第49話 新たな世界樹の守り人と祝福

 左を見て、右を見て、上下斜め下、とあちこち周囲を見回しても、当然人の姿などある筈もなく。


「なんでいきなりこんな場所に赤ちゃんがいるんだよ!俺は子供の扱いなんて、何も分からないぞっ!ど、どうしたらいいんだ……」


 うをーーーーっと、目を開けたままピクリとも動かない赤ちゃんの前で七転八倒して騒いでいると、バサバサッと聞きなれた羽音がした。


「へ?アーシュ?」


 澄み渡る青空から、深紅の大きな鳥が悠然とこちらに舞い降りて来るのを、茫然と見つめる。


 ああ……、聖地でアーシュの姿を見ると、本当に神獣フェニックス様なんだな、って毎回思うよな。でも、なんでこんなタイミング良く……。いや、神獣の力、なのか?


『ギャウー!』

「ん?なんだキキリ。これ以上もう驚くことは今は勘弁して欲しいんだけど」


 アーシュの姿を見て少し落ち着いたが、まだ心臓はバクバクしているし、頭の中は混乱状態でいっぱいいっぱいだ。


 そう思いつつキキリが示す先を見てみると。


「え、えええっ!あのドラゴンって、キキリのお父さんだよな?確かにそろそろ三か月くらいは経つけど、でも今いきなり現れるなんて……」


 青空を泳ぐようにすいすい飛んで来る、キラキラと白銀に輝くドラゴンをじっと見つめていると、そこに羽のある馬、ペガサスの姿が加わった。


「ふへっ!ペガサスまで……。一体、どうなっているんだ?」

『フン、それはな。新たな世界樹の守り人の誕生に、我ら守護を司る神獣、幻獣が祝福に駆け付けたのだ』

「あ、アーシュ!あ、新たな世界樹の守り人って……」

『まあ、待て。すぐに皆集まる』


 も、もしかしてこの赤ちゃんでは……と言おうとした言葉はアーシュに遮られた。それと同時に背後でドスンッ!と地響きがした。


『おい、もっと静かに行動できんのか。それでも最古の古龍とは情けない』

『いや、寝ていたところを起こされたからな。まだハッキリ目覚めきれていないのだ。おお、我が子よ。元気そうだな』

『ギャウー!』


 フアーアと大きな口でこぼした欠伸で、飛ばされそうになってしまった。その間にもどんどん周囲に気配が満ちて行く。


 うわぁ、お、俺はどうしたらいいんだ?この聖地で顔を合わせた時は向き合って一人一人挨拶したからまだなんとかなかったけど、どえらい方々に囲まれたただの一般人な俺は、ここで土下座でもしたらいいんだろうか?


 オルトロス、ペガサス、ユニコーン、それに九尾の狐にフェンリル。子供を連れて来たメンバーは何度も顔を合わせているというのに、今はいつもとは雰囲気が違い、厳かな雰囲気を漂わせている。

 他の早々たるメンバーには、目も向けられる雰囲気ではない。


 ほ、本当に俺はどうしたらいいんだよ。なあ、俺ってこの場にいていいのか?子供達の方へ行った方がいいのでは?


「な、なあアーシュ」

『集まったようだな。では、これより新たな世界樹の守り人の承認式を始める。イツキ、その子をここに』

「へ?お、俺が抱いてもいいのか?」


 子供達の方に、と言いかけた言葉はアーシュの言葉で打ち消され、更に指示までされてしまった。ええっ!とワタワタしていたら、早くしろ、とばかりにアーシュにジロッと睨まれてしまった。

 そこでやっと恐る恐る世界樹の根元に横たわる赤ちゃんの方へと近づく。


 あ、あれ?この子の耳……尖ってないか?もしかしてエルフだったりするのか?


