第73話 夏の訪れとユーラの成長
雨期が終わり、陽ざしが強くなり始めた頃に白虎の子、シュウが加わって更に騒がしく忙しい日々が訪れた。
シュウを預かり出してから、アインス達も総出で面倒を見ること半月、暑い日が多くなった最近になって、やっとシュウの行動にも慣れ、俺も子供達もなんとか対処方法を習得しつつある。
そんな中、ずっとシュウにつきっきりで見守っていてくれたアインス達も、最近になって少しずつ交代でアーシュの訓練を再開し始めていた。
「ハア……。シュウが来るようになって、ユーラの表情が豊かになったのは良かったけどな。本当に、毎日てんてこまいだからな……」
『フフフ、確かにね。まさか僕も、これ程子守りにかかりっきりになるとは思ってもみなかったよ。まあ、瞬発力が鍛えられたから、これも訓練になったと前向きに考えることにします』
アハハハハハ……ハァ。
シュウは気を抜いた一瞬で思いもよらない場所へ行ってしまうので、慣れない最初は本当に大変だったのだ。
アインス達三人も、俺も、キキリにロトム、それにフェイにライも気を付けて見ていた筈なのに、気づいた時には居なくなっているのだ。
しかも、慌ててシュウを探し出すと、その間にユーラがクオンらと遊んであっという間に遠くまでハイハイしていいるという……。本当に一瞬も気を抜けなかったのだ。
俺は元々アインス達の子守りとしてアーシュに拾われたんだから、これが本来の子守りの姿だよな、と毎日疲れ果てて眠りにおちる時にしみじみと感じているのだった。
そりゃあアインスとツヴァイのマイペースさに振り回されたりもしていたが、今のこのてんてこまいな状況からしたら全然生ぬるいなんてもんじゃなかったもんな。
そんな状況も、シュウの行動をなんとか予測できるようになり、やっと気づいたら居なくなっていた、という場面が少なくなりつつある。
一緒にしたらどこまでも行っちゃいそうだと思って、最初は一緒にさせなかったクオンと一緒にいさせることで行動が把握できるようになるだなんてなぁ。クオンはさすがにまずい、と思ったらすぐに俺を呼んでくれるしな。あの甘えん坊なクオンを頼もしく思える日が、これ程早く訪れるとは本当に思ってもみなかったけどな!
これまではシュウが動き出したのを目の端にとらえると、アインス達が文字通りに飛んでいってハシッと確保してくれていたので、その分咄嗟に飛び上がる瞬発力は格段に上がったのがアインス達には収穫となったらしい。
確保すると首の後ろを嘴でそっと掴んでプラーンと下げて歩いて戻って来ていたが、シュウの母親からは少々手荒でも全く気にしないので遠慮なくどうぞ、と言質もとってあったが最初はドキドキしたもんだが、本人は全く気にせずにいたから、まあ、虎も猫科なのだな、としみじみそんなところで感じていた。
今は生まれたばかりなので、シュウはまだ体長三十センチ程だが、神獣でもある白虎なので手足はとても太いし尻尾もとても太い。
その長くて太い尻尾をテシテシ地面に打ち付ける猫科独特の尻尾を見ると、つい手が伸びて尻尾を触ってしまったがシュウは尻尾を触られても気にすることなく、自分の興味があることだけに真っすぐに突っ込んで行くのだから、その内咄嗟に尻尾を掴んでプランプランとしそうでそれが怖かったりする。
「よしっ、じゃあ今日も聖地へ行くぞーーー!クオン、シュウを頼むな。今日はアインスとツヴァイは訓練でいないならしっかりな!」
『分かった!シュウのことは私にまかせてね、イツキ!ユーラも一緒に行くの!』
「う!」
最近では俺が抱っこ紐でおんぶしようとしても嫌がって、力尽きるまではハイハイで移動するようになったユーラが、声をあげてクオンの後ろを高速ハイハイでついて行く。
ユーラは、シュウとクオンと一緒に行動するようになって、一気に表情が増え、外から感情表現が見えるようになった。
『ユーラはシュウが来て、本当に子供になれたのかもしれませんね。生まれた時は、世界樹の守り人の意識が残っていたのでしょう。生まれなおして子供としてこの世界に誕生したのですから、やっと今、ユーラとして本当に生まれられたのなら、神獣としても喜ばしいことです』
「……そうだな、ドライ。俺達の元で、この世界の守り人としてでなく、ユーラとしてただの子供として大人になるまで成長しても大丈夫だと思ってくれたのなら、うれしいよな。その為にも皆にはのびのびと成長してくれたらいいな。ああ、別に世界の為に、そう思っている訳じゃないぞ?もちろん、ドライもな。いつも皆の一番上のお兄ちゃんとして面倒を見て貰って、ありがとうな」
ドライの言葉が心に沁みて、前を楽しそうに進む子供達の姿を目で追いながら、隣を歩くドライの羽をそっと撫で、その温もりに自然と笑顔が浮かんでいた。
『……一番上の兄は、イツキ、貴方ではないですか?父親というには威厳が全く足りませんからね、イツキは。せいぜい年下の強大に振り回されている兄くらいの位置ですよ』
「うっ……。ま、まあ、確かに俺に威厳なんて欠片もないけどな!それは自分でも自覚しているけど、たしかに俺は皆に振り回されるくらいのことしかできていないけどさ!ううう……」
いやぁ、まあ、保育士って程のこともできていないし、確かに俺は近所の兄ちゃんくらいしか皆に出来ていないよなぁ……。うう。ユーラに安心して子供から成長して、なんてえらそうなことを良く言ったな、俺!
ズーーーーンと落ち込んでトボトボと歩いていると、ふいに隣にいたドライの姿が消えたことに気づいた。けど、どうせまたシュウが消えたのだろうと思っていたら。
『イ、イツキ、イツキ!ほら、見て下さいよ!ユーラが、ユーラが!』
「ふえっ!ユ、ユーラがどうしたって!まさか、シュウにつられてどこかに行っちゃったのかっ!」
珍しい、本気で慌てたドライの声に、ハッと目を上げてキョロキョロとユーラの姿を探すと、少し前に茫然と立ち止まったドライの視線の先に、クオンに寄り添い、クオンの背に手を乗せて寄りかかるように歩く、ユーラの姿があった。
え?えええっ!!ユ、ユーラが歩いている、だとっ!!!
最近では手すりに摑まったり、ベビーベッドの手すりにつかまりつつ立ち上がる姿も頻繁に見られるようにはなっていたが、掴まり立ち歩きをしても、短い距離ですぐに尻もちをついてしまっていたから、歩き出すにはまだ時間がかかるだろうと思っていたのに!!
茫然とその姿を見ていると、寄りかかるようにしていたクオンからも手を放し、一歩、二歩と先を歩くシュウの姿を追って歩いて行く。
その姿を息を飲んで見守りながら、いつしか目から涙が零れていたことに、足がもつれてユーラが転ぶ姿を見るまで気づかなかったのだった。
*****
次の次くらい?で恐らく次章になります!
シュウが暴れたら伸びるかも?( ´艸`)(今回も長くなりましたしね!)
無理せず三日、四日に一度の更新予定です。次は土曜か日曜です。
どうぞよろしくお願いします!<(_ _)>
それと前回宣伝した『もふもふと異世界でスローライフを目指します!』のコミカライズ版の5巻は、
今週末出荷となるようです!!どうぞよろしくお願いします!!
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