第48話 世界樹の変化と新たな出会い
『ほおう、ファーナか。それが森で見かけたということはそろそろかもしれんな』
「この果実はファーナ、って言うのか。これは食べられるのか?」
『……食べられなくはないが、とりあえず今はとっておけ』
「……なあ、そろそろ教えてくれてもいいと思うんだけど。俺が知ったらダメなことなら、まあ仕方ないと諦めるけどさ」
いつもそろそろ、そろそろと言われると、何がそろそろなのかがいい加減気になって仕方ない。でも、真珠色の光沢があるから食べる気にはいまいちならないけど、食べられるんだな。
『フム。まあ、それ程かからんからお前は待っておけ。でも、そうだな……。日課で世界樹の元へ行った時には、世界樹の周りを一周して何か変わったことがないか毎日確認しておくといい』
「ファーナも世界樹に関係していることなのか!!……まあ、分かったよ。ここで問い詰めてもアーシュは言わないだろうしな」
『お前、ドライアードに聞こうとか思っているだろう。ドライアード。このことに関しては口を出すなよ』
『……分かっているわ。この件に関しては、私達は見守るだけね。でも、そうね。私達はその日が来るのを待ち望んでいる、とだけ言っておきましょうか。だからイツキ、日課を頑張ってちょうだいね?』
「あ、ああ。わかったよ」
俺の家がある大木の主、ドライアードはいつも突然現れたりする。呼びかけて出て来る時もあるし、出て来ない時もある。だけどいきなり目の前に出て来られると、心臓に悪いよな!!なんていったって、ドライアードは凄い美人だからな……。
思わず見とれそうになり、視線をアーシュに向ける。
「だけど一つだけは約束してくれよな。アーシュたちが待っている結果が出たら、きちんと俺のことも教えてほしいんだ」
『……まあ、いいだろう。俺だってお前の全てが分かる訳ではないが、分かる範囲で良ければ教えよう』
「ならいいや。とりあえず俺は日課を頑張ればいいんだろう?」
森で不思議な果実を見つけた翌朝、アーシュに聞いてみたが分かったのは名前だけだった。
まあ、期待はしていなかったけど、本当にもうそろそろなのかな?
フウ……とため息をつきつつ泉で遊ぶ子供達と別れて泉の湖畔を歩いていると、キキリが走って追いついて来た。
「ん?キキリも一緒に来てくれるのか?世界樹を一周しないとだから、うれしいよ」
『ギャウ!』
アーシュから日課の追加を言われてから五日。言いつけ通りに日課を終わらせてから世界樹の周囲を見回っているが、今のところは何も変わったことはない。しいて言えば、とても珍しい薬草を世界樹の根元で見つけたくらいだ。
あの薬草は本によると幻とか言われているみたいだけど、俺が持ってたって調合もできないし、売ってお金にする伝手もないからなぁ。まあ、そんな薬草を世間に出して、騒ぎになったら面倒だからそのままにしてあるけどな!
さすが世界樹、といった感じだ。当然世界樹の葉も貴重だと思うけど、世界樹のことは伝承でしか伝わっていないらしく、当然薬草の本には一切載っていなかった。
少しずつ文字の勉強をすすめ、最近ではようやく少しは文章も読めるようにはなって来たが、解読は薬草図鑑を優先しているから、今でもこの世界の情勢などはさっぱり分からないままだ。
『ギャウゥウ!ギャウギャウ!』
そんなことを思いつつぼんやり歩いていたからか、キキリにしきりに足を叩かれてやっと呼ばれていることに気づいた。
「お、なんだキキリ。どうかしたのか?」
『ギャゥウ、ギャウ!』
大きな身振り手振りで指さされた先を見てみると、そこにはこれまでに一度も見たことのない花が咲いていた。
「おお!あの花、昨日までは無かったぞ。おかしいな。蕾も見た記憶もないんだけどな……」
ここはいつも日課をしている場所のすぐ近くの場所だから、毎日通っているから見間違いようがない。
しゃがんでじっくりと見てみると、花畑の真っ白い花ではなく、薄い翠の大きな花弁が五枚の花だった。花の大きさだけでも、花畑の花の倍ほどもある。
じっくりと花を観察してから周囲を見回すと、世界樹の根元にも同じ花が咲いているのを見つけた。
「うーん。聖地では花畑の花以外を見たことなかったから、あの花しか咲かないと思っていたのに……。どういうことなんだろうな、キキリ」
『ギャウー?ギャギャ!』
「ん?俺の日課に関係しているんじゃないかって?……ファーナと同じような感じなのかな?アーシュに確認したいけど、この花を摘むのはな……。特徴だけ話せばいいか」
なんとなく、この花も摘んではいけない気がしたのだ。
花畑の花も摘んではいけない気がして、一度も摘んでいないんだよな。子供達も絶対に摘もうとはしないし。ここは聖地と呼ばれる土地だしな。まあ、とりあえず日課を済ませてしまうか。
「キキリ。とりあえずいつもの日課を済ませて来るよ。ちょっと待っててくれな」
『ギャウ!』
花を踏まないように進み、いつもの場所で世界樹の葉を取り出す。
そうだな。今日は葉だけでなく枝もぐんぐん伸びるようなイメージをしてみようかな。
ここでは昨日まで無かった花が一日で咲くなら、世界樹の成長も葉だけでなく枝もぐんぐん伸びるのかもしれない。
そう軽い気持ちで思い、目を閉じて春の温かな陽ざしをたっぷりと葉に受けて光合成し、ぐんぐんと枝も葉も伸びる様子を思い描いて魔力を注ぐ。
すると、まるで呼吸のように、ぐん、ぐん、ぐん、と魔力が引き出されて行く。
おおお!これは、また倒れそうになったりしないよな?だ、大丈夫か?