 近くで見ると、突然この場所に現れた赤ちゃんは世界樹の周囲に新たに咲いた花と同じ、薄い翠色の髪に、眩いまでの金の瞳をしていた。そして白人種よりも更に透き通るような白い肌に、顔の横に広がる尖った耳をしていた。


 すっごい美形な赤ちゃんだよな……。こんなに小さいのに、完璧な配列をしているな。


 この子を俺なんかが抱き上げていいのだろうか、と手を出しあぐねいていたが、「イツキ」とアーシュに促されてもうどうにでもなれ!とえいやっと抱き上げた。


 うわぁ、柔らかい。赤ちゃんって、こんなに頼りない存在なんだな……。


『イツキ、その子をここに』

「あっ、ああ」


 つい手に抱いた柔らかな存在に目を奪われてしまった。

 そのまま覚束ない手つきで抱えながら、アーシュの目の前に立つと。


『間違いない。新たな世界樹の守り人に祝福を』


 じっと俺の腕の中の赤ちゃんを見つめたアーシュが、まるでぬかずくように頭を下げた。


「ふえっ!!」

『イツキ、その子をこちらへ』

「え、ええ」


 そんな初めてみたアーシュの姿に頭が真っ白になったが、オルトロスの声に無意識に応えて声の方へと進む。


『間違いない』『承認する』『『新たな世界樹の守り人に祝福を』』


 するとオルトロスもじっと見つめたあと、やはりアーシュと同じようにぬかずくように双頭の頭を下げた。

 そのまま促されるままにぐるっと一周するように周り、神獣、幻獣たちから承認を受けて行き、そして最後にドラゴンの前に立つと。


『ふむふむ。うむ。間違いないな。この子は新たな世界樹の守り人だ。このまま緩やかに滅びを辿るのも運命か、と受け入れていたが、こうしてこの世界に新たな世界樹の守り人が現れるとは。我も祝福を守り人と、そして守り人をもたらしてくれたイツキに贈ろう』


 そう言うと、ドラゴンは俺と俺が抱えた赤ちゃんへ向けて、顔を寄せるとフウ……と息をふいた。

 その瞬間、俺の意識は真っ白に染まったのだった。




 

 気が付くと、ぼんやりと意識が真っ白な世界を彷徨っていた。


 あれ?なんかこんなことが前にもあったような……?いつだったっけ?


「お久しぶりですね、斎藤樹さん。またこうしてお目にかかれるとは思いませんでした」

「へ?」

「ふふふふ。貴方は魂の状態でしたから、私のことは分からないかもしれませんね。世界の狭間で会って以来ですから」


 んんん?なんだ、この、声は聞こえるのに、相手をぼんやりとしか認識できない感覚は。それに……斎藤樹なんて、俺は死んでから自分でフルネームで名乗ったことはないぞ?何で知っているんだ?でもこの声はどこかで聞いた気もするんだけど、思い出せないんだよな……あれ?でも、世界の狭間……ってああああああっ!?


「死後の魂の時の、確か、魂の管理官かっ!」

「そうです。思い出してくれて良かった」


 そうだそうだ。なんだかここもデジャヴを感じていたんだよな。俺はあの時目もなかったから見た記憶はないけど、見えてもこんなぼんやりとしか認識できないのか。

 ……んん?ちょっとまてよ。今、デジャヴを感じているってことは、ここってもしかして世界の狭間ってことか?じゃあ……。


「お、俺はまた死んでしまったってことなのかーーーーっ!!」


 うっわぁ。そりゃあ一度死んだんだし、いつ死んでもいいかとか思っていたけど、今となっては子供達のことが心配というか、気がかりばっかりなんだけど!でも、ドラゴンは祝福とか言っていたのに、どうして俺は死んだんだ?


「ああ、いや、今回は貴方は死んではいませんよ。まあ、あの世界の貴方が普通の人と呼べるかどうかは疑問ですが。そこはこれから説明するとして。今回は新たな世界樹の守り人が誕生し、もう一人の世界の守り人である古龍から祝福を受けられたので、私が介入出来たのです。貴方に説明したいことがあり、ここにお呼びさせていただいたんです」


 は?普通の人と呼べない?いや、俺はしがない一般人だよな?って、あれ?世界の守り人とかって、何か一気に次元が上がっているんですけど。それに俺を呼んだとかって、一体なんなんだっていうんだよーーーーっ!!








****

いいところですが、今回はここで。結局赤ちゃんの説明も終わりませんでした……。

でも、次回50話まで来てやっとイツキのことについての説明が( ´艸`)次回をお待ち下さいねーー!


どうぞよろしくお願いします<(_ _)>

 

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