第72話 騒がしい日々の到来の予感
『どうもえろうすみませんでしたねぇ。どうもうちの子、目を離すとあっちこっち行ってしまって。言い聞かせても、何かに興味を持つとすぐに忘れちゃうみたいでねぇ……。今日も結界を繋げて、声を掛けた時には居なくなっていて、探している間に一人で結界を越えて来てしまったみたいでして』
「は、はぁ……。そ、それは大変ですね」
とりあえず白虎の子を保護しておかないと、どこに行くか分からない、となんとか抱っこしたり、他の子と遊んで貰っている間に、結界を越えられるかも、と言ってくれたキキリに頼んで親御さんに聖地に子供が一人でいることを伝えて貰った。
いやぁ、キキリはいっつもしっかりしているしユーラの面倒も見てくれているし。ドラゴンだってことをすっかり忘れていたのだ。
ドラゴンは神獣でも世界の守り人でもあるから特殊で、どの守護地へも入れるのだそうだ。ただ、キキリはまだ子供だから、自分でも本当に入れるかは不明だったそうで。
結果的に無事に白虎の守護地と繋がっていた結界を越えて、親の白虎を連れて来てくれた。
『ええ、ええ、そうなんです。それでですね。こんな落ち着きのない子なのですが、イツキさん、この子も預かっていただくことはできますかねぇ?』
「……え、ええ。ま、まあ、他にも子供達はたくさんいますから、皆で一緒に遊んでいれば、どこに行ったか分からなくなる、ということはないのではないでしょうか」
『おお、では!よろしくお願いしますねぇ!明日から毎日連れて来ますのでね!』
ありがとう、ありがとう!とお礼を言いつつずいっと身を乗り出されて、その分後ろにそった身体がそのまま後ろに倒れそうになるのを、そっとフェイが支えてくれていた。
神獣白虎は体長約ニメートル半ほどの大きさなので、当然顔だけでも俺の上半身以上ある。その顔をぐぐっと近づけられると、俺の腕程もありそうな牙が目の前に……。
いや、その絵図だけ思い描けばかなり怖い図になっていると思うんだけど、この人、しゃべり方が下町のおばちゃんそのまんまなんだよ。なんか、子供を勝手に触ってしまったけどどうしよう!とドキドキしていたのに、一気に脱力感に襲われて、燃え尽きそうな心地になりながら、長々と続く家庭内?一族内の愚痴に相槌を打ちつつ、ひたすら迫って来る顔からなんとか身を守っていた。
因みに俺の腕の中で降ろせと暴れていた問題の白虎の子は、母親の姿を見てもキョトンと首を傾げていた。でも、『何で大人しく待てないの!』と言われると、あっ!という顔はしたものの、悪びれることなく首を母親に噛まれてプランプラン振り回されても全く懲りた様子もなく、今はユーラとクオン、それにセランと一緒に飛び回って遊んでいる。
ロトムとライ、そしてキキリが面倒を見つつ見張り、遠くへ行きそうな時はさり気なく誘導してくれている姿がとても頼もしい。
その後はその日は顔合わせ、ということで帰って行ったが、俺とロトムとキキリ、それにフェイは明日からの日々を思い顔を合わせると重いため息が出てしまった。ライは俺の肩にとまり、頬にすり寄って慰めてくれていたぞ。
その隣でクオンとセラン、それにユーラはとてもご機嫌だったけどな!神獣の小さな弟分ができて、ご機嫌らしい。ケットシーとクー・シーの子供達とはどうしても成長速度が違うから、子猫と子犬達とはまた違った感覚があるみたいだ。
……とりあえず聖地での水遊びで疲れさせて、なんとかお昼寝は皆と一緒にして貰うようにしないとな!半日ずっと神経を尖らせて見張っているのは、さすがに毎日は俺の方が持たないしな……。
そんなテンションが天と地ほども違う俺達がケットシーとクー・シーの子供達と合流し、いつもよりも遅くなってしまったが無事に日課を終えて戻ったのだった。
午後になって訓練から戻って来たアインス達を見て、反射的にヘルプを頼み込んでしまったのは仕方がないよな!!
