第41話 皆でお泊りするようです 1

 皆でかまくらを作った日の翌日も雪がちらつき、今日は久しぶりに雪がやんだ。

 これだけこの場所で雪が降るのは珍しい、とアーシュも言っていたが、お陰で更に降り積もった雪は四十センチ程となり、広場ではハーツが喜んで走り回っている。


 かまくらを皆で作ったのが楽しかったのか、昨日ももう一つ隣に小さめのかまくらを作った。そしてそちらがハーツの寝床となり、最初に作った大き目のかまくらは皆の遊び場となっている。



「お、クオンとキキリ、それにライもかまくらで食べるのか?じゃあそっちに運ぶなー。ハーツも走ってないで、ご飯だから戻っておいでー!」

『『『『わーい!(ワンッ!)』』』』


 今日もセランにフェイはお休みだ。クー・シーの集落の子供達もこの積雪が溶けるまではお休みだろう。だから今日もロトムにクオンとライ、それにキキリとハーツにアインス達といったメンバーだ。


 やっぱり雪が降らなくなるまで、ほとんどこのメンバーになるんだろうな。フェイは雪でも最近では軽く浮けるようになったと言ってたから平気だろうけど、セランが雪の中を跳ねまわるには、ちょっとまだ幼いからなぁ。


「じゃあアインス達の肉はここに置くな。おかわり分は今焼いているから!」


 アインス達の前に、いつもの大皿にドン!と肉を山盛りにし、クオン達の個別に用意した昼食を木の板のお盆にのせてかまくらへ運ぶ。入り口からのぞくと、皆が身を寄せ合って、キラキラした瞳でご飯を待っている姿がかわいい。


「じゃあ、ロトムとクオンとキキリ、それにライとハーツのご飯はこれな。慌てないで食べるんだぞー」

『『『『『うん!(ワンッ!)』』』』』


 皆がうれしそうにご飯を食べだす姿を見守ってから、竈へ引き返して肉を焼いた。

 そうして子供達が食べ終わってから自分の昼食を作って食べていると。

 いつかのようにクオンが目をしょぼしょぼさせながら俺の膝に飛び乗って来た。最近では自分で飛び乗れるようになったから、撫でて欲しい時などはこうして飛び乗って来るようになったのだ。


「クオン、眠いなら部屋で昼寝しておいで。どうせ今日は皆でお泊りだし、まだ時間がたっぷりあるんだから」

『んーーー。みんなでお泊り、うれし……キュー』


 膝の上でくるくる回ることなくそのまま丸まって寝てしまったクオンに、これはかなり眠そうだとそのままにしてご飯を食べ終えた。

 そうして食後の片付けの為にそーっと膝の上のクオンを抱き上げ、そのまま揺らさないようにかまくらまで運ぶと、丸まって寝ているロトムとお腹を出して眠っているハーツの隣に毛布を敷いてその上にクオンを寝せた。それを見ていたキキリが、クオンにそっと寄り添ってくれた。


 そのまま目線でキキリにクオン達を頼み、寝ていなかったライを連れて台所へ戻る。


「ライは今日は昼寝はしないでいいのか?眠くないか?」

『ねむく、ない。ドライに、飛び方、教わる!』


 ライは俺の顔の横をスーッと飛んで食事を食べているテーブルへストンと着地した。


「ライは、飛び方はどんどん上手になっているよな、ドライ」

『はい。空中での静止など、今でもアインスなんか苦手ですよ。きちんと静止もできてますし、この短期間にかなり上達していますね』


 最初は小さい体でヨロヨロ飛んでいたライも、今では低空を飛ぶ分には何の支障もない程なのだ。生後一年も経っていないことを考えると、幻獣としては大分成長が早いのでは、と俺も思っている。


『で、でも、僕、身体が小さいから……。もっと飛べるように、なれば、もっと成長できる』


 そっか。幻獣は力が馴染まないと身体の成長もしないんだったよな。でも、最初は鳩くらいの大きさだったのに、今では烏くらいになっているのだから、十分成長している。


「サンダーバードは元々それ程大きくないんだから、ライは順調に育っているだろう?」


 ライを毎日送って来る父親は、全長ニメートル程だ。鳥としては大きいが、他の幻獣と比べると確かにそれ程大きい種族ではない。


 そうか、ライは成獣しても今のアインス達よりも小さいんだな。なんか大きい種族が多いから、俺的にはちょっとホッとするけどな!


