第74話 カーバンクルの成長と世界樹の変化

 初めて一人で歩いたユーラが転ぶまで茫然と見ていた俺だが、転がったのを見て慌てて近づいて抱き上げようとすると、イヤーーー!とばかりに手をバタバタと拒絶されてしまった。

 ガーーーーーン……と落ち込んでいると。


『イツキ!私が乗せて行くから大丈夫だよ!ホラ、ユーラ、一緒に行こう?』

「う!」


 ユーラの隣にしゃがんだクオンにうれしそうに両手を伸ばすユーラの姿に心の内でがっかりしつつ、そっと両脇に手を入れて持ち上げるとクオンの背中に乗せた。

 今までも何度もクオンの背に乗ってはいるが、それでも滑り落ちたりすることはある。だから近くで見守っていたキキリとロトムに目線で頼むと、任せて!と頷かれた。


 ううう……。子供達がどんどん頼もしく成長していくのはとってもうれしいけど、俺の出番がどんどんなくなっていくのが寂しいというか、なんというか……。元から対して役に立ってないから、俺って本当に称号の効果でいればいだけの、置物みたいな存在になってしまうんじゃ……。


 さすがにそれはそれであまりにも残念すぎる……。と、さっきまでのユーラが初めて歩いた喜びがすっかりしぼんでしまい、またしょんぼりとトボトボ歩いていると、背中をドライにパフパフと羽で叩かれた。


『まあまあ、ユーラがこうして赤ちゃんから生まれられたのもイツキのお陰なんだし、そんなに落ち込んでないで。第一、そんな暇はまだまだないよ。ホラ、そんなことやっている間にシュウがいないんだけど!』

「は、はあ!!あっ、本当だっ!ちょっと、シュウ!どこに行ったんだーーーーっ!!」


 縁側でのんびり夕陽を見ながら黄昏るにはまだまだ早いとばかりに、皆の目がユーラに集まっていた間に、さっきまでクオンの隣を歩いていた筈のシュウの姿が消えていた。


 ああああーーーっ!そ、そういえばさっきユーラをクオンの背に乗せた時には姿が無かった気が!もう、俺、なにやってんだっ!


 さすがの大型種族でも半月で身体が大きくなる訳もなく、シュウは聖地の花畑の中に入ってしまうと中々見あたらなくなってしまうのだ。

 慌ててライとフェイ、それにドライに飛んで貰って上から探してもらいながら俺達も声を掛けながら周囲を探していると、ライから見つけた!と声がかかった。


「ええっ!なんでそんな場所まで行っているんだよ……。さっき目を離しただけだっていうのに」

『まさか、と思って少し離れた場所まで探してみたの。あっ、ダメだよ、シュウ!イツキ、早くシュウを捕まえて!』

「す、すぐ行くっ!」


 ライの慌てた声に、ダッシュで右後ろ後方へと走る。そう、つい前方、世界樹の方ばかり探していたら、アーシュが守護結界を連結させてある俺の住居がある場所とは別の後方、境界に近くて森となっている場所までいつの間にか行ってしまっているようだった。


「おっと、危ないっ!こら、シュウ!皆と一緒に、っていっつも言っているだろ!」

『ふぎゃう?にぎゃ、ぶみゃーうっ!』

「こ、こら、暴れないの!ほらほら、今日も皆と一緒に水遊びしような」


 ちょうど倒木の上によじ登り、バランスを崩して転がり落ちそうになった処をなんとかキャッチして叱るも、全くそんなことなど気にせずにシュウは放せとばかりにバタバタと暴れるだけだ。

 言葉も神獣だから理解している筈なのに、全くそんな気配もない。


 フウ、とため息をつきつつ、なんとか暴れるシュウを連れてクオンの元へと戻り下へ下す頃には、手や顔に新たなひっかき傷が増えていたのだった。




「ハアーーーー。今日も大変だったな。まあ、シュウも水遊びをしている時は夢中になっているから、ドライに任せておけば大丈夫だよな。ほら、ユーラももうすぐカーバンクルに会えるから、少しだけ抱っこで我慢してくれって」

「むう……」


 その後はなんとか歩き出そうとするユーラとシュウをなだめつついつもよりも時間を掛けつつ泉へと到着すると、後をドライとロトムに任せてキキリとユーラを連れて日課の世界樹へと向う。

 湖畔なのでハイハイして転がり落ちるのも危ないので、当然抱っこだ。不満そうにしているが、なんとかなだめてキキリと一緒に歩いて行く。


「……ここも気づくとかなり彩り豊かになって来たよなぁ。ユーラがもっと成長して、カーバンクルが成獣してかつての聖地が蘇ったら、どんなに美しくなるんだろうな。最初の白い花の花畑だけでもキレイだなって思っていたのにな」

