第90話 誰も子供達が来れない日 2

 アインスはオズの食事の世話までしてくれたので、食事を終えたオズをロフトの部屋へとまたゆっくりと歩いて運動してから戻る。


 オズの食事は最近ではスープの皿とスプーンを持たせると、生きようとする本能なのか促すと食べるのだ。ただ量を食べようとはしないので、横で最後まで食べるよう促している。


 世界樹の泉の水を毎日飲んでいるから、体は栄養不足以外は治っているんだよな。だから虚無に囚われている心も、体につられて少しずつ回復しつつあるのかもしれないな。


 それでも、最後は恐らく本能ではなく、オズが心から生きたいと望まないと、闇に引きずられたまま虚無を抱えて縮こまったまま、そこからの精神の脱出は難しいのではないか、と思っている。そこは本人の問題なので、少しでも手助け出来るように見守ろうと思う。



「あー……まだ吹雪いているのか。日課、本当にどうしようかな?このまま一日中吹雪くようなら、早めにどうにかして行った方がいいよなー」

「う!うーうーうう!」


 つい気になって、また扉の少しだけ隙間から外を伺っていると、珍しくロフトへ行かずに残っていたユーラに足をポンと叩かれた。


「ん?なんだ、ユーラ。……もしかして、今行くなっていうのか?」

「う!うーうーう!」


 外を指さして、首を振るユーラの仕草をなんとか読み取ろうとすると。


「ああ!ユーラ、午後は吹雪が収まるから、午後に行く、って言っているのか?もしかして」

「う!」


 確信をもって頷くユーラに、ここは従っておく方がいい、と判断して、午前中は様子をみることにした。


 そういえば子供達が来ないのは初めてだし、こうしてゆっくり出来るのも久しぶりだな。何をしようかな?


 ここに越してくる前はアインス達だけだったが、アインス達も雛で毎日大騒ぎだった。その後はクー・シーとケット・シーの子供達も小さかったし、それからどんどん子供達が増えて行ったので、毎日賑やかだったのだ。


 オズも今は休憩させないとだし。とりあえずキキリと交代するか。ずっと付きっ切りで見てもらっているしな。付きっ切りといえばユーラもか。しばらくユーラともゆっくり接していなかったしな。


「ユーラ、俺はキキリと交代してくるよ。子供達が昼寝している間と寝る前以外、ずっとキキリに任せっぱなしだったしな。ユーラはアインス達と遊ぶか?」

「うーう。う!」


 ユーラも最近はほぼオズに付きっ切りだったし、アインス達は飛行訓練に行っていたしでほとんど一緒にいるということはなかったはず、と思って言うと、ユーラは俺に手を伸ばしてロフトを指さした。


「お、俺と一緒にいてくれるのか。嬉しいな。じゃあ久しぶりにユーラと遊ぼうかな」


 ユーラや小さい子供達と遊ぶ為に、色々玩具などを考えてドワーフ達に作って貰った物や、自分で試作している物もある。まあ、四つ足の子もいるし、結局皆に好評だったのはキャットタワーとフリスビーくらいだったけど。ボールは柔らかい方がいいかと、色々試しに作っている最中だ。午前中は試作をもっと作ってもいいよな。

どうせなら試作のボールで少し遊んでみるか、と提案してみると、こっちをおどおどと見つめるララが目に入った。


「ララ、どうしたんだ?午後には吹雪も収まるってユーラが教えてくれたから、日課は午後から行くことにしたから様子見かな。ハーツはこの吹雪でも大丈夫そうだったし」

『あ、あの。私も、一緒に行っても、いい、ですか?』

「ん?オズのところにか?そろそろ体力も戻さないとと思っていたし、別にいいよ。じゃあ一緒に行こうか」


 シュウが毎日のようにオズの部屋へ入っていたことが発覚した後、オズも少しずつ歩行訓練を開始したのもあって、子供達が自分からオズと接することは解禁とした。

 まあ、子供達はしっかりオズの事情も分かっているので、今のところ歩行訓練の時に遠巻きに見ているくらいで、積極的に近寄っているのは子供達の中ではシュウくらいだ。


 なんだかバタバタしていて、結局ララともゆっくり話をしていなかったので、ちょうどいいかもしれないな。


 ユーラが歩くのを見守りつつ、のんびりとララと並んでロフトへ向かう。


「なあララ。ララはもうこの生活には慣れた?冬の間だけってのはちょっと寂しいけど、ララが少しでもここで楽しく過ごしてくれているのならうれしいけど」

『あ、あの。皆、優しくて、ララお姉ちゃんって慕ってくれて、その、楽しい、です』

「そっか。良かったよ、ララが楽しく過ごしてくれているなら」


 俺は日課に行ったり食事を作ったり、オズの世話をしていたりしているから、最近では個人的にゆっくり話すのは、いつも飛びついて来るクオンくらいなんだよな。アインス達がいるとララは遠慮してあまり話して来ないし。

 それにララは人見知りなので、つい何度も確認してしまう。


『でも、皆にお姉ちゃん、って慕われると……私、ハーツよりもかなり年上なのに、なんかどんどんハーツが色々出来るようになって。私、話すのも、こんなのだし。だから……』