『ええ、成長具合としてはかなり早いですね。イツキが来る前は、幻獣は生まれて何年も雛から成長できないのが普通でしたから。僕たちのような大型になれば、十年単位でほとんど成長できなくてもおかしくなかったんですよ』

「へ?え、えええぇええっ!!な、なんだって!神獣とか幻獣が普通の動物のように成長しないって聞いたけど、そんなに成長に時間がかかるものなのか?」


 そりゃあかかるだろう、って思ってたけど、雛のまま十年単位とかだったら、成獣するには百年とかかかるのかっ!想像の上をいったなぁ……。せいぜい十年、二十年くらいだと思ってたよ。さすが神獣、幻獣ってことか。スケールが違うな。


「じゃあ、生後一年もたたないでそれだけ大きく育ったライは、とんでもなく凄い、ってことじゃないか。尚更焦ることなんてないだろう?」

『で、でも、僕は小さいから、飛べないと、移動もあんまり出来ない、し』


 ああ、それは、なぁ。アインス達はずっと脚で歩いてたけど、身体が大きいから俺よりも移動速度は早かったしな。その点は確かに小さいと、皆と一緒に行動するのは大変か……。


「でも、誰でも雛の頃はそうだろう?確かに身体が小さいと移動は大変だろうけどさ。そこは皆に乗せて貰えばいいんだし。もうライは移動くらいなら安定して飛べるし、もうちょっとゆっくりと子供時代を楽しんでもいいんじゃないか?」


 思えばライは生後すぐにここに来たが、いつもアインス達を気にしてしきりに羽を動かしていたし、他の子供達のことも羨まし気に見ていた。

 ほんの小さな雛の時代なんて、ほんの三か月くらいしか無かったかもしれない。幻獣の成長速度を考えると、いくら鳥系だと考えても早すぎたように思える。


『そうだぞーーー!ライは、俺達が飛行訓練をしてどんどん飛べるようになったから、焦らせてしまったかもしれないがなーーー。俺達はイツキが来るまでほとんど成長してなかったからなーー!』

『そうそう。朧気にしか覚えてないが、何年もずっと雛のままだったよな?』

『そうですね。恐らく僕達は生まれてもう、十年は経っているのではないですかね?確かにここ一年でぐっと成長しましたが、それもイツキが来てからですし』


 ……はあ?アインス達って、そんなに生まれてから経ってたのかっ!!


「ええっ、そうだったのかっ!最初は雛だったから、俺は生まれてそれ程経ってなかったのかと思ってたぞ!親が大きいから、雛まで大きいんだなって」

『ワハハハーー!イツキはそういうとこ、気にしないもんなーーー!俺達も、さすがに生まれたばかりはあんなに大きくはなかったぞーーー』


 ……言われてみれば、俺と同じ大きさの卵と考えれば、さすがに大きすぎるか!!キキリなんてドラゴンの赤ちゃんなのに、そういえば小さいもんな!


「そうかー。だからアーシュがとにかく子供と一緒にいればいい、としか何度聞いても言わなかったのは、アインス達がそれでどんどん成長していたからなのか。そう考えると、なんで俺がいるだけで?って思うけど、まあ、どれだけ考えたって分からないものは、分からないしな!」

『フフフ。そういうところが、いいのかもしれませんね。イツキのおおらかさが我々に感染して成長を促しているのでしょう。だからライ、貴方は急がないで、もっとじっくり一つ一つ出来ることを増やして、そしてその分ゆっくり成長していけばいいんです』


 おお!おおらかさが感染かー!って、俺はおおらかっていうか、過ぎたことにこだわらない気質なだけだがな!だから何事にもそれ程執着もしないから、やり込むってこともないし程ほど出来ればいいかと流すから人より秀でた処も全くないんだよなぁ……。そこは子供達には似て欲しくないけど、まあ、皆凄いからそこは大丈夫かな!


『……わかった。じゃあ、今は、もっとじっくり風を捉えてみる、よ』

『そうそう、それと羽も鍛えておけよ!身体の筋肉も自分の身体を自在に動かすには必要だからな!』


 ハッハッハー!ってツヴァイ……。やっぱり相変わらずなんだなぁ。その内、じっくりと訓練の様子を見に行こうかな。


 机の上のライの頭をそっと撫でると、気が抜けたように気持ち良さそうに目を閉じた。

 そんな姿を見ながら、大切な子供達を預かっているのだから、ただ可愛がるのではなく、一人一人のこともちゃんと見ないとなー、と思ったのだった。








****

纏まらず遅くなってしまいました……

個別に焦点を当てて行こう、その1はライでした。

さらっとアインス達の年齢が出てますが( ´艸`)まあ、それでも子供の年齢ですかねー。


どうぞよろしくお願いします<(_ _)>


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