3章 世界樹と新たな出会い

第47話 春の訪れのようです

 ハーツが去り、どんどん残っていた雪が姿を消し、深緑の鮮やかな緑が森を彩るようになると、ケットシーとクー・シーの子供達もまた顔を出すようになり、冬の前の賑やかさを取り戻していた。


 あれからも毎日日課の時には、芽吹きのイメージで行ったが警戒して同じイメージをしなかったからか、もう一度魔力を勝手に吸収されることはなく、あの眩い光が輝くこともなかった。


 アーシュに聞いても、結局「その時になればわかる。お前はただ日課をこなせばいい」と言われるだけだったんだよなぁ。すっごく気にはなっているけど、あの時のようになったら、と思うとあの時のようにイメージする気にはならないんだよな……。


 魔力が抜けてく脱力感と、魔力が切れても更に吸収されたら干からびるのか?という恐怖感が、どうしてもぬぐい切れないのだ。


「まあ、でも、あれはお前に必要なことだったんだろうしな。よし!今日もほどほどでお願いな」


 一度世界樹を見上げると、気合を入れていつものように世界樹の葉を手に目を閉じる。


 もうすっかり春って感じだから、次は若葉がぐんぐん育つところを想像するか。ただ、想像しすぎないようにしないとな。


 あたたかな陽ざしを受けて光合成し、芽吹いた葉が伸び、大きく広がって行く様を想像しつつ魔力を注ぐ。

 すると最初にぐっと魔力が勢い良く吸い込まれるような感覚があったが、すぐに収まり、最終的にはいつもよりも少しだけ注ぐ量が増えたくらいで終了した。


「ふう……。一瞬ヒヤッとしたけど、何とかフラフラにならないで済んだか。もしかして、手加減してくれたのか?」


 目を開けて世界樹を見上げると、一瞬だけチカッと強い光が瞬いたように感じた。

 正面に目を向けると、いつもよりも更に幹の透明度が上がり、勢いよく幹の中を水が流れている様が見え、その水が輝いているかのようにキラキラ輝いていた。


「まあ今くらいならいいけどな。俺はこうして毎日付き合っているんだから、慌てずにのんびりいこうな」


 なんとなくそんな言葉を世界樹に呟き、そのまままだ冷たい泉の水辺でピチャピチャ遊んでいる子供達の元へと向かったのだった。




 聖地から戻ると昼食にし、子供達が昼寝をしている間に畑の準備をする。


「秋に収穫したあと、念のため腐葉土を混ぜておいたから、土の栄養は大丈夫だよな。よし!ノーム、スプライトたち!ちょっと手伝ってくれ。畑を耕して畝を作りたいんだ!」


 俺の声に、春になってまたたくさん遊びに来てくれるようになった精霊達が楽しそうに「おー!」とばかりに手をつきあげ、畑の草や土を動かし出した。

 春に撒くのは、小麦と芋、それに各野菜だ。一度に撒くと一度に出来る可能性があるから、野菜は少しずつ時期をずらして種を蒔く予定だ。

 野菜の種は、今年も子供を預ける挨拶に、とシンクさんが様々な種類の種を持って来てくれた。小麦は収穫した時に、春の為に別に種を取っておいてある。


 楽しそうにわちゃわちゃ動き回る精霊達にまじって、俺もドワーフ達に作って貰った鍬を畑に入れた。

 その後は、昼寝から起きて来た子達がどんどん加わって、あっという間に今日の予定を終えた。


「よーし!じゃあ、アインス達も返って来たし、今日は森へ行こうか。何か果物が実っているかもしれないし。あと、薪も拾ってくれなー!」

『『『『『はーい!(ギャウ!)(ワンッ)(ニャー)』』』』』


 畑仕事をしている間に、午後も訓練だ!と出て行ったアインス達が戻って来たので、雪が解けてから初めてこの周囲の森を探索に出掛けることにした。

 冬の間にマジックバッグへ入れておいた果物はほとんど無くなり、そして倒木以外の薪はほぼ使いつくしてしまっていたのだ。


 アインス達に子供達を頼み、俺もマジックバッグにどんどん薪を拾っては入れ、野草を採っては入れて行った。たまに子供達が持って来てくれた薪や薬草などもマジックバッグへどんどん入れる。


『ギャウギャウッ!』

「うをっ、今度はこっちからか!」


 ドンッとキキリに足を押され、よろけた頭上を何かがブーンと音をたてて通り過ぎて行く。


『おっ、おやつか!』


 そして後ろでバクバクとツヴァイがその何かを食べている音を、あまり耳に入れないようにしゃがんでキキリに目線を合わせる。


「さっきの俺を狙ってたのか?……なんか活発に活動しているな。さすが春、ってことか」

『ギャウゥギャ!』


 春の森は虫や冬眠から目覚めたのか小動物に爬虫類、様々な生き物の気配に満ちていた。あっちでがさがさ、こっちでカサカサと、その生き物がたてる音があちこちから聞こえて来る。