『精霊の花、全部咲くって、言ってた』

「へえー、そうなんだ。楽しみだなー」


 ユーラの食事用の緑の花、そして淡い虹色の花、それからあとも気づくと黄色や水色、青い小花がいつの間にか世界樹を中心して咲き、今では様々な色が溢れる花畑へと変貌していた。

 キキリも大分念話で話せるようになってきたが、こうして話せるのはこの日課に向かう間と夜寝る前くらいだった。


「じゃあユーラ。先に食事な」


 ユーラがハイハイするようになってから、試しにファーナの果実を絞ってジュースを作ってみると、ユーラが手を伸ばして少しだけ飲んだので、家ではファーナの果汁をあげているが、やっぱり食事としては一日一度の世界樹の雫となる。


 最近では俺が魔力を注がなくても、キラキラと薄っすらと細やかな光が世界樹を取り巻くようになっており、もう俺の日課はいらないんじゃないか、と思っているのだが、アーシュに言ってもまだ続けろっていうばかりだし、ユーラの食事のこともあるから今だに続けている。


 ユーラの食事が終わり、いつもの場所でユーラを降ろすと、世界樹からカーバンクルが走り降りて来た。


「じゃあ、日課やって来るから、キキリ、お願いな」

『分かった!』


 ユーラとカーバンクルが遊び始めたのを見守ると、俺は一人でいつものように世界樹の根へと向かう。


 カーバンクルも少し大きくなって来たか?毛色と額の宝石がキラキラしてきたとは思っていたけど、カーバンクルも成獣したらとても美しい神獣になるんだろうな。


 いつもの場所に付き、根に手をつきながら見上げると、最初にこの場所へ来た時よりも明らかに幹の透明度が増し、恐らく直径も太くなっているし枝も伸びており、雄大さを増していた。


 こうして見ていると、やっぱり最初見た時はかなり力を失っていたんだろうなぁ。それでも俺には世界樹なんて神々しく思えてたけど。これだけ力を取り戻したきっかけが俺だなんて、絶対嘘だよなぁ。


 俺が何を言われても実感もないし信じられないから、アーシュも言葉で説明してくれないのかもしれない。


 いやいや、アーシュは最初からなーーんにも俺には言わなかったしな!よし!今日もやるか!


 カバンから世界樹の葉を取り出して右手で持つと目を閉じる。そうして太陽の光を受けて、更にキラキラと光輝く様を思い浮かべつつ魔力を流す。流し終わって目を開けると、さっきまで小雨のように降り注ぎながら微かにかがやいていた光が、虹色に輝きながらパアっと周囲に飛び散った。


「……今日もキレイだなぁ。フウ。じゃあ、そろそろユーラと一周して戻るか」


 飛び散った光が消えて行くのを見守った後、後ろを振り返ろうとすると、身体をタタタッと何かが駆け上がり、頭上を飛び跳ねた。


「うをっ!カーバンクル、だよな?ど、どうしたんだ、そんなに興奮して。ユーラに何かあったか?」


 何度も何度も頭上で飛び跳ねられ、驚きつつユーラの方を見ると、キキリの手をとりユーラが立ち上がってこちらに歩いて来ようとしているところだった。


「おおお!そっか、ユーラが歩いているからカーバンクルも興奮したんだな。そうなんだよ。いきなり今日からユーラが歩きだしたんだよ!ユーラが無事に成長してくれてお前も喜んでいるんだな!」


 俺の目も、二度目なのにうるっと緩みそうになりつつ、頭上で飛び跳ねるカーバンクルをそのままにゆっくりとユーラの方に向かい、ニメートル程離れた場所で一歩、一歩と進むユーラの姿を見守っていると。


「うわっ!今度は、な、なんだ!」


 俺の頭からピョンッと飛び降りたカーバンクルがピカーッとさっきの世界樹と同じように光を放つと、歩くユーラの周囲を二週してから世界樹へと駆け出して行く。その姿を目で追うと、世界樹をタタタッと駆け上っていたカーバンクルの姿が世界樹の枝に遮られて見えなくなると、今度は世界樹がまたピカーッ!と光を放った。


「おおお。ん?ああ、ユーラ。世界樹、キレイだな……。ユーラの成長を喜んでいるのかもしれないな」


 思わずその光景に見とれていると、歩いて来たユーラが無事に俺の足に抱き着いていた。そっとしゃがんでユーラとキキリと一緒に世界樹を見上げ、その神々しい景色を見守ったのだった。






*****

お待たせしました<(_ _)>

次の次から次章なので、新年から、と切り良くしたいのでこの後もう一話更新します!

(アルファポリスだけ先行で一話更新していたのでその分を更新して揃えます)

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