第57話 もうすぐ二度目の雨期の時期のようです
春となり、新たな世界樹の守り人であるユーラが誕生し、そして聖地と世界樹の守護者であるカーバンクルがまだ成獣していないとはいえ戻ってから、どんどんと気温は高くなって来た。そろそろ今年もまた雨期の時期だろう。
雨期が開けると聖地への日課も一年だ。そう考えるとユーラの誕生はかなり世界樹も無理をしたように思う。俺にはユーラが誕生したことで世界に変化があったのかは全く分からないが、アーシュの機嫌が日に日に良くなっている気がするから、世界も安定へと動きだしているのなら喜ばしい。
まあ、俺も人里へいくつもりは全くないから、争乱があってもなくても実感はないんだけどな!でも、ここの外の世界では毎日戦争が繰り広げられ、人がどんどん死んでいると思うより、少しずつ争いが無くなっていると思う方がまだ精神的にいいよな。
それでもどうしても他人事のように感じてしまうのは、この世界に来てから接しているのが神獣、幻獣、それに精霊達だけなのだから、まあ、仕方のないことなのだろう。
だから魂の管理官に頼まれたことも、今ではすっかり頭の隅に押しやられていたりする。
その時が来たら分かると言われたから、まあ、その時までは俺にはどうしようもないしな!
ユーラが誕生して約一月半程経ったが、最近では少しずつユーラが顔と手足を動かすようになり、目に表情が宿るようになって来ていた。
「ユーラ、じゃあ日課をしてくるな。キキリもよろしくな!」
最近では日課の時には、いつもの場所から少し離れた世界樹の根元にユーラを横たえるとそこにキキリが寄り添い、俺はゆっくりといつもの場所へと向かう。するとそれを見計らい、世界樹からカーバンクルが走って下りて来るのだ。
キキリはもう一人の守り人の古龍のドラゴンの子だからか、カーバンクルと打ち解けるにはそれ程かからず、俺がのんびり日課をする間に三人で触れ合うようになるのはすぐだった。
カーバンクルがユーラの周りをクルクル周り、それを目線でユーラが追う姿をチラチラ見ながらゆっくりと歩いて世界樹へ向かい、世界樹の葉を取り出した。
うーん。今日はどうしようかな。ユーラ達も楽しそうだし、できるだけ時間をかけないとな。……もうすぐ雨期だし、雨を取り込んでぐんぐん伸びる様子でいいか。まあ、水を吸い込むというか、世界樹は水を生み出している気がするけどな!
世界樹の詳しい説明は、実は未だかつて誰からもされてない。アーシュは世界樹だ、としか言わないし、最初にオルトロスに世界の支えで枯れたらこの世界が滅びる、と聞かされただけだ。
俺のファンタジーなアニメやラノベ定番を基準とした想像的には、世界樹は枝も葉も貴重な素材になる、とか世界を浄化する、とか世界の魔力を生み出している、とかあるが、今のところ分かっているのは貴重な素材になる、ということだけだ。
そういえばオルトロスにもっと詳しく聞こう、と思っていたのにすっかりそれどころじゃなくて忘れてたんだよな。世界樹から流れ出した泉の水は、飲めば疲れはとれるしある程度の傷は治るのは最初に自分で確認したんだけどな。
因みにある程度の傷しか確認できていないのは、当然それ以上の怪我などしていないからだ。だから実際にはざっくりと内臓が飛び出した傷も治るのかもしれないし、もしかしたら切った手足も生えて来る程の治癒の効果があるのかもしれない。
それに少し風邪っぽい、くらいの時にも水を飲んだらスッキリしたから病気にも効果があるのかもしれないが、泉の水を飲んでいれば体調が悪くなどならないので、どの程度の病気まで治せるのかの検証など出来ないのだ。
まあ、切り傷とかなら見た目で分かるからある程度の判断は出来るけど、病気となったら医者でもないから知識もないし、元々判断なんて出来ないんだけどな!カーバンクルが世界樹に棲みだしてからアーシュにはユーラに世界樹の泉の水を飲ませても大丈夫かどうかを改めて確認して、大丈夫だと言われているからそこは安心なんだけどな!