ただ一度に引き出される魔力の量はそれ程多くなかったので、そのままイメージを維持し続けていると、いつもよりも少しだけ多く魔力を注いだくらいで止まった。
「フウ……。ありがとうな、加減してくれて。このくらいなら大丈夫だけど、これ以上は勘弁してな」
目を開け、目の前の世界樹の幹を見つつ呟くと、キラキラと煌めく幹の中を流れる水も先ほど魔力を吸い出された時のようにぐん、ぐん、ぐん、と呼吸のようなリズムをつけて流れているように見えた。
「んーーーー?なんだ?何かが起こるのか?アーシュが言っていた、そろそろがとうとう近づいた、ってことなのか?」
いくら考えても知らないことが分かる訳もなく、キキリの元へ戻り、一緒に世界樹の周囲を何か他に変化がないか見て回った。
結局その日は、キキリが見つけた花と同じ花が世界樹の根元にところどころに咲いていたのを見つけただけだった。
更に二日後。どんどん根元に増える薄い翠の花を踏まないように歩いていつもの場所へ向かう。
この花のこともアーシュは「そうか」と言っただけで、何も教えてくれなかった。まあ、もうそろそろ、に関わっているとみて、間違いないのだろう。
「なんだかすごいなー、キキリ。この花、どこまで増えるんだろうな?」
『ギャーウー。ギャー』
あの日からずっとキキリは俺の日課に付き合ってくれている。
昨日も一昨日も、ぐん、ぐん、ぐん、と呼吸のように魔力を吸いとられる現象は続いていた。幹の中を流れる水も、ずっとそのリズムを保っている。
「アーシュも何も教えてくれないしさー。ま、いいか。じゃあ日課を済ませて来るから、キキリはここでな」
『ギャウ!』
キキリと別れ、いつもの場所で世界樹の葉を取り出す。
んーーー?今日は呼吸のように流れる、幹の中の水をイメージしてみるか。最近世界樹も俺の言っていることを分かってくれているっぽいし。魔力が切れるまで吸い取られることはないだろうしな。
なんとなく、そうした方がいい気がして、目を閉じると世界樹の幹を流れる水を思い描く。
陽ざしを受けてキラキラ輝きながら幹の中を水が枝の細部まで広がり、葉が光合成して得たエネルギーと合わさってぐんぐんと枝や葉を伸ばしていく。
水の流れは、体内で呼吸で取り込んだ酸素を血液を通して全身に広がるようなイメージをした。
「ッ!?」
すると一気にぐん、と魔力が吸い出された。ぐっ、ぐっ、ぐっ、と、激しい運動をした時のように力強く引き出されていく。
「くっ!うわっ、ダ、ダメだ!もうこれ以上はっ!!」
いつもの半分の時間でいつもよりも魔力をとられ、すぐ目の前に迫る限界に手を世界樹の根から引きはがそうとした時。
突然ブツリと魔力が引き出されるのが止まった。
「っ、ふう……。ぎ、ギリギリなんとか大丈夫、か」
ふう、ふう、ふう、と上がった呼吸を深呼吸をして静めてから目を開けると、パアッと目の前に強い光が広がった。
「う、うわぁっ!な、なにごとだ!」
『ギャウギャウ!』
あまりの眩しさに目を開けていられずに、目に手をかざしながら閉じる。キキリの慌てたような声が聞こえたが、今は歩けそうもない。
一体なんだんだ?俺のイメージが悪かったのか?それとも、これがアーシュがそろそろだっていっていた、その時が来た、ってことなのか?
ぐるぐるとそんなことを考えながら光が収まるのを待ち、うっすら開いた目に光が見えなくなり、やっと目を開けると。
『ギャ!ギャギャギャギャーーーーウ!ギャウギャウーッ!!』
バタバタと走って来たキキリが、慌ててバタバタと手を動かして指を差した先を見ると。
「……はあ?な、なんで……。なんでこんな処に赤ちゃんがいきなり現れるんだーーーーーーっ!!」
キキリが示した世界樹の根元には、生後一年くらいに見える人の姿の赤ちゃんが横たわっていたのだった。
****
やっと新メンバーです!もふもふを期待していた方、すいませんでした……。
新メンバー出てないじゃん!と昨日の題を変更しました(こっそり)ので今回こそ!です。
この赤ちゃんの正体はまた次回、ということで( ´艸`)
も、もふもふも近々新らしい子を出せる、と思いますので、どうぞよろしくお願いします<(_ _)>
あとこっそり宣伝を。9月発売の書籍、電子書籍も同時発売です。予約始まりました。
こちらもどうぞよろしくお願いします<(_ _)>
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