 俺はその気配に気づく筈もなく、キキリに守られながら採取しながら進んで行くと、前方から歓声が聞こえて来た。


「おおーい、どうしたんだ?」

『おーーーーイツキーーー。なんか珍しい果物だってさーーー』

「おおっ!今、そっち行く!キキリ、行こう!」

『ギャウ!』


 小走りで向かい、子供達が囲んでいたところに着いて目に入ったのは。


「なんだ、これ……?こんな色の果実なんて、初めて見たな」


 そこにあったのは、ヒョロヒョロとしたまだ細い、いかにも若木に実った不自然な程の大きさの、真珠色の光沢をもつ大きなリンゴ程もある実だった。その色からも、一見果物のようには見えない。

 俺の腰くらいの背丈なのに、その上部付近にそんな大きさの実が三つも実っていたのだ。


『なーーー、変な木と果実だろーーーー?』

「うん、本当に変だな……。これ、魔性植物、とかじゃないよな?なあ、スプライトたち、この木のこと分かるか?」


 集まっていたスプライトたちに聞いてみると、皆手をバタバタさせて大騒ぎになった。

 聞いたはいいが、スプライトたちの声は聞こえないんだよな……。

 チラっとドライを見ると、ため息をつきつつ通訳してくれた。


『とても珍しい木だそうです。この時期に五日間だけ生えている木だと。なんでも一日目に芽を出し、二日目に若木となり、三日目に枝と葉をつけ、四日目にこの実を実らせ、五日目に枯れるそうです。……ああ、確かに魔力を纏っているから魔性植物の一種ですね』

「ええっ!木なのに、たった五日しかこうして寿命がないのか!それに魔性植物って……」


 オルトロスと初めて出会った日に襲われたことを思い出し、無意識に一歩、二歩と下がる。


『ん?ああ、この木は生き物を襲わないですよ。……ふむ。それに、どちらかというと魔性植物というか、精霊に近い属性を持っているようですよ?あと、僕たちが初めて見たのは、五日間しか生えていない、という理由よりも、もう数十年この森で見かけることが無かったからのようです』


 おおお、精霊に近い木なのか!それに数十年ぶりなら、俺達が知る訳ないもんな。じゃあ、本当に貴重な木なんだな……。


 下がっていた二歩を進み、しみじみと木を眺めていると、足元のスプライトたちがしきりに手を動かしていた。


「ん?もしかして、果実をとってもいいのか?この果実は、この木にとって大切な種となるんじゃないのか?」


 そりゃあそれだけ珍しい、と聞くとちょっと欲しくなるけど、貴重すぎて種の生存がかかっているのなら、さすがに採るつもりはない。


『ふむふむ。精霊に近い種なので、種で生える訳ではないそうです。本当に不思議な木ですね。植物なのかも疑わしい。それで、その果実はとても貴重な物だから、採っておくといい、ってしきりにスプライトたちが言ってますよ』

「え?いいのか、俺が採って?」


 しゃがんでスプライトたちに聞くと、うんうんと全員に頷かれた。


 そこまでスプライトたちが勧めるなら、採らして貰おうかな?次にアーシュが来たら、聞いてみればいいか。


 そう思いつつ、興味津々な子供達にこの果実を採ることと、後でアーシュに聞いてみることを告げて果物に手を伸ばした。

 すると。


 ポトッ。


 木から果実が自然と落ち、伸ばした手に納まった。驚きつつマジックバッグに入れ、次の実に手を伸ばすと。


 ポトッ。


 またしても手に落ちて来る。次は落ちることを想定して手を伸ばすと、やはり自然と落ちて俺の手に納まった。


『ええーー、勝手にイツキの手に落ちて来たよ!』

『木が、望んで落ちた、ようです』


 そのクオンとセランの言葉に子供達が騒ぎ出す。


 本当に不思議な果実だよな……。まあ、でもアーシュなりドライアードに聞いてみないと分からないしな。


 この果実が本当に果実なのか更に疑わしくなったが、とりあえずそっとマジックバッグに入れた。 


 そうしてしばらく皆でわいわいと騒いだ後、更に森を探索して木苺を見つけ、皆で味見をしつつ摘んだのだった。







****

春になり、3章となりました!

これに合わせて、適当に考えたタイトルを変更してみました。

(託児所っぽくないですしね)

新しい子は次か次あたりに出ると思いますので、どうぞよろしくお願いします<(_ _)>

 

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