翌朝、顔を出しに来たアーシュにもアインス達を最低五日は貸してくれ!と頼み込むと。
『ふむ。その白虎の子はそれ程落ち着きがないのか?……まあ、確かに白虎は代々その傾向があるか。ユーラも活発に活動し出したとも言っていたしな。では、昼間に一度、様子を見に来よう』
「白虎は代々その傾向があるのか……。なんとなく、分かる気がするけどな。シュウにつられたのかユーラも一緒になって動く動く。まあ、見てくれたら俺が一人じゃ無理っていう訳を分かって貰えると思うから」
ワンパクな白虎の子の呼び名がシュウだ。なんとなく朝一番から来るような予感がしているから、そろそろ来そうで怖いのだが。
とりあえず急いで朝食を作って食べちゃおう。ああ、せっかく胡椒が手に入ったというのに、スープを作る時間もしばらくとれないかもしれないな……。
ニキニキ騒動ですっかり霞んでしまったが、胡椒もどきの実はしっかりと乾燥させて砕いてみると、やはりまんま胡椒の風味だった。最初にその胡椒を使って作ったスープと焼肉に、つい食べながら涙ぐんでしまった。
うれしくなってテンションが上がり、子供達が帰ってからドワーフ達の洞窟へペッパーミルを依頼しに走ったんだよな。俺のつたない説明なので、完成までにはもう少しかかるだろうけど、出来上がるのが楽しみだな!
『おはようございますぅ。今日から宜しくお願いしますねぇ。ほら、シュウ。チョロチョロしていないで、しっかり皆と仲良くやるのよ?』
「お、おはようございます、白虎さん。ハハハ……。今日から宜しくお願いします」
やはりイヤな予感程当たるもので、アインス達にステーキを焼いて出し終え、自分の分の肉を塩コショウを振って焼いている時に白虎がシュウを連れてやって来た。
俺は基本は陽が昇ると動き出すから、今は地球時間的に言うと、恐らくまだ朝七時前だ……。ケットシーとクー・シーの子供達が来るのが大体七時半から八時くらいだから、これからは朝起きたらすぐに朝食をささっと作らないと間に合わなくなりそうだ。
『あっ、ユーラ。こら、暴れるなって。俺達が食べ終わったら降ろしてやるから』
『ってうわっ!ちょっと待て。白虎の子、確かシュウか?一人でどこに行こうとしているんだ!』
……白虎の母親と少し話して見送って戻る間に、ユーラはベビーベッドから身を乗り出そうとしているし、シュウは広場から出て畑へ入り掛けてツヴァイに戻されているし。今日一日、無事に終わるだろうか?
『ああっ!ツヴァイ、なんでシュウを台の上に乗せたんだ!おい、それはっ!』
「うわぁああああっ!それはダメだっ!!ちょっと、誰でもいいから早くシュウを下へ下すかユーラのベビーベッドへ入れてっ!!」
つい胃痛がして一人朝から黄昏ていると、切羽詰まったドライの声に慌てて振り返ると、台の上に置いておいた胡椒の入った瓶をシュウが転がしている処だった。
ドライが止めるのは間に合わず、蓋についたあらびきの胡椒が小さな肉球がついた手によって巻きあがり、鼻についた刺激物にシュウが思いっきりくしゃみをして胡椒の瓶と一緒に台から転がり落ちそうになった。
暴れるシュウの鼻と手を洗い、ユーラのベビーベッドへ入れた時には俺もアインス達もぐったりと疲れ果て、朝食の残りを食べる気力も無くなっていたのだった。
これからこんな毎日が始まるのか……。シュウが落ち着くまで、俺の胃は持つのだろうか。
ついケットシーの子供の子猫を抱きしめ、スンスンと匂いを嗅いで癒されようとしてしまったのは仕方がないよな!
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大変、大変お待たせいたしましたーーーーーーーーっ!!!!(土下座)
気づいたら、一月以上休んでいました。。。
体調が良くなって来ると風邪を引いたり、ストレスで書けなかったりで、どうにも書く気力が出るまでに時間がかかってしまいました。。
今日は書けそうだな、とPC前に座って半日。やっと書きあげられました(苦笑)
気温も安定して来ましたので、ぼちぼち更新を再開したいと思います。
(ただ仕事も忙しい時期なので、のんびりお待ちいただけるとうれしいです)
どうぞよろしくお願いいたします<(_ _)>
あと他作品ですが!!宣伝です!(他社ですいません)
『もふもふと異世界でスローライフを目指します!』(アルファポリス)の寺田イサザ先生によるコミカライズ版の五巻が、今月発売となります!しかも連続刊行予定、ということで、六巻も1月発売予定です。
寺田イサザ先生によるカッコイイ&かわいいもふもふと、かっこよすぎる爺さんなど、楽しめる漫画となっていますので、気になった方はお手に取って下さると大変うれしいです!
(原作小説もアルファライト文庫で5巻完結で出てますので、是非( ´艸`)
こちらもどうぞよろしくお願いいたします<(_ _)>
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