怪我をさせるつもりはないが、体調はユーラはハイ・エルフだし表情もそこまでまだ変わらないからうかがい知ることは出来ない。だから最近では泉の水を毎日少しずつ飲ませているので、そのついでに俺も毎日飲んでいるのだ。
ユーラを預かったからには、俺も体調を崩したりなんて出来ないからな!もしユーラにでも病気が移ったら、子供は抵抗力がないから大変だしな!
家の井戸の水にも少しは効果はあるが、やはり泉の水より薄まっているので、最初は恐れ多い気がして遠慮していたが最近ではもう気にせず飲んでいるのだ。子供達も毎日飲んでいるから安心だし、当然ケットシーとクー・シーの集落にも泉の水を定期的に渡しているので安心だ。
まあ、こうやって一人で考えたって世界樹のことや実際の水の効能なんて分からないんだし。とりあえずそろそろ日課をやってしまおう。
ぐだぐだ世界樹のことを考えている間に、カーバンクルも走り疲れたのかユーラの隣に座ってすりすりとすり寄っている姿を見て採ると、目を閉じた。
雨を根から取り込み、ぐんぐんと幹や枝を伸ばす様を思い描く。これだけ大きな世界樹の姿が更にぐんぐんと伸びる姿を想像するのは大変だったが、つい世界樹のことを考えていたからか、アニメで見た成層圏にまで伸びる世界樹を想像してしまった。
すると、久しぶりにぐんっと一気に魔力を吸われてぐっと唇を嚙みしめる。
うわっ、また俺、なんかやっちゃったか?だってもうユーラも誕生しているんだし、世界樹にこれ以上何か必要なのか?
ぐうっと耐えていると、いつもよりは多いが倒れそうになる前に魔力の汲み取りは終わった。久しぶりに襲い来る魔力不足の倦怠感にため息をつくと、ゆっくりと目を開けて上を見上げると。
「うわ……こんなの、初めてだな。虹みたいでキレイだな」
キラキラと遥か頭上の枝から細かな光が降り注ぎ、それに陽ざしが当たって虹のように何色にも輝いていた。
『キキュ!』
「へ?うわわっ!な、なんだ?」
茫然とその光景に目を奪われていると、久しぶりに聞いたカーバンクルの鳴き声に驚いて振り返ろうとした時、タタタッと背中を何かが駆け上がるのを感じた。そして、頭の上からポンッと世界樹に向かって飛んだのは、カーバンクルの小さな姿で。
「おおお。今のはカーバンクルが俺を駆け上がって来たのか。と、いうことはぷにっとした感触は肉球か!」
飛ぶ一瞬の為に頭にぷにっとした感触がぐっとかかったのだが、それがカーバンクルの肉球だと気づいてついニマニマしてしまった。
今まで俺には一度も寄って来なかったのに!もしかして、このキラキラの効果か?
俺の頭から世界樹へピョンッと飛んだカーバンクルは、そのままキラキラ舞う光の中をうれしそうに幹を飛び跳ねている。
そうして光が収まると、幹を駆け下りて来たカーバンクルは世界樹の根からピョンッと飛んで俺の背に着地し、肩へと登ると一瞬だけスリッともふっとした身体をすりつけるとそのまま飛び降り、ユーラの方へ行くと挨拶するようにクルクル回るとそのまま世界樹を登って行ってしまった。
「う、うわぁ……。思った通りに、すっごく柔らかかったな……。なあ、キキリ。今のはカーバンクルのお礼かなんかだったのかな?このまま俺も触れ合えるようになったら嬉しいけどな」
『ギャウー』
もうちょっとじゃない?みたいな感じのキキリの返答に笑顔になると、ユーラを抱き上げて花を摘み取ったのだった。
****
世界樹についてのことだけで終わってしまいました……。
まあ、カーバンクルと少しは触れ合えたし、イツキは満足!ということで!
どうぞよろしくお願いします<(_ _)>
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