて靴底をわざと滑らせてみてもつるつると滑ることなく、しっかりと体重を受け止めてくれた。そのことに安心して、道脇の雪ウサギに謝ると急ぎ足で皆の後を追ったのだった。




 聖地も吹雪の影響はあったのか、いつもよりも雪が積もっていたが、こちらでも雪ウサギ達が先導して雪を氷の結晶へと散らしてくれたので何事もなくいつもの世界樹の根元へ到着することが出来た。

 そこで俺が一人、日課の為に根へ近づいて行こうとすると、すっといつもの雪ウサギが前に出た。


「お、今日はご挨拶をまたするんだな。じゃあ、ここで待っているから」


 雪ウサギは最初に来た時に挨拶をして以降は、ここへ俺たちと一緒に来ても世界樹へは近づこうとはしなかった。なんとなくこの吹雪が今年最後の雪なのかもしらない、と感じ、そのまま見守っていると。


「うー!ううう、う!」

『……ユーラも一緒にご挨拶をするんですか?』

「う!」


 後ろからユーラの声がして振り向くと、ユーラを乗せたドライが近づいて来るところだった。

 ユーラを雪ウサギの横に下ろし、キキリと一緒にすぐ傍で見守っていると、最初に挨拶した時のように、雪ウサギが根の上にぴょーーーんと飛び乗り、ととと、ととと、と踊るように歩いては飛び跳ね、それを彩るように氷の結晶が弾けて根に吸い込まれていく。


 そうして最後にぴょーーーんと大きくジャンプして着地すると、辺り一面にパッと氷の結晶がキラキラと舞い散った。

 その結晶を目で追いながら雪ウサギを見ると、まるで透き通るかのように透明に輝いていた。


「う!」


 するとそこにユーラが一歩進み、雪ウサギと世界樹の根に触れる。するとーーーー。


「うわっ、まぶしいっ!」


 目を開けていられないような光がユーラと雪ウサギから迸り、思わず目をつぶる。そうしてしばらくして目を開けると、世界樹と雪ウサギとユーラがいる世界樹の根が、連動しながらキラキラと光を放ち、まるで呼吸するかのように幹を通る水がドクンドクンとキラキラと輝きながら流れ、そしてーーーー。


「え、ユーラが透けている?えええっ、だ、大丈夫なのかっ!」


 キラキラと輝きながら、透き通るかのようにユーラの存在感が薄くなり、世界樹の根と一体化してしまったかのように見えたのだ。

 思わず一歩踏み出そうとすると、足元のキキリが俺の足を掴んだ。目を下に向けると、キキリが首を振って今は動くな、と止めた。


 その仕草で心配することではない、と悟り、目を上げるとそこにはカーバンクルもいつの間にか加わって、雪ウサギとユーラ、それにカーバンクルが重なりあうかのようにキラキラと輝いていたのだった。











****


お、お待たせいたしましたーーーー!

温度差に体調がやられていました。更に文章が多めなのに纏まらず……。

もしかしたら、後で少しいじるかもしれません。(いじらない可能性も高いですが)


次は水曜日か木曜日予定ですが、体調しだいではまた週末になるかもしれません。

申し訳ありませんが、どうぞよろしくお願いします。


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