第71話 新しい子は?

「な、なんだ、今の声はっ!!何かあったのかっ?」


 ここは聖地とはいえ、魔物や動物が入れない訳ではない。カーバンクルが世界樹に棲み、結界を張ったことからこの地へ悪意のある魔物や動物は入れなくなっているようだが、聖地への悪意がなくても生物への悪意が全くないかといったらそうではない。生きる為に襲うことは、ただの生存本能だからだ。


 まあでも、大型は悪意にかかわらず入れないって聞いているから、それだけは安心なんだけどな。でも、もし、魔物に襲われていたとしたら、まだ生まれたばかりの赤ん坊だったらいくら神獣か幻獣とはいえ、まずいんじゃないか?


『あーーーー。なんだ、その』

『ふむ。下降して近づいて来たライに飛び掛かろうとして転がったようだな』


 は、はあ?なんだって、ロトム。だっていくら子供とはいえ、神獣か幻獣だよな?なら、ライのことだって本能で分かるだろうに、なんで飛び掛かろうとしたんだ?


『ああ、目の前を飛んでいると、ピョンッて飛びつきたくなる時あるの!でも、さっきのライの高さはどうやっても届きそうもない高さだったのに』

『……聖地に一人でいることだけ考えても、まあ、普通じゃないんだろうね』


 お、おおう、フェイ……。クオンにもどうして?って思われるくらいなんだから、まあ、普通じゃないっていうか、好奇心旺盛の範囲を越えてかなりやんちゃな感じなのかもしれないけど。


 叫び声にビクッとして上空へ上昇したライが、その場でクルクル回っているのを見て、とりあえず近づいてみようかと一歩を踏み出す。


 親が傍にいないのに接触するのはどう考えてもまずい気がするけど、でも、なんだかあそこにいる子をこのまま放置した方がまずいんじゃないか、って気がひしひしとするもんな……。


 歩き出した俺の背で、ユーラが身を乗り出すように肩についた手に力を込めていることを考えても、まあ、害はないのは間違いないのだろう。

 とりあえずクオン達には俺の後ろからゆっくりとついて来て貰うことにして、そろそろと近づいて行くと、ほどなく花の間からのぞく、白いもふもふした毛並みが見えて来た。


「え、ええと。その、君はどこの子、かな?」


 ……いや、だって、すぐ目の前まで行くのもまずいような気がしたから、一声かけた方がいいって思ったんだよ!それが迷子の案内所の係員みたいになったのは、まんま迷子だろうから仕方ないだろうっ!


『ふみゃ?ぶみゅぶみゅー?みぎゃうっ!!』


 ……そういえば、俺、鳴き声じゃ言葉分からないよな。ど、どうするんだ、これ。


 うわーーー、やっちゃった……といういたたまれなさに茫然としていると、その鳴き声の主がガサガサと花をかき分けてこちらに近づいて来た。

 その様子を立ち尽くしたまま見守っていると。


『あーー。イツキ、迷子?迷子って何?って』

『だれだれっ?って言ってるな。……間違いなく、生まれてそれ程経っていない子供のようだな』

「あ、ありがとうな、ロトム。なあ、親に連絡とか、誰かとれるかな?」


 まだ生まれたばかりの赤ん坊なら、ここで保護しても連れて移動しても大丈夫なんだろうか、と今更ながら気づき、どうやっても最善は親と連絡をとって来て貰うことだろう、と考えたのだが。


『私達ではまだ自分の親の守護結界しか越えられませんので、今すぐ親御さんと連絡、というのも無理かと思いますが』

「そうだよな、フェイ。今日はアインス達の訓練日じゃないからアーシュも近くにいるか分からないし、どうやって連絡をとったらいいんだろうな……」


 アインス達は日々順調に成長しているように見えるが、それでもまだ成獣にはほど遠いってこの間ドライも言っていたから、守護結界を抜けて他の神獣か幻獣の守護地へ行くのはアインス達でも無理だろう。


 ああでも、もしかしたらアーシュの居場所が分かるかもしれないか?なら、ライかフェイにアインス達を呼んで貰うしかないか?でも、いくら俺の家があるから特例でアーシュの守護結界が神獣か幻獣、精霊なら通れるようになっているからといって、守護結界の外へ単独で行って貰うのも問題があるよな……。もし何かあったら大変だし、責任なんてとれないしな。


『えーー?だって、ここに居るならイツキの処に来る予定だっただろうし、皆と一緒に遊んでいたら、迎えに来てくれるんじゃない?』

『ねえ、新しい子なら、一緒に遊んでいればいいよね!』


 くう!クオンとセランはお気楽だな……。そりゃあ親と連絡がつくなら迷うことなくそうするんだけどな……。


 どうしようか、とどうやっても今の状態では解決策がないだろう問題に頭を悩ませている間に、ガサガサという音はどんどん近づいて来て、ピョコン、と花畑から頭が出た。


『ふぎゃっ!』


 と思ったらすぐに倒れ込んで悲鳴のような鳴き声が聞こえたのは、ハイハイし出したユーラが無理やりつかまり立ちをした時のように無理やり後ろ脚だけで立ち上がろうとしてバランスがとれずにひっくり返ったのだろう。


『あっ!猫の子だ!?真っ白い猫の子!』

『思ったよりも大きい子だったね!ねえ、君!僕たちと遊ぼうよ!』


 その一瞬見えた顔にテンションが上がったのか、クオンとセランが飛び出そうとするのをロトムとフェイが押さえてくれた。

 それに目線でお礼をし、今一瞬だけ見えた顔を思い描いてみる。


「……猫、じゃないよな?ケットシーの子供はもっと小さいし。それに顔もかなり骨格ががっちりした感じだった。あっ!あと耳の先!尖ってなくて丸くなかったか?」

『そうだな。あれは猫じゃないぞ』

『だな。猫じゃなく、虎だ。あの真っ白な毛並みは、恐らく白虎じゃないか?』


 白虎!白虎、ってあれだよな?四神の、西方の守護神の白虎!ってことは神獣、か。


『ね、ねえ、あの、あの子、転んだ時に何か見つけたのか、横に逸れて歩いているけどいいの?』


 そのライの声に、つい本人を放置していたことに気づき、慌てて見回すとほんの二、三メートル前にさっきまではいた筈なのに、左の方に逆に四メートル近く離れていた。


 う、うわぁ……。こ、これは。かなり落ち着きのない、やんちゃな子なんじゃないか?


 これからこの白虎の子が毎日来る、と思うと、どう考えても目が離せない状況しか思い浮かばない。


「うーーー!」

「へ?ユ、ユーラ?うわ、また急に暴れてどうしたんだ?降りたいっていわれたって、ここじゃあ……」


 うわーーーー……と引いた俺を感じたのか、おんぶしたユーラが降りる!と暴れ出し、もしかしなくても目を離せない日々が始まったことに気づき、つい現実逃避して遠い目をして空の青さを見上げてしまったのだった。








****

遅くなりましたが、なんとか更新できましたーーーー!


でも、お、おかしい……。まだはっきりと登場しませんでしたね!

でも種族だけは出ました。白虎の元気いっぱいな男の子です!


つ、次こそはしっかりと出て、イツキが大慌てなドタバタ劇が繰り広げられる、筈( ´艸`)

次話もお待たせしないように頑張ります。

どうぞよろしくお願いします<(_ _)>

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