 とぼとぼ進んでいた歩みが止まり、下を向いてしょぼんとしてしまったララに、もしかしてここのところずっと悩んでいたのかもしれない、と思った。

 ララは最初は物おじしないで突撃して来たシュウに驚いていたが、それでもいたずらっ子なシュウが風を自在に操る姿や、ハーツが雪を固めていた姿に毎回唖然とした顔をしていた。


「なあ、ララ。俺も後から知ったんだけど、神獣や幻獣ってかなり育つのがゆっくりなのが普通なんだろう?精霊は育つのが早いし、ここの子供達は皆言葉も早いから驚いたんだろうけど」


 精霊は親の性質をそのまま持って生まれるが、精霊は自己の種族特性に特化しているので成長は早い。ケット・シーのシンクさんの子、聖地で初めて会ってすぐに懐いてくれた子猫だったシーラちゃんも、この一年ちょっとでかなり大きくなり、そろそろ二本足で歩くまでになっている。


 そんな精霊の子供達と同じように生まれたばかりなのに一年ちょっとで話し始めているロトムにライやセラン、それにクオンなどは、神獣や幻獣としてはかなりの成長速度なのだ。そんな子達ばかりを目にしたら、恐らくアインス達やフェイよりも年上かもしれないララが自分を鑑みて落ち込んでしまうのは当然なのかもしれない。


「なあ、ララ。この世界の事情は一応通り一遍説明はされたけど、今でも世界の終わりとか、世界樹のことや神獣や幻獣がどれだけ世界を支えているのか、とかは未だに良く分かってはいないんだ。ただ神獣や幻獣達の後継者がいないことは、この世界にとって大変だってことだけはなんとなく感じてはいるけど、でも、それは世界の事情であって、子供達には本来関係のないことだと思うんだ」


 そう、後継者がいなくて焦るのもわかるし、世界樹や神獣や幻獣達が頑張って世界を存続させようとしていることも、最近では少しだが実感している。

 でも、子供達の顔を毎日見て接している俺には、神獣、幻獣としての在り方よりも子供達自身の個性を大切にしたいと思ってしまうのだ。


『……いい、の?お母さん、守護地を見回るの、毎日忙しそうにしているのに。だから私は……』

「いいんだよ、ララ。アインス達だって、アインスもツヴァイも、それにドライも皆全然性格なんて違うだろ?神獣だって幻獣だって、大変な役目はあるけど個々としての性格はそれぞれあるんだ。だからララも、ララのペースで成長していけばいいんだよ。急ぐ必要なんてないんだ。皆は俺と会話をしたくて、急いで言葉を覚えてくれたんじゃないかな、って思っていたりもするしな」


 ライもセランもクオンも、それにロトムだって、皆俺に甘えてくれるいい子達だ。俺に言葉を伝えたくて、頑張って話せるようになったのだろうと、言われずともなんとなく分かってはいたのだ。

 俺を気遣い、子供達同士でも意識しあい、それが子供達の成長の速さに繋がっているのであって、そこに俺の影響なんてほんとうに大したことないと思っているのだが。


「それにララだって、かまくら作る時に上手に水を使って土をしっかりと固めてくれてただろう?子供達を面倒見る時だって、こっそり土を盛り上げたり、子供達を乾かしてくれたりしていることも知っているよ。それだけ自然に力を使えるなら、ゆっくりだってきちんと成獣できるよ。そう思ったからララのお母さんだって、ハーツのお父さんに頼んでもここにララを預けることにしたんじゃないのかな」


 自分の種族属性の力でも、ララのように繊細に制御して使えるのは恐らくドライくらいじゃないかと思っている。それでも人見知りで自信のないララが、少しでも前向きになれるようにハーツの遊び相手として送りこんだり、ここへ寄こしたりしているのだろう。


『お母さん、が……。わ、私が人見知りでも、いいの?幻獣なのに、って』

「いいんじゃないか?それだって、ララの個性だろうし。別に今だって、そんなに問題なんてないだろう?」


 最初は俺も、ララのあまりの人見知り具合に引きこもりにならないか心配していたのだ。でもララはケット・シーの子供達と積極的に遊んで面倒を見てくれているし、こうやって人と話すことも出来る。なら別に人見知りだって問題はないよな。


『あり、がとう。……私、帰ったら皆にお姉ちゃんって呼ばれたって、お母さんに話す、ね。もっと修行も、頑張る』


 本当は火がかなり苦手だったのだけど、ここに来て怖さも苦手意識も少しだけ無くなったの、とそう言って笑ったララは少し大人びた顔をしていたように見えたのだった。











******



なんとか書けたような、なんか言いたいことが書けなかったような……。

まあ、私の文章も、子供達と一緒に少しずつでも成長したらいいなぁ、と。

(ほぼ本能とキャラにまかせて毎回書いているので、行き当たりばったりなんですが(おい)


あと少しだけ冬の話です。春から初夏の展開を考え中です!

登場させるもふもふも、実はタイミングとか色々迷っていたり。。。。


次は水曜日か木曜日更新です。

ちょっと涼しくなってきて、温度差に夏バテ気味なので、遅くなるかも?です。

どうぞよろしくお願いします。

 

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