第39話 雪と共に新しい子が来たようです
「今日はロトムとクオンとライだけだったな。じゃあ、キキリと俺と五人でのんびり世界樹まで行こうか」
『ガウッ!』『キャウッ!』『ピュイッ!』『ギャッ!』
見事に揃った返事と、返事と同時に上がった前脚に、思わず身もだえてしまった。
初雪がちらついた日から半月。最近では毎日のように雪が降るようになった。それにつれて、預けられる子供達は少なくなっている。
今朝は小ぶりになったが昨日から雪が降り続けたので、今日はセランとフェイ、それにクー・シーの集落の子供達はお休みだ。
今日は雪の中の飛行訓練にアーシュがアインス達を連れだしたのでいないが、最近雪が降った日は大体このメンバーにアインス達がいるかどうかになっている。
「結構積もっているなぁ。聖地は大丈夫だと思うけど、足元に気を付けるんだぞ」
この五人は大きさ的には、ロトムが大型犬サイズ、クオンが中型犬サイズ、それにキキリはずっと変化はなく小さめな中型犬サイズだ。ライは鳩サイズから烏サイズに近く成長して来ている。
育てば皆三メートルは超えるサイズになるので、今のところは順調に成長しているようだ。
家の周囲に積もった三十センチの雪を踏みしめながら、ザクザク聖地の方へと進む。
俺が踏んだ深い足跡にわざと嵌ってピョンピョン飛んで歩くクオンの横で、キキリが自分の重みで沈んだ雪をそのままお腹で押して力強く進む姿が微笑ましい。
大きくなったロトムには三十センチの積雪に足をとられることなく楽しそうに進んでいる。
『ピィ……寒い』
「お、ライ。やっぱり雪も降っているし、飛んでいると寒いよな。ほら、俺のフードを開けるから、ここに入るといいよ」
『あり、がと』
ライは寒くなり始めた頃から、大分安定して飛べるようになっていた。ただ雨の日や風が強い日、そうしてこうして雪が降る日などはまだ不安定になってしまうようだ。
頭の脇に飛んで来たライに、被った毛皮のローブのフードを広げ、肩へととまらせた。そして上からフードを軽く被る。
『あたたかい……』
「フフフ。ライがくっついていると、俺も温かいよ。日課が終わるまでは、ちょっと待っててな」
すりっと頬にすりよるライの羽毛の感触に、小さかった頃を思い出して微笑む。
『キャウゥ……いい、な。わたしも、抱っこ!』
「いやクオン、雪で転んじゃうかもしれないから、抱っこは後でな」
『ええーーーー……』
『ガウッ!』
『むぅー。わかった』
クオンは相変わらず甘えん坊だが、最近は少しずつ大きくなっているから、ずっと抱っこして歩くのもつらくなっているのだ。
キキリにポンポンと慰められたクオンが、また気を取り直してピョンピョン飛び跳ねだした。
オルトロス、九尾の狐、それにサンダーバードは主にする属性はあるにはあるが、どちらかというと複合の属性になる。
オルトロスは闇だが、闇は全てを内包する属性だから、成長する為には全てをバランス良く訓練しないとならない。
九尾の狐の狐は火だがどちらかというと幻なので、こちらもバランス良く全ての属性を成長させることが必要だ。
そしてサンダーバードはいうまでもなく雷だが、雷は元々複合属性なだけに、全ての属性のバランスが肝心だ。
まあキキリの古龍は、属性の意味もない程最強種族だからな!キキリはどれだけ頑張っても成長には何十年はかかるらしいし、こうしてみると今日のこのメンバーはしばらくこのまま一緒に過ごせるのかもしれない。
まあ、子供達からしたら早く成長したいと思っているかもしれないけどな!
楽しそうに揺れるロトムとクオンの尻尾を見て和みつつ、ゆっくりと聖地へ到着すると、聖地の花畑も真っ白に染まっていた。
ただ積雪はそれ程ではなく、雪の上で真っ白の花が変わらずに咲き誇っている。
本当に聖地はどこを見ても幻想的な光景だよな……。でも、冬が一番好きかもしれないな。
真っ白な花畑にしんしんとふり積もる雪を見ていると、どこか犯しがたい神聖さが漂い、物音を立ててその静寂を破るのを一瞬ためらってしまう。
じっとそんな光景を見つめる俺を、子供達もそっと見守ってくれていた。
「よし、じゃあ、行こうか。ありがとうな、待っていてくれて」
足跡も何もない真っ白な世界へ一歩を踏み出すと、ピョンッと横をクオンが駆け抜けて行った。
『あっ!クオン、待って!』『俺も行く!』
そこをロトムが追いかけて駆けて行き、そんな二人を微笑ましく見送ると俺は残ってくれたキキリと一緒にライを肩にのせたままのんびりと歩いていると。
『ガウガウガァッ!!』
今まで聞いたことのない声の鳴き声を上げつつ、ビュンッと目の前を白い何かが横切って行った。
「んん?今、何か横切ったよな?キキリは見えたか?」
『ギャウゥ。ギャギャ!』
ふむ。キキリには見えたけど、危険がない相手だったみたいだな。
キキリは俺の護衛、というだけあって、以前一度俺が全く気付かずに蜘蛛の巣に突っ込みそうになった時にも、上から襲って来た蜘蛛もあっさりと倒した。当然蜘蛛の気配なんて、俺にはさっぱり分からなかったがな!
そんなキキリが慌てていないなら大丈夫なのだろう。
そのままとりあえず歩いていると、周囲を走っていたクオンとロトムがさっき見た白い影に向かって行っていた。
「ありゃ。キキリ、あれは大丈夫だよな?」
『ああ、大丈夫だ。まだ生まれたばかりだが、雪の上なら遅れをとらんよ、俺達は』
キキリに尋ねたのに、キキリとは反対から返って来た答えに、これも前に同じことがあったよな、と思いつつ、そーっと振り返ると。
そこにいたのは、顔の大きさが俺の身長程もありそうな真っ白なもっふもふの毛並みの狼、フェンリルだった。
うわぁっ!フェ、フェンリル、だよなっ!さ、触ったらダメ、だよな?絶対今までで一番もっふもふな感触を味わえそうなのにっ!
思わず鋭い銀の瞳のことは気に掛けず、そのふわふわなもふもふの毛並みに見入ってしまった。
『おいっ、こら、そう興奮するなって』『落ち着け!』
『キャンッキャンッ!』
『ガウッガウッ!!』
ついフラフラと近寄りそうになった瞬間、子供達の鳴き声が聞こえてそちらの方を振り返ると。
『ほおう。楽しそうにはしゃいでおるな。これなら預けても大丈夫そうだ。我はフェンリルだ。フェンリルは基本雪がある場所で暮らす。だからこの季節しか子供を預けられないのでな。ここだとあと一月半、といったところか。その間は置いて行くから、面倒を見てやってくれ。頼むぞ』
「えっ!今日からですかっ!!あ、あの、お子さんの呼び名は……」
『ああ、そうだったな。ここに連れて来る前に呼び名はつけたのだ。ハーツという。食事は肉だ。雪が降らないくなった頃、迎えに来る。ではな』
「えっ、ちょっと!お子さんに、ハーツに何か声をって、もういないっ!!ええっ!は、早っ!!」
お互いの尻尾を追いかけてくるくる回っているクオンとハーツを見ている隙に、横を見るともう姿が見えなくなっていた。
「うえぇえええっ!!いっつも思うんだけど、子供を預けるって、育児放棄とは違うんだよなっ!!」
子供を大切にしていることは分かっているが、ついいつも心の内で思っていた言葉が出てしまったのは、仕方がないと思うのだ。
少し強くなってきた雪が舞う中、うれしそうに高速で動きつつはしゃいでいる真っ白な新しい同居人となるワンコの元気いっぱいの姿を、遠い目をしつつぼんやりと眺めてしまったのだった。
****
と、いう訳で、季節限定同居人のフェンリルの子供、やんちゃなハーツの登場です!
フェンリルは毎回作品で出してしまうので、どうしようか迷ったのですが季節限定でメンバー入りに決定しました!
これで春まで新入りは入りません。(これ以上はわちゃわちゃしちゃうので)
どうぞよろしくお願いします<(_ _)>
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