第50話 なんだか俺は特殊な存在だったようです
しばらくパニック状態の俺に、辛抱強く魂の管理官が語ってくれたことによると。
「はあ……。あの時、俺がこの世界にこぼれ落ちたのは完全なるイレギュラーなことで、こうして俺が自我を保ったまま人の姿をとれているのが不思議だ、ということですか?」
「そうです。私は確かにあの時あなたの魂をしっかりと誘導していたのに、何故か気づくと貴方がこぼれ落ちていたんです。今思えば、貴方が魂の列からこの世界に一人で漂っていたことからも、貴方の魂の性質だったのかもしれませんね」
俺の元々の魂の由来はこの世界で、それが地球で生を受けた。そのことが俺の魂に影響を与えたのではないか、ということだ。
まあ、俺にはさっぱり分からない次元の話だし、今更のことなのでそこまでは理解できなくてもまあ、いいかな。でも、今の俺の状態だけは聞いておかないとな!
「あの、それで。魂の状態でこの世界へ落ちた俺は、一体どういう状態なんですか?それとも今回は俺のことを回収しに来た、とかですか?」
世界に落ちた当初は、この魂の管理官が回収に来てくれないかな、と思っていたことを、懐かしく思い出しつつ尋ねてみる。
当然俺としては今子供達の元を離れたくないが、とりあえず話を聞いてみないことには分からない。
「いえいえ。最初は回収することも考えましたが、私も貴方がこの世界で人の姿を得たとは思いもよらず、しばらくすれば魂として管理室へ戻って来るだろうと思っていたのです」
まあ、そうだろうな。俺もあの時、なんで森の中に斎藤樹としての姿でいたのか、本当に理解出来なかったしな。
「では、どうして今回こうして俺と対話を?」
「ええ。それは貴方が神獣や幻獣、世界の守護を担う存在の後継者である子供達を育て始めたこと、それに世界の減衰と共に失われていた世界樹の守り人を新たに生み出したことで、滅びへと向かっていた世界が再び活性化し始めたことで、私が貴方の存在に気づき、今回そのことについてお願いがあってここへ招待した次第です」
「えええっ!この世界、もしかして滅びそうだったんですかっ!!」
それから詳しく聞いた処によると、この世界では、人間、獣人、その他亜人で争いが絶えず、もうずっと長い間、それこそ千年近くもの間、安静の時代は全くなかったのだそうだ。そのこともあり、魂の流出は相次いでいたらしい。
この世界は世界の守り人として世界創生と同時に生まれたドラゴン、キキリのお父さんの古龍と、世界の安定の要としての世界樹、そしてその守り人のハイ・エルフがおり、その補佐として世界の四方八方を守護する神獣、幻獣の守護者が守護地を守っているのだそうだ。
だけど、何百年と続く争いで世界は争乱で満ち、神聖なる守護地も何箇所も汚されてしまった。その影響でどんどん神聖、幻獣は数を減らし、そしてとうとう約百年前に世界の人口の半数近くが失われた大きな戦争があり、その余波で世界が汚染されるのを肩代わりした世界樹の守り人のハイ・エルフが失われてしまった。
そこから更に守護地の汚染は進み、どんどん世界から精霊も姿を消し、神聖、幻獣の次代である子供達が成獣できない程になってしまった。
このまま世界は終焉へと向かうのか、と思われていた時に、アーシュが俺を見つけたのだそうだ。
ええっ、ちょっとまてよ。そんな世界に俺の魂を戻そうとしてたってことだよな!
「いえ、確かにこの世界は衰退へと向かっていましたが、終焉を迎えるのはそれこそ数千年、数万年も先のことです。そう簡単に世界は滅びませんよ」
まあ、それはそうか。そりゃあ世界がそうほいほい滅びる訳ないもんな!だったら俺も、本来はその戦争のさなかに生まれ変わる筈だった、ということか。……それよりも皆とのんびり過ごせる今の方が、俺としては良かったのか?いや、でも転生だし、俺の自我がないんだから関係ないのか?
「でも、だったらなんで俺がその世界の存亡なんで壮大なことに関係があるんだ?そんな大それたこと、俺には到底無理だしやっていないよな?」
元々アーシュに摑まって、アインス達と一緒に過ごして、肉を焼いただけだもんな?
「そうですね。何故そのような状態になったかは私にも未だに解明出来ていないのですが、貴方の存在が今のあの世界の状況にピッタリだったからですね」
それから説明されたことによると、どうやら俺はこの世界にきちんと転生した訳ではなく、ただ魂の状態で自我を確立して存在しているのだそうだ。
まあ、確かに転生はしてないよな。この世界で親から生まれた訳でもないし。それに自我を確立というか、確かに前世の斎藤樹としての自我がそのまま続いているのは確かだ。
「んん-ーーー?じゃあ、もしかして俺ってこの世界では人間ではない、ってことですか?」
「そうですね。ただの人間ではありませんね。恐らく、斎藤樹としての自我があったから前世の姿を維持しているだけで、本来ならばどのような姿にでも変化できた筈です。それこそ存在が魂そのものですから」
「お、おおう……。ようするに、この世界では俺は魂のままだったってことですね」
「いえ、世界に顕現する時に斎藤樹としての肉体を存在として獲得していますので、魂のままという訳ではありませんが、分かるように言えば魔力で作った肉体だという感じですかね」
ふむふむ。じゃあ、こうして斎藤樹としての姿をとっているのは俺の自我が無意識に選択したからで、俺が例えば犬の姿をとりたい、と強く望めば犬になれる筈、ってことか?いやいやいや。無理だから!前世の自我がある状態で、人間以外になることを想定できる訳ないだろうっ!!
「ふふふ。なら、若い頃の姿を思い描いたらどうですか?恐らくすぐには変わることはないと思いますが、若返ることはできますよ?」
ほおう。転生の定番の若返り転生ってことだな!って、自分でやるなんて出来るかーーーーーっ!!あれは、神様がやってくれるから出来ることだろう?自分でやれ、ってなんだよそれっ!っていうか、この世界に来てもう一年以上経ったんだけど、今更そんな転生の設定なんてやってられるかよっ!!
「はあ……。もう、いいです。でも、じゃあ、俺は人間じゃないならこれからどうなるんですか?」
「え?どうにもなりませんよ?貴方が自分を斎藤樹として自覚している限り、そのままですね。貴方のような存在は初めてのことですので、これからどうなるか、実は私にも分からないんですよねぇ」
「わ、分からないって……。まあ、今の生活に満足しているから、もう、気にしないことにします!それで、どうして俺が世界の存亡に関わって来るんですか?」
もう、なにがなにやら分からないから、考えても仕方がないことは放棄だ、放棄!どうせ一度は死んだ身に変わりはないんだから、どうとでもなれ、ってな!!
「それは貴方が『魂のゆりかご』と世界に定義されているからです。その名の通り、貴方は世界の争乱から安定を司る神獣、幻獣の魂を癒し、安定させて成長させた。そしてその結果、世界の守護の力が増し、世界樹の守り人をも復活させたのです」
ええと……。アーシュが言ってた、俺の称号、ってヤツだったよな。世界に定義されると称号になるのか?世界が荒れると、世界を安定と守護を司る神獣、幻獣が減る。でも俺のその『魂のゆりかご』の効果でその神獣、幻獣を成長させて世界を安定させた、と?
「はあ?だって俺がこの世界にきて、まだ一年だぞ?それに子供達だって確かに子供は増えたかもしれないけど、まだ一人も成獣してないし!そんなに影響ある訳ないって!」
「そうですよねぇ。だから私も驚いて今回貴方とこうして連絡をとったのです。まあ、世界樹に関しては、貴方と相性が良かったので、復活がかなり早まったのだろうと予測できますけどね」
あの日課か!!アーシュがしきりと俺がこの場にいるのはどうとか言っていたのは、そういうことだったのかっ!だったら間違いなく、俺のその『魂のゆりかご』の効果を最大限に利用していたのはアーシュってことだな。はあ……。もう、いいや。どうせ俺がやることは、子供達と一緒に過ごすことだけしかできないんだし。もう、何も気にしないことにする!やれって言われたことをやってればいいよな!
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すいません。説明(というかイツキのツッコミが)長くなり、終わりませんでした……
と、いう訳で、あの赤ちゃんはハイ・エルフです!(まあ、世界でただ一人ですけどね)
まあ、イツキの設定はこんな感じですが、やることは子供達と一緒に過ごすことですけどね!
どうぞよろしくお願いします<(_ _)>
あと5日発売の書籍が早い本屋では並びだしたようです。そちらもどうぞよろしくお願いします<(_ _